天音さんの治療技術とチーム再編成

 千年世と離れ、俺は北上の様子を見た。


「気分はどうだい、北上さん」

「大丈夫です。この程度では死にはしません」


 いつものクールな表情で言った。

 強がりなのか何なのか。今ぐらいは素直になってもいいと思うけど、これが彼女だ。


 だが、肩は血で滲んでいる。

 天音が包帯を巻いてくれてはいるが、それでもなかなかに痛々しい。感染症とか大丈夫かな。こんな洞窟だし。


「傷口は縫ったの?」

「ええ、天音さんには治療技術を磨いて貰ったので」

「へえ、天音ってそんな器用だったなんて」

「彼女はもともと看護師を目指していたようですよ。だから、腕はかなりのものです」


「天音が!? 現役アイドルなのに?」

「アイドル業は、親の関係者からのスカウトだそうで」


 マジか。そんな話は俺にはしてくれなかったけどなぁ。……いや、けど聞く限りコネっぽい感じだから、そう思われたくなかったのかな。


 ということは、アイドルのスカウトがなかったら、将来は看護師だったんだな。


 北上から聞く限り、かなり勉強していたようだ。

 だが、アイドルの話が来てからは歌や踊りを積極的に頑張るようになったようだな。今や、知名度抜群のウィンターダフネのメンバーの一人か。


 とはいえ、今は無人島事件の影響で活動は自粛中。


 このままフェードアウトするのではと、ネット界隈でも囁かれているほどだ。



「そうか。なら、北上さんの傷も癒えそうだな」

「大ケガも想定していたので医療品を持参しておいて良かったです」

「ていうかモルヒネなんてどこで入手したんだよ。普通、売ってないだろ」


「モルヒネはマーカスの所持品から拝借したんです。かなり前ですけどね」


 そういうことだったのか。

 やっと納得できた。


 そして、気づけばもう昼を過ぎていた。あれから結構時間が経ったな。


 腹も減ってきたが、食糧を節約しなければならない。

 こんな洞窟では食べられるものなんてないだろうからなぁ……。手持ちだけでがんばるしかない。


「水は大丈夫だな。よし、コーヒーでも作るか」

「いいね、私も手伝うよ~。みんなの分を作っておこ」

「じゃあ、インスタントコーヒーの用意を頼む」

「了解!」


 その間、俺はお湯を作る。

 リュックの中からキャンプ用ガスコンロを取り出した。スノーパーク製のお値段もする良品だ。高かったが、組み立ててガス缶をはめるだけでコンロになるシンプルでオシャレな製品だ。

 以前なら焚火をしていたところだが、こんなところでは薪なんて確保できない。


 漂流時代とは違い、装備が十分にあるから便利なアイテムをどんどん使っていこう。



 カップに水を注ぎ、あとは火をつけるだけ。ボタンをカチっとやるだけで一発で点火だ。なんて楽なんだ。



「おぉ~、ガスコンロいいねえ~」



 お風呂から戻ってきた楓が俺の隣に座った。……ボディソープの良い匂いがする。



「いいだろ、これ。軽量コンパクトで持ち運びしやすいから気に入っているんだ」

「良いコンロだね。コーヒー作ってるんだ?」


「ああ、千年世が全員分のコップを用意してくれている。しかもこれ、チタンマグなんだ」


「チタンマグ?」


 スノーパーク製のチタンマグ。一個三千円と値段はするが、軽量で頑丈。シングルタイプなので“直火”も出来る優れものだ。


 それを説明すると楓は「すごっ!」と驚いていた。


「ソロキャンとかしている人は、チタンマグを炙って自分色に染めている人もいる」

「はえ~、早坂くんって本当にいろいろ知っているんだね」


「そういう楓だって北上さんと同じ、サバゲ―女子じゃないか」

「いやいや、あのガチ勢の絆には負けるよ」


 今はまた眠っている北上。

 薬が効いているのだろうな。

 寝顔は最強に可愛い。


 こっそり写真撮っておけば良かったな。


「北上さんって絶対、軍人だよね」

「まず、お父さんが軍人だもんね。たまに海外で訓練を受けているようだし、射撃場で実銃を撃ったりもしているとか。動画を見せてもらったことあるよ」


 幼い頃から兵士として育てられてきたんだろうな。でなければ、あんな動きとか銃器の扱いなんて出来ないって。

 軍事関係なら、俺よりも詳しそうだし。


 本当、アメリカ軍からお呼びが掛かってもおかしくないぞ。



 話しているとコーヒーが沸騰した。

 これで一個目完成だ。



「はい、楓。熱いから気を付けて」

「ありがとう、早坂くん」



 俺は二個目のコーヒーも沸かしていく。作業を繰り返していると天音たちもお風呂から上がってきた。随分と掛かっていたな。



「お待たせ~」

「おう。こっちはコーヒー作ってた。昼はこれで我慢してくれ」


「わぁ、良い香り」

「インスタントコーヒーだけどな」


「ううん、とても贅沢だと思う。前なんてお茶を飲むのにも一苦労だったし」

「それもそうか」


 笑いながらも俺はコーヒーを振舞っていく。全員に配り終え、俺もコーヒーを味わっていく。


 まずは冷まして――それからゆっくりと口をつけていく。……う~ん、コクがあって味わい深い。インスタントなのに、高級豆のような感じさえある。



 まったりとした昼を楽しみ、休憩後……いよいよ、脱出する為の突破口を探しに行くことに。だが、北上がダウン中だ。眠っているので起こすわけにはいかない。




「俺、天音、楓にしようと思う」


「え~! 私はお留守番!?」

「分かってくれ、千年世。君は優れた能力を持っているから、みんなを守ってやってくれ」

「うぅ~、仕方ないかぁ。分かった。早坂くんの命令だから従う」



 それはありがたい。

 財宝部屋を任せ、俺チームは再び周囲を探索だ。



「がんばろうね、早坂くん」


「ああ、天音。楓も頼むよ」


「あいよ~。準備するねー」



 決まったところで、出発。

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