超依存系の病む病む女子

 また夜を迎えた。

 もう何日目か覚えていない。

 覚えるのも、数えるのも面倒だからだ。


 それよりも、女子たちが俺を巡ってケンカをするようになった。


 ……まずいな。

 以前はもっと和やかだったはずなのに、今は違う。


 男一人、女子十三人という、とんでもなくバランスの悪い状況だ。

 しかも、こんな孤島。


 他にも男子がいないわけではないが、比較的マシだったのが俺だったということ。……いや、お宝目当てが大半かもしれないが。


 ともかく、命の奪い合いにだけは……なって欲しくない。


 焚火を囲う中、俺は久しぶりに戻って来た八重樫たちに話を聞いた。



「八重樫さんは、どこにいたんだ?」

「私たちは気づいたら……森の中に」

「森の中!? そんな馬鹿な」

「信じたくないけど、目を覚ましたら森だった」


 そんなところに?

 海から森まではかなりの距離があるぞ。

 台風並みだったとはいえ、ありえないだろ。


「なんであれ、無事でよかったよ」

「うん。命があって良かった。ところで、これからどうする?」

「船はひっくり返ってしまって……もう元には戻せない。また救助が来るのを待つしかないかな」


「そっか。結局、それしかないのね」



 落胆する八重樫だが、なんだか顔が青いような。震えてる?

 様子を見ようとするが、リコがポツリとつぶやいた。


「こ、この島は呪われてるのよ……」

「……呪われてる?」


「だって、海賊が財宝を隠した島なんでしょ!? だとしたら、その海賊たちの怨霊がいるんだよ。だから、島を出られない……こんな目に遭わされるんだよ」


 頭を抱えて……精神的に参っていそうだ。

 けれど、そんな超常現象オカルトがあってたまるか。あるのは自然の脅威だけ。それだけなんだ。



「リコ、落ち着け。今は生きることを優先しよう」

「生きること……」

「そうだ。生きていれば、きっといつか良いことあるさ」


 しばらく沈黙が続いて、女の子達の顔つきが変わったように見えた。

 俺の言葉をポジティブに捉えてくれていればいいのだが。



 * * *



 あれから静かな時間が流れた。

 静かすぎる程だ。


 不気味なくらい静かで――なにか変に感じた。なんだ、この違和感のようなもの。


 洞窟では、女子たちが眠っていた。


 俺はなぜか眠れなくて、なにもない天上を見上げていた。すると、俺の近くに気配があった。


「……早坂くん」

「ん、この声は天音か」

「うん。今こっそり横に来たの」

「どうした。夜這いか」


「……ッ! ……うん」


「うんって!!」

「シッ。静かに……。みんな起きちゃうでしょ」

「あ、ああ……って、マジなのか?」


「うん。静かに洞窟を出て」



 手を引っ張られ、俺は起き上がった。

 どこへ連れていくつもりだ?



 音を立てないようコソコソと森の奥へ。



「天音……どうしたんだ」

「あ、あのね……。女の子いっぱい増えたし、このままだと早坂くんを誰かに取られちゃうじゃん……?」


「そ、そんなことはないと思うけどな?」


 俺に好意を抱いている女子は、本当にいるかどうか分からない。俺自身、まるで陽キャのように振舞っているが、実はそうじゃない。


 無理をしていた。


 天音を前にして、いつもドキドキしているし……目を合わすのも照れ臭い。


 でも、この島にいると俺は強くなれた。

 鼓動は早くなるけど、不思議と女子と普通に接することができたんだ。



 特に天音には感謝している。

 一番はじめに話してくれたのが天音だったから。



「だからね、誰かに取られる前に、わたし……早坂くんに言っておきたいことがあって……」


「え……」



 顔を真っ赤にしてモジモジする天音。

 ……まて、まてまて。


 これは……これって、まさか。


 俺は人生初の女子から告白を受ける……!?


 しかも、現役アイドルの天音から?


 信じられないな。

 夢のようだ。



 身構えていると、天音はゆっくりと俺を見据えて――言葉を絞りだした。



「好き。ぜんぶ……好き」



 壊れないよう丁寧シンプルに告白する天音。

 瞳が潤んでいて、小さくて可愛かった。


 そんなに俺を思ってくれていたなんて……。


 俺だって同じ気持ちだ。



「俺も天音が好きだよ」

「……うん、抱いてくれる?」


「ッ! こ、ここで……?」


「ここなら人来ないし、一晩中でも……大丈夫だと思う」



 ひ、一晩中!?

 あ、天音さんって……そんな大胆ていうか、性欲強いタイプだったのか。意外すぎる。


「いいのか」

「いいよ。でも……はじめてだから……どうしたらいいか……分からなくて」



 目をグルグルさせる天音は、とうとう耳まで真っ赤にして煙を出していた。

 そんな反応されると、俺まで困るんだが。


 ていうか、初めて!?


 それまた意外すぎた。


 天音って……彼氏とかいそうなのにな。

 そっか、お互いに初めてか。


 それは素直に嬉しい。



 俺はまず、天音を抱き寄せた。

 小さくて華奢な体が俺の胸の中にすっぽり埋まる。……小さい。天音は小柄で、けれど巨乳で全身が柔らかい。



「キス、するぞ」

「…………っ」



 俺はゆっくりと顔を近づけて天音の桜色の唇を奪う。

 どうやら、ファーストキスだったようで――不慣れな感じがあった。


 でも、互いを求め合ってキスを繰り返した。



「そろそろ脱がしていいか」

「……は、恥ずかしいよ」

「天音のぜんぶが見たい」


「…………うん」



 ゆっくりと制服を脱ぐ天音。

 下着姿を俺に晒してくれた。


 こうして近くで見ると、また格別だ。

 水着とは違う興奮を俺は感じた。



「天音、綺麗だよ」

「ありがと」



 俺はゆっくりと天音に触れていこうと手を伸ば――――。




『――――ザンッ!!!!!』




 赤い閃光が俺と天音の間に割って入った。

 それは草木を切り裂き、バラバラにした。



「なっ……」



 俺は天音を抱えて後退していく。

 なんだ、突然。


「な、なんなの!?」

「天音、どうやら後を付けられていたようだぞ」



 茂みから現れたのは……。



「…………あは。あはははははは」



 眼光を赤く光らす……『彼岸花 理瑚』の姿があった。……リコ、なんで。




「どうしてお前が!」

「早坂くん、早坂くん、早坂くん……だめだよ。そんな女を選んじゃ。選ぶべきは、リコだよ。リコにして! リコじゃなきゃだめ!!」


 そ、そうか……リコの精神状態がよろしくないと思ったが、そういうことだったのか。リコは“メンヘラ”だったんだ。


 北上とは、似て非なる存在。


 超依存系の病む病む女子だ。



「どこでそんな物騒なカタナを入手したか知らんが、やめろって! 危ねぇだろ!」


「……フフ、フフフフフ。これ? これね、あの船にあったの。傭兵の男ジョン・スミスの持ち物だと思う。それをね、リコはこっそり拝借しておいたの」



『――ザンッ!!!』

『――ザンッ!!!』



 容赦なくカタナを振るうリコは、俺たちを追い詰めてきた。くそう、逃げ場がない……!


 せめて天音だけでも生かしてやりたい。



「……やれやれ、わたしと早坂くんの邪魔をしてさ」



 天音はリコを睨みつけた。



「だめだ、煽ったら殺されるぞ」

「大丈夫。こんなこともあろうかと、これを下着の中に忍ばせておいたの!」



 小瓶を取り出す天音は、それを噴いた。


 あれは……前にリコが使っていた唐辛子スプレーか!!


 そうか。以前、俺が使用してから行方不明だと思っていたけど、天音が隠し持っていたのか。



「きゃああああああああ!! 痛い、痛い!! 目が、目が潰れちゃう!! いや、いや、いやあああああああ……!!!」



 目に唐辛子が直撃したリコは、発狂していた。

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