全員と思い出作り

 ツルハシを引きずってくる、その人物は――天音を冷徹に見据えた。


「……やっぱり、抜け駆けですか……天音さん」

「き、北上さん! そ、その……これは」


「まさか裸で抱き合っているだなんて、酷いですね」


 怒りや憎しみが混じったような、そんな言葉で絞りだす。……まずいな、目が死んでいるし、俺も天音も殺されそうだ。


 なら、俺は……。


「ちょっと待て、北上さん」

「啓くん、あたしよりも天音さんが良かったんですね……」


「そ、それは……」


「でもいいんです」

「え?」


「あたしは順番とか気にしない。絶対に諦めないし、好きになった人を奪われたのなら……奪い返すまで」



 口元を歪め、北上はツルハシを向けてきた。ちょ、まさか……!


 北上のあの目は本気だ。


 ツルハシで俺と天音を惨殺する気だ。どうにしかしないと、お宝どころじゃないぞ!!


「天音……いざとなったら逃げろ」

「そ、そんな! わたしだけ逃げるだなんて出来ないよ……」

「狙いはお前だからだ。頼む」


「……でも」



 そうこうしている内にも目の前に北上がやって来た。まずい、殺される……!



「啓くん、そんなに身構えなくとも大丈夫です」

「……は?」

「少なくとも、あなたを殺すことはない。天音さんは別ですけどね」

「天音は殺すな。仲間だろ」


「それが啓くんの望みなら仕方ないですが……ですが、愛人の座は譲れません。なので、ここであたしとも愛し合いましょう」



 予想外の提案に俺は頭が真っ白になった。


 北上はなにを……言って……いるんだ!?



「愛人!?」

「そうです。あたしは啓くんの傍にいられるのなら……なんだっていいんです」


 いいのかよっ。

 なかなか寛容というか――だけど、天音は納得しないと思うけどなぁ?


「天音……どうする」

「はぁ~…。仕方ないか。殺されたくないし、それに抜け駆けしたのは……わたしだからね」


 どういう意味だ? と首を傾げていると、それは直ぐに判明した。



「実は、あたしと天音さんで約束していたんです」

「なにを?」

「天音さんに“恋人”のポジションを譲る代わりに、あたしには“愛人”にならせてくれと」


「な、なんだってぇ!?」



 な、なんちゅう約束しているんだよ。ていうか、日本の法律的にどうなんだそれ!



「ああ、もちろん結婚は考えていませんよ。したくなったら、一夫多妻制の法整備がなされている海外へ行けばいいですしね」

「そんな楽観的な……」


 俺は思わず頭を抱えた。

 いやしかし、財宝を手に入れれば海外暮らしも夢ではないな。一夫多妻か……男のロマンだな。


 殺されるかと思ったけど、そういう理由があったとは。


 ていうか、紛らわしいなヤンデレ!


「ですから、天音さんを少し殺したくなりましたけど……許しましょう」

「マジかよ。マジなのかよ」

「ええ。ただし、今からあたしとシましょう。それが条件です」



 とんでもない条件だ。

 ていうか、今は絶賛ハイパー大賢者モード中。とてもじゃないが、北上の相手をするなんて……不可能だ。



「すまない……元気がもうなくて」

「では、元気にさせてあげます」



 そう言って北上は服を脱ぎ始めた。


 いやいや、反応するわけ――…<<ギュゥゥゥゥゥゥン!!!!!>>…――!!!


 ……してしまった。


 不覚にも元気になってしまった。



「くそっ、北上さん……なんちゅうエロい体してるんだよッ」

「……フフ。良かったです。これで愛し合えますね」



 俺は抱きつかれて、もう逃げられなかった。

 隣で天音は呆然となり立ち尽くしているし、これはもうヤるしかないのか。



 * * *



 あれからニ十分後。


 ――俺は結局、北上と致してしまった。


 自分で言うのもなんだが……こんな絶倫ではなかったはずだ。


 だけど、これで二人が納得してくれるのならいいけど。



「ふぅ……」



 汗を拭っていると、例の穴の方から気配があった。……む? 大伊たちがこっちへ来たのかな。



「……いたいた。こっちにいたんだ、早坂くん――って、なにこれええええええええええ~~~!?!?!?」



 俺と天音、そして北上の状況を見て驚く大伊たち。顔を真っ赤にして、慌てていた。



「ちょ、早坂くん……なにしてるの!!」

「こ、これは、その……琴吹さん!」


「ちょっと、私も混ぜてよ!!」


「いやだから…………は!?」



 どういうことだと立ち尽くしていると、大伊がこう言った。



「琴吹さんの言う通りだよ。私達もなんで混ぜてくれないの!」


「は!? は!? はあああああああ!?」


「あのさ、早坂くん。私達、もう切っても切れない縁で繋がっているんだよ。早坂くんと関わった女子は、みんなそう思ってる。みんな早坂くんが好きなの!」



 ――知らなかった。

 知らなかったぞ……!!



 そうだったのか……俺ってそんなにモテモテだったのか。言われるまで、まったく気づかなかったぞ。


 ということは、遠慮する必要なかったのか。


 俺はずっと紳士に振舞ってきたつもりだった。



 だけど、みんな俺そういうことしたかったんだ。



「……先を越されたぁ。早坂くん、私も忘れないでね」

「草埜さんも?」

「うん。いいでしょ?」



 それから俺は、女子たち全員の相手をすることになった…………。いや、死ぬって!



 * * *



「……あぁ、疲れた」



 洞窟の中で女子たち全員と思い出作りをすることになろうとはな。

 おかげであちらこちら筋肉痛だ。


 休憩も終わったところで、そろそろ財宝を探しに行くか。



「早坂くん、寝てないで出発しよっか」

「天音たちのせいだろッ。俺は搾り取られてもうヘロヘロなんだ」

「あ、あははは……ごめんね。無茶させちゃって」

「ていうか、天音。本当にこれで良かったのか?」


「まー…、本音を言えば複雑だけどね。ちなみに、誰が一番良かったの?」


 天音のやつ、そんなこと聞くのかよッ。

 だが、ここはせめて。


「も、もちろん、天音だ」

「そ……それならいいけどね」



 こうなった以上、俺が責任取るしかないな。財宝を見つけて、みんなで幸せを掴む。これしかない……!

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