甘く、とろけるようなキス

 再び戻り、みんなと合流。

 天音たちは岩に腰掛けて待っていたようだ。こちらに気づくと安堵して迎えてくれた。


「おかえりなさい、早坂くん」

「ただいま、天音。みんな」


「連絡できた~?」


「なんとかね。けど、マーカスの作った出入口にはホワイトウォーターの軍人が待ち構えていた」


 俺がそう説明すると、全員驚いていた。

 軽い交戦状態になったことも話すと、空気が張り詰めた。特に天音と草埜は不安気だ。気持ちは分かる。俺もプロと戦うなんて、正気じゃないと思う。出来れば避けたい。


 でも、向こうは殺しに来ているからなぁ……。なら、こっちも殺す気でやるしかないんだよな。


「……これからどうするんです?」


 眠っていた北上が体を起こした。

 さすがに痛そうだな。


「この財宝部屋を死守するしかないだろうな。それか、最初のプランで軍人たちを倒しに行くか……」

「うーん、悩ましいところですね。武器はありますが」

「どのみち、出入口がなくて脱出できないんだ。本州組を待つしかないかな」


「それか、他の道を探すかですね」


 地図にはもうこれ以上の道はなかった。ここが最後の場所だったからなぁ……。となると自力で探すしかない。


 でも、待てよ。


 マーカスから仕入れたC4爆弾が一個あるんだよな。


「北上さん、C4爆弾の使い方分かる?」

「もちろんですよ。……って、洞窟を爆破する気ですか」


 呆れた視線を向けられた。

 もちろん、そんなわけはない。


「マーカスがC4を使って穴を開けたんだ。なら、内側からも可能じゃないかって思ったんだけど」


「場所次第ですね。普通に爆破しても崩落するだけですよ。マーカスは、かなり運が良かったのではないかと」


 あの『罠部屋』に通じてしまったのだから、偶然にしても凄いな。とはいえ、こちらの位置をGPSで把握していたようだし、もしかしたら、ある程度は予測して爆破・掘削したのかもしれないが。



「爆薬の量も考えて使わないと……か」

「はい、マーカスはあれでもプロでしたから、その辺りかなり計算していたと思います」


 なるほど、腐っても軍人だった。



「ていうか、絆も計算してやれるんじゃない?」



 楓がボソッとつぶやいた瞬間、全員が納得した。そして、みんなの視線が北上に注がれる。



「そうだよ、北上さんなら出来るよ」


 大伊も同意見のようだ。


「私も北上さんに任せていいと思う」


 千年世も強く推していた。



「そう頼られると照れますね。……分かりました。負傷している中ではありますが、せめて脱出できるよう努力しますね」


「頼むよ、北上さん」



 これで当面のプランは固まった。

 まずはこの場所を死守する。財宝を奪われない為だ。

 北上さんを中心した洞窟脱出を図る。チームは俺、北上、天音でいく。あとは爆破できそうな場所があればいいのだが。



「しばらくは洞窟生活かな」

「そうなるな、大伊さん。あ、食糧って何日分あったっけ?」

「通常なら一週間分。一日二食にすれば十日持つかどうか。でも、お菓子とかもあるし、がんばれば二週間以上かな」


「それなら余裕だ。それまでには本州組が駆けつけて来るだろう。よし、脱出を模索しながら防衛体勢を維持しよう」



 おお~! と、全員の意見が一致した。これで決まりだ。



 * * *



 こんな洞窟には、当然風呂なんてない。ただ、少し歩くと小さな湖があった。多分、海水が流れ込んでいるんだろうな。


 そんな場所を風呂代わりにする女子たち。


 俺の視線なんてお構いなしだ。



「良い眺めだ……」

「どこを見ているの、早坂くん」


 ジト目の千年世によって強制的に顔を逸らされる俺。おいおい、両手で俺の顔をグキッとするな!


「悪いな、千年世。俺はもう大人の階段を上ったんだ」

「え……そうなの? 誰と?」


「そりゃ、みんなと決まっている」


「うそ……」

「嘘なものか。もしよければ千年世も加わる?」


 少し複雑そうにする千年世だったが、割とあっさり返事が返ってきた。


「いいよ。私はもともと早坂くんについて行くつもりだったから」

「それは嬉しいな。でも、どうして」

「前に言ったじゃん。助けてくれたからさ」


 ああ、昔のアレか。

 俺の黒歴史か。思い出したくない中二病時代の話だ。あれは忘れよう。


「正直言うと、俺は千年世みたいな小さくて可愛い子が好きだったんだ。だから、あの時は助けた」

「……そ、それは意外だった。じゃあ、両想いだったんだね」

「そういうことになる。でも、この無人島でいろんな女の子と出会ったからね」


「今は天音さんが一番なんだ」

「……うぅ。分かるんだな」

「そりゃ、いつも視線が天音さんだからね~」


 そういうことか。案外、他の女子も察しているのかも。そんな天音たちは水浴びをしている。もちろん、全裸で……。


「みんな綺麗で可愛いなぁ」

「ちょっと、早坂くん。私の方を向いてください」


 また“グキッ”とされ、俺は千年世と目を合わせた。その口には、スティック菓子があった。


「ちょ、千年世?」

「はい、どうぞ……食べてください」


「た、食べてくださいって。まさかポッキーゲーム的な?」


「今なら、みんなお風呂に集中して見ていないから、どうぞどうぞ」



 どうぞ……って、まあ千年世がいいのなら、いいか。では、遠慮なく。俺はボリボリとスティック菓子をかじっていく。

 

 どんどん近づく唇。


 その度に千年世は頬を赤くしていった。


 やがて、千年世の方からお菓子を食べて俺の唇に重ねてきた。


 両頬を押さえられている俺は逃げ出せない。


 甘く、とろけるようなキスをされ、俺の脳はビリビリと焼けた。


 なんて気持ちの篭もったキスなのだろう。好き、愛してるしか感じない。千年世がここまで俺を思ってくれていたとは……。


 俺も気持ちに応えるように、千年世に触れていく。



「……千年世、ここでシていいか」

「は、恥ずかしいので……みんなが寝ている夜で」

「分かった。約束だからな」


 指切りを交わし、約束した。

 今夜が楽しみだ。

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