ここは……天国かッ!

 だけど、洞窟内では電波状況が悪い。

 いったん、マーカスの通ってきた出入口へ向かわねばならないようだ。


 双子はどこかに隠れ潜んでいるようで、連絡があるまでは待機しているようだ。



「それじゃ、俺、千年世……あと一人ついてきて欲しい」

「私が行くよ。今のところ役に立ててないから、少しでも貢献したい」


 手を挙げたのは大伊だ。


「分かった。天音は北上さんの看病を頼む」

「うん、こっちは任せて」


「残り、楓と草埜さんは財宝を出来る限り土嚢どのうぶくろに詰めてくれ」


「了解」

「がんばるよ~」


 二人とも協力姿勢を示してくれた。

 この場を任せ、俺たちは通路を戻っていく。


 UZIIウージーを構えつつ、ゆっくりとした足取りで向かう。慎重に行かないと、いきなり向こうからプロ集団が現れるかもしれないからな。



「ところさ、千年世ちゃん……変わり過ぎでしょ」


 大伊が千年世に話しかけていた。そういえば、この二人が話すところは珍しい気がする。


「え、わたしってそんな変わりました?」



 俺も大伊も一緒になって頷く。

 以前はこんな頼もしい感じではなかった。か弱い少女って感じで……むしろ守ってあげなきゃって感じの子だった。


 だけど、一ヶ月の訓練を終えて顔つきが変わっていた。まるで歴戦の戦士のような、そんなソルジャー感バチバチな女子になっていた。



「千年世、筋肉凄いよな」

「あ~、最初はちょっと嫌でしたけど、今は鍛える方が楽しいです! 腹筋も割れちゃうかも」


 すげぇ楽しそうだ。

 ていうか、マーカスを容赦なくぶち殺していたし、北上の影響凄すぎだろ。生まれが違ったら、有能な指揮官だったろうに。


 今の千年世は、迷彩服がよく似合うようになった。


 これなら、北上と並ぶ戦士になれるかもな。



 財宝のあった地点を出て、分岐点へ戻った。さきほどは入らなかった“左”へ向かう。こっちはドクロマークがあった気がするんだよなあ……。


 罠の可能性は大だ。


 けれど、マーカスがこちらから来たのなら、出入口があるはずなんだ。



「千年世もここから来たのか」

「そうですよ。ただし、罠がありました。かなり危険度の高いヤツです」

「やっぱり罠だったんだ。どんな罠だ?」


「洞窟の壁に仕込んである毒矢ですね。無数に飛んでくるんです」


 うわ、ありがちな罠だな。

 それを壁に仕込んだ海賊たちも凄いけど。


「他にはあるの?」

「はい、大伊さん。落とし穴がありました。底には針地獄ですね」


「うわぁ……なんだか映画のインディ・ショーンズみたいだね」


 俺もそれ思った。

 でも、それほどまでにお宝を守りたかったんだろうな。

 気を付けながら左の通路へ入った。


 千年世のおかげで罠を踏むことなく先へ進めた。なるほど、既に発動した落とし穴が見えてるな。中を覗くと亡骸もあったから、ここへ入った人が過去にいたんだな。それとも昔の海賊かな。


 罠を避けてなんとか出入口へ。


「ここか。なかなかギリギリだな」

「うん。それ、あの男が無理矢理作った穴だからね。C4を使ったみたい」


 なかなか無茶するな。

 下手すりゃ落盤。大変なことになるのにな。


 だが、ハシゴまできちんと設置してあるから上り下りは楽か。



「ここまで来れば電波は届くだろ、千年世」

「問題ないよ。姉妹に連絡取っちゃうね」


 あとは千年世に任せた。

 その間、俺は大伊に視線を向けた。

 すると彼女は居心地悪そうに視線を泳がしていた。……一時間前にいろいろあったからな。



「あ……早坂くん、そのさ……。私、嬉しかったよ」

「な、なにが?」

「肌と肌が触れ合うって、あんな楽しいんだね。もっと触れ合いたいな」

「お、おう。そういう時間もこれから出来るさ」


「でもさー、私も異常だけど、みんなも異常だよね」

「どういう意味だ?」


「普通、こんなハーレム? みたいなこと、ないでしょ。なんでみんな早坂くんラブなんだろうね。不思議に思う」


「この島で生活したことで俺の見方が変わったとか、かね」


「それはあるね。君、学校では全く存在感なかったし、この島で会うまで知らなかったもん。普通に暮らしていたら接点なかったと思う」


 その通りだ。俺だって、この島の生活がなければ、天音や北上……みんなと普通に話すなんて機会はなかった。


 そういう意味では無人島に感謝したい。


「こうなったら、みんなと一緒に住むしかないかな」

「そうだね。責任取って貰わないと困る」

「大金もできるし、余裕さ」

「期待してるよ、旦那様」



 いきなり旦那様とか言われ、俺は顔が熱くなった。今の……破壊力すげぇ。


 ドキドキしていると、千年世の連絡が終わったらしい。



「完了しました。双子には本州と連絡を取るよう指示しました」

「助かった。リコたちに船を出してもらい、それで財宝を運び出そう」

「はい。そのように伝えます」


 再びトランシーバーで連絡を取って貰うが、外から気配を感じた。……この重い足音。規則正しい動きはプロのもの。


 間違いない、軍人だ。



「千年世! 避けろ!!」

「――ッッ!!!」



 俺は千年世の手を引っ張った。

 直後、小さな出入口から銃弾の雨が降ってきた。……クソッ! 気づかれたか。


 しかも、スモークグレネードも投げ込んできて、視界が悪くなった。


 まずい……!


 突撃される。その前にUZIIウージーで反撃した。


 そのせいか、ヤツ等は向かってこなかった。慎重なんだか臆病なんだか……。いや、向こうは軍人なんだ。状況を冷静に判断しているんだ。



「千年世、ここを塞ぐか」

「それしかないでしょうね。手榴弾を投げ込んでください。で、すぐに退避しましょう」

「崩落するが……殺されるよりはマシか」



 俺はマーカスから奪った手榴弾を取り出し、ピンを抜いた。それを穴の方へ投げ込む。すると、蜘蛛の子を散らすような足音が聞こえた。焦ってるな。



「私達も退避を!! 早坂くん!」

「みんな、逃げろ!!」



 直後。



『ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ………』



 激しい爆発が起きて崩落。出入口が塞がった。



「あ~、これで地上に出られなくなっちゃったね」


 しょんぼりする千年世だが、仕方ないのさ。命あっての物種。戦うことも視野に入れたが、今の人数ではキツイ。

 せめて北上が万全な状態でないとなぁ……。


 それに、本州組を待った方がいいのではないかとも思った。


 それまでは地下で耐えるしかないかな。


 もちろん、軍人たちを倒せるのなら、それに越したことはないけど。



「でも、これでしばらくは安全だね」



 大伊が俺の右腕に抱きついてきた。

 千年世も頬を膨らませて対抗するように左腕に。


 あれ、これちょっとデジャヴだな。以前、天音と北上でもあった気がする。


「大伊さん、ベタベタしすぎです!」

「千年世ちゃんこそ、そんな胸を押し当てちゃってさ」

「わたしはいいんですぅ~!」

「じゃあ、私も」


 ここは……天国かッ!

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