みんなを助けに迎え! side:リコ
啓くんたちが旅立って十五分ほど。
事態は急変。彼等との連絡が途絶えてしまったのだ。位置情報も喪失して、行方不明に。
「……困った」
「どうしたの、リコちゃん」
ノートパソコンで作業していた千年世が不安気にこちらを見つめる。彼女にはネットの情報を収集してもらっていた。
「啓くんたちのバイタルが途絶えたの」
「えっ! うそっ!」
千年世が驚くと同時に、寝ていた桃瀬も立ち上がった。
「なになに!? なにかあったの!?」
あたしは二人に啓くんたちの情報が消えたことを伝えた。すると、二人とも青ざめて平静を失った。
「どどど、どうしよう……」
「なんでこうなるかな……! また船が沈没したの!?」
「二人とも落ち着いて。少なくとも、船ではないみたい」
「「え!?」」
そう、あたしは知っていた。
啓くんたちが船ではなく、飛行機に乗ろうとしているのだと。あたしは啓くんに盗聴器を仕掛けておいたのだ。あの人はいろいろと不運に見舞われやすいから、あたしが守らないと。
ストーカーと思われても仕方ないけど、でも命が救えるのなら構わない。
啓くんに死なれるわけにはいかない。
「飛行機ね」
「ひ、飛行機? なんで!? 船じゃなかったの?」
「落ち着いて、千年世。あたしにも事情が分からないの。でも、なにか嫌な予感がする」
漠然とだけど、また無人島で事件が起こる気がしていた。
あれだけ大事件としてニュースになったし、乗り込もうとする人も多い。特にアメリカで不穏な動きがあるという。
もう少し情報を集めていかないと。
そう考えていると桃瀬が質問を投げかけてきた。
「電話は繋がらないの?」
「試したけど機内モードらしくて通話不可だった」
「そんな……」
「でも、まだ飛行機には乗っていないみたい」
あたしがそう言うと、千年世が立ち上がった。
「なら、私が今すぐ追いかけるね」
「千年世ちゃん、そんな無茶な」
「大体の場所は分かるよね」
「多分、空港でしょう。でも、今から行って間に合うかどうか」
「大丈夫。これでも私、バイクに乗れるんだ。飛ばしていけば間に合うはず」
そういえば、千年世はバイクマニアだった。高校生にして普通二輪を取得して、バイクもホンタの“ホーネット”というカッコいいバイクを乗り回していた。
「間に合うかな」
「空港までのショートカットとか知ってるから。あの辺り、よくドライブしに行ってるからね」
さすがというか、なんというか。この場は千年世に任せるしかないと思った。
千年世は、この一ヶ月間で軍事訓練を受けて立派になった。
あたしから見ても、千年世はかなり急成長したと思う。以前と比べて頼もしくなっというか、頼れる存在になっていた。
彼女になら……任せられる。
「分かった。千年世、お願いできる?」
「やれるだけのことはやってみる。間に合わなかったら、船を使ってでも無人島へ向かうよ」
「了解。無茶だけはしないでね」
「うん。リコちゃん、桃瀬ちゃん、二人でお願いね」
千年世は予め準備していたという荷物を持ち、外へ向かっていった。
最後まで見送って祈った。
みんなが無事に帰って来ますように。
「二人きりになっちゃったね」
「そうだね、桃瀬」
「そういえばさ、リコちゃんに言われた通りに海外の情報を探っていたの。そしたら、アメリカの掲示板でホワイトウォーターの活動が活発になってるって書き込みを発見したの」
「ホワイトウォーター? なにそれ」
「私もよく知らなくて調べてみたの。なんか民間軍事会社? らしいよ。その会社が無人島へ向かうんじゃないかって囁かれているとかなんとかで」
「え……」
気になって『ホワイトウォーター』を検索してみた。すると、本当に軍事会社だった。ということは、もしかして……。
無人島にはすでに軍人が……大変だ。このことを早く啓くんや千年世に知らせないと。
でも、啓くんには繋がらない。
せめて千年世に教えておかないと。
スマホを取り出し、一か八か電話を掛けた。
今はバイクの運転中だから繋がるかどうか怪しいけれど、それでも。
……しばらくすると通話できた。
『どうしたの、リコちゃん』
「よかった、千年世! まさか繋がるなんて」
『ヘルメットにインカムが内蔵されてるからね。スマホも連動してるから通話可能』
「さすが千年世ね」
『それで、なにかあったの?』
「うん。もしかしたらなんだけど、今回の件……アメリカの軍事会社が関わっている可能性が高いの。啓くんたちが危ないかも」
『そっか……それで船から飛行機になったかな』
「……! もう巻き込まれているってことね」
『かもね……。でも心配しないで、こっちは上手く立ち回るから』
「頼んだからね、千年世」
『オーケー。じゃあ、これにて通信は終わりにしておく。傍受されるかもだから』
そこで通話は途絶えた。
これで千年世が上手くやってくれるといいんだけど……心配だ。
「桃瀬、情報収集を継続して」
「アメリカとか出てきて目が覚めちゃったよ。こりゃあ、負けてらんないよね」
「情報戦も始まっていると思う。桃瀬、ハッキングとか出来ない?」
「リコちゃん、悪よのぅ~。いいよ、やっちゃおっか!」
「そうすれば、向こうも大混乱で島への増援とかも迂闊に出来ないはず」
桃瀬は天才ハッカーだ。かなりひっそりとハッキングとかしているらしく、危険な仕事を請け負っていることもあるようだった。
カタカタと素早くキーを進める桃瀬。
「今、ホワイトウォーターにどう攻撃するか悩んでいたんだけどさ」
「どうしたの」
「こりゃ、参ったね」
「だから、どうしたのって」
「あちゃ~、思った以上に向こうはガチだよ。民間軍事会社・ホワイトウォーターの次は、影のCIA・ストラトフォーまで関わっているっぽい」
「ス、ストラトフォー!? ちょ、なに、なんなの……」
もしかして、あたし達は思った以上にヤバいことに関わっているのかもしれない……。
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