どっちか選んで!! アイドルvsヤンデレ
洞窟はそれなりに広いが、暗闇が広がっている。
ヘッドライトで照らしても先が見えないな。
「みんな、懐中電灯を使ってくれ」
シェントスの3000ルーメンのハンディライトだ。これなら先まで見えてかなり明るい。足元もバッチリ見える。
さきほどのトーチカの方を照らしてみる。
「……完全に崩れてしまいましたね」
北上の言う通り、出入口は埋もれてしまった。……って、これでは帰れないのでは!? 焦っていると、天音が震えていた。
「ねえ、早坂くん。どうやって帰るの?」
「あー…困ったね」
「困ったねって! 閉じ込められたってこと!?」
「そういうことになるな」
大伊さんたちも頭を抱えた。
こんなつもりはなかったと。
俺もだけどね。これは想定外だったが、仕方がなかった。危うく殺されるところでもあったわけでして。
命があっただけでもヨシとしたい。
「嘆いている時間はありませんよ、哲くん」
「ああ、そうだな。今は財宝を優先にしよう」
留まっている暇はない。
俺は先頭を歩いていく。
みんなも察したのか俺の後をついて来てくれた。
とにかく前へ……進むしかない。
* * *
歩くこと三十分弱だろうか。
腕時計を確認すると、それくらいだった。もう深夜の午前三時だ。眠すぎる。
「よし、ここで休憩にするか」
「うん、さすがに歩き疲れたよ……」
脱力する琴吹は、ヘロヘロになっていた。しかも、もう寝てるし。
俺と北上を除く女子たちは、もう限界だ。
まともに眠ってもいないし、ここらで休憩にしておくか。
「哲くん、そろそろ」
「分かってる。いったん、ここを拠点にして眠ろう」
「それがいいでしょう。寝不足のままでは思考が鈍りますから」
俺も荷物と共に腰を下ろした。
随分と多くの装備やら食料を詰め込んでいるから、重いんだよな。4~5kgのモノをずっと背負っていたから、背中が汗だくだ。
リュックにセットしてあるハイドレーションのストローを伸ばし、俺は水分補給した。これが便利で助かる。
「それ、便利だよね」
「天音も飲むといい」
俺はストローを渡す。すると天音は動揺して頬を赤くした。
「……っ。早坂くん、それ、その……」
「あぁ……間接キスなら気にするなよ。今更だろ」
「そ、それはそうだけど」
なんてやっとると、北上が久しぶりに病んでいた。いつの間にかナイフを取り出し、俺に向けてきたんだ。
「哲く~ん……天音さんとイチャイチャしすぎです」
「うあっ! 北上さん、いきなりだな!」
ここ最近は落ち着いていたのに、この無人島に来ると再発するのか!?
天音もビビッて青ざめていた。
「ちょ、北上さん。なんでナイフを向けるの!」
「天音さんがいつもずるいからです。あたしだって哲くんと間接キスしたいです。というか、もっとえっちなことだって……」
「そ、そんなハッキリ言わないでよ。ねえ、大伊さんたちもそう思うよね――って、寝てるしー!!」
残念ながら、大伊も琴吹も、そして草埜も眠っていた。起きているのは、俺と北上、天音だけだ。
北上はナイフを持ったまま、更に接近。
俺の喉元に穂先を向けた。
……久しぶりに命の危険を感じた瞬間だ。
「き、北上さん。勘弁してくれ」
「そうはいきません。今日こそ、どっちが哲くんに相応しい女の子かはっきりさせないと」
目が死んでるぞ、北上さん。めっちゃ怖いんですけどぉ!!
「ちょっと、北上さん。早坂くんが困ってるでしょ!」
「天音さん、この際だから聞きますけど……哲くんと、どこまでしたんですか」
「えっ……。どこまでって……なにを?」
「そんなの決まっています。キスとかです」
「んなッ」
顔を真っ赤にして慌てる天音は、そんなこと聞くう!? みたいな表情で動揺しまくっていた。
「どうなんですか、ハッキリしてください」
「……キ、キスくらいしてるし! わたしだって早坂くんが好きだもん。それくらい普通でしょ」
「なるほど。天音さんの覚悟や気持ちはその程度でしたか」
「な、なんですって!?」
「あたしは啓くんを愛してます。大好きです。この身を捧げる覚悟があるんですよ。彼の為ならなんだって出来る。どんな辛い時も支えます」
甘く、とろけるような声で北上はそう気持ちを吐き出すように言った。そこまで俺を思ってくれているだなんて、嬉しい。
だけど、ナイフがっ!
「そ、そんなのわたしだって一緒よ。全部好きだし、えっちなことだって……したい」
……天音、それ、マジかよ。
意外と望んでいたんだな。知らなかったよ。
天音みたいな清楚系は、そういうのあんまり興味ないと思っていたが……そうではないらしい。
てか、二人とも火花を散らしていた。
この光景、デジャヴだな。
でも、二人の気持ちは嬉しいし……俺も天音も北上も好きだ。どっちを選ぶとかできない。けど、いつかは決めないといけないのかなぁ。
「啓くん、どっちを選びますか」
「ど、どっちって!?」
「あたしか天音さんです。どっちとえっちしたいですか!!」
なんで、ちょっと怒ってるのぉ!?
……あと言い方!!
「まてまて。ここで?」
「はい。ここで、です」
めっちゃ真剣な眼差し……マジかよ。天音ももう後には引けないという表情で目をグルグル回していた。息も乱れているっぽいし、大混乱だ。
「お……俺は二人が良いんだ。選ぶとか……そういうのは、まだ先送りにしたい。俺はね、財宝を見つけてお金持ちになったら……天音、北上さんの三人で海外で暮らしたい」
そうだ、俺が今目標にしているのは、それだ。どうせ日本ではまともに暮らせないだろう。なら、海外に高飛びして……どこかの辺境の街とかで家でも買って余生を送るのもいいだろう。
その時、ひとりではなく、天音と北上がいればそれでいい。もちろん、ついてきてくれる女子がいるのなら……みんな迎えたい。
「そうだったのですね。啓くんの将来が見えなかったので……ちょっと心配だったのです」
「北上さん……」
「そういうことなら仕方ないですね。傍には居ていいんですよね」
「ああ、北上さんも天音も一緒だ」
俺がそう言うと、二人とも安堵していた。俺が言わずとも隣に来てくれた。いつしかのよに挟まれ、手を握られた。温かい。
「今は財宝を見つけて、それから島から脱出する方法を模索しないとね」
天音の言う通りだ。
今は身内同士で争っている場合ではないぞ。
この洞窟内に来ると通信機器は全部圏外だ。通信衛星・スターゲイザーシステムすらも届かなくなる。
「いったん寝てから考えよう。天音、北上さん、おやすみ」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」
二人とも俺に頭を預け、安心しきっていた。
今は眠ろう。
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