帰る手段がなくなった!? サバイバルの予感

 思えば不自然な点がいくつもあった。

 あのマーカスという軍人、これをわざと引き起こしたんじゃないだろうか。


 そもそも、滑走路もないのにプライベートジェット?


 おかしいだろ。

 そこは普通、ヘリコプターにするとか……せめて、パラシュートを装備するとかさ。


 そういえば、パラシュートなんて装備はなかった。リストにすら含まれていなかった。


 まさかな……。



「ここは煙が酷い、いったん、前に使っていた拠点へ行こう」

「そうだね、早坂くん。のんびりしていたら爆発するかも」


 天音の予想は的中した。

 近くてバチバチと音が発生して、小さな爆発が起こり始めていた。燃料が漏れたのか……まずいぞ。


 持てるだけの装備を持ち、俺たちは急いで森を脱出。


 かつての洞窟拠点を目指した。


 歩くこと二十分弱。

 ようやく見えてきた。



「あのドラム缶風呂……まだあったんだな」

「もはや、目印ですね」

「そうだな、北上さん」


 一か月前を思い出しつつも、洞窟内へ入った。

 さすがに北上の作ったベッドは朽ちていた。一ヶ月も経過すれば、自然によって破壊されたんだろうな。

 俺の作った貯水池と風呂も泥まみれだ。


「……これからどうするの?」


 琴吹が心配そうに声を漏らす。


「マーカスさんの姿がなかった。北上さん、これはどういうことだ」

「彼は……裏切ったのかもしれません」

「なんだって!?」


 俺だけでなく、みんなも驚く。


「すみません。わたしは彼を信用していたつもりでした。ですが、実際はそうではなかった。強引な着陸で我々を孤立させ……財宝をかすめ取ろうとしているのかもしれません」

「マジかよ。それがマーカスさんの計画だとすれば、そのバックもいるだろ」


「ええ、マーカスは誰かに雇われた可能性が高いです。それも大金で」


 北上は立ち眩みがしたのか、その場に座った。ショックだろうな。一応、知り合いだったみたいだし。


 天音は北上を見てくれた。


 とにかく、本州のリコたちに連絡だな。


「スターゲイザーシステムは生きているはずだ。あのマーカスと言えど、外部との連絡手段は断ち切りたくないはず」


 俺はポケットからスマホを取り出し、電波状況を確認した。

 すると、電波は良好だった。


 ……ふぅ、せめて連絡が取れるだけ幸いだったか。


「大丈夫そうなのね」

「ああ、天音。今からリコたちに連絡を取る」


 オンライン会議に繋げ、反応を待った。

 すると直ぐに繋がった。


『……こちら、リコ。啓くんだよね』

「そうだ、リコ。問題が発生した」


『問題? どうしたの?』

「実は、飛行機で無人島に向かったんだ」

『え? 飛行機で? 船じゃなかったの?』


「急遽変更になってな。……で、まだ確信はないが裏切りが発生した」


『マジ!? 何が起きてるの!』



 俺はここ数時間であったことをリコたちに説明した。



「というわけなんだ。一応、救助の船を頼みたい」

『わ、分かったけど、船の手配なんてしたことないよ。どうすればいい?』


 俺の代わりに天音が喋ってくれた。


「リコ。天音よ」

『天音さん。なにか案が?』

「ええ、わたしが船を手配するから、それで救助に来て欲しいわ。出来れば、少人数で」

『少人数ですか。多い方がいいのでは」


「リスク分散のためよ。マンションには二、三名は残ってほしい」



 万が一を考えての策らしい。さすが天音、そこまで考えてくれるとは。



『分かりました。救助には、リコとほっきーで向かう。残りは待機してもらうから』

「分かったわ。また連絡する」

『了解』



 そこで会議は終了した。

 ……ふぅ、さすがに連絡が取り合えるとラクチンだな。



「いったん、飯にしよう。なにも食べてないしな」

「私も賛成です。お腹が空いたぁ」


 草埜がお腹を鳴らして顔を赤くしていた。

 もう時間的には夕方だからな。


 ちょうど良い時間帯だ。


 リュックに詰めてある缶詰を取り出した。


 以前と違い、食糧があるのがデカイい。面倒な狩りをしなくて済むし、火だってライターを使うだけで一瞬で着く。


 俺は簡単な焚火を作り、ライターで火をつけた。


「……一秒も掛からないな」

「そうですね。前はファイアースターターを使っていましたからね」


 そのファイアースターターは、今もお守り替わりに持ってきている。これがあったおかげで焚火ができたし、肉とか魚も焼けた。


 火は偉大だ。

 火があれば何でもできる。


 缶詰の蓋を開けた状態で炙っていく。

 こうすれば中のサバが焼けていくんだ。


 じゅうじゅうと音が立ち始めたら完成。


「ほれ、出来た。アツアツのサバ缶だ」


 みんなに配っていく。

 飲み物も水を持ってきているし、今回はボトル型浄水器も持参していた。これがあれば泥水だろうと綺麗に濾過されて飲み水となる。最強のアイテムだ。


 配り終えてから、フォークでサバを突いていく。


 イイ感じに焼けたので、ほくほくだ。


「このサバ美味しいね」

「そうだろう、琴吹さん。高いヤツを買っておいたからね」

「へえ、やるねえ、早坂くん」

「これでも食にはい方だからな」

「やるぅー!」


 なんだかんだ、ワイワイとした食事を進め――気づけば天音と琴吹、大伊さんも眠っていた。俺もちょっと眠いな。


「早坂くん、あたしが見張りをしていますよ」

「お、なんだか懐かしいな。一か月前は見張り番をここでよくしていたな」

「そうですね。交代してみんなを守っていたんです」


 懐かしいと、二人で笑い合う。


 けれど。


 北上は責任を感じているようで視線を落とした。


「北上さんが悪いわけではないよ。それに、死者はでなかった」

「……それでも、あたしの責任です。申し訳ない」


「マーカスさんは、どうして裏切った……? いや、まだ分からないけど、姿がなかったし……あの人の装備一式も消えていた」


「財宝を狙っているのでしょう。タイミング次第では、横取りしてくる可能性も」


 そうだろうな。美味しいところで現れ、全てを奪っていくつもりだろう。もし、裏切っているなら……だが。

 しかし、こうなるともう裏切りにしか思えない。


「どうする。財宝探しを続行するか?」

「それしかないでしょう。ここに留まっていては逆に危険だと思いますし」

「分かった。俺の覚えている“座標”へ向かおうか。明日にね」

「ええ、今夜はいったん眠りましょう。交代で」

「ああ、交代で」


 サムズアップを交わすと、北上の方からこちらによって来た。


「今日は少し冷えるので……啓くん」

「そうだな。こっちおいで」


 俺は北上を股に挟んで抱きしめた。

 天音たちは眠っているし……今なら大丈夫だろう。


 北上は安心した表情で俺の胸に顔を埋めた。こういう、たまに見せる素直なところに俺は弱かった。

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