家へ帰ろう。みんなと共に過ごす日々

 カタナを奪い取り、俺はリコを助けた。

 天音は怒ってたけど。



「……っ。どうして、リコを助けたの……」

「仲間だからさ。それに、なにか事情がありそうだったし」


「そ、それは……その……」


「なにか知っているんじゃないか」

「うん。実はある人を見つけたの」


「ある人?」


「こっちへついて来て」



 リコについていく。こんな夜の森の中を進むだなんて危険しかないのだが、リコは当然のように進んでいった。


 やがて、小屋が見えた。


 なんだこの小屋……こんなのあったのか。



「これは?」

「この中にある二人がいる」

「ある二人?」



 扉を開け、中へ入るとそこには同じ学校の女子が二人いた。

 顔がよく似ているし……双子なのか。


「こんばんは、リコ」

「あるいは、おはこんばんちは、リコ」


 淡々と挨拶をする双子らしき女子。

 なんだか感情が薄いな。



「君たちはいったい?」


「私達は、この島に流れ着いた双子の姉妹。わたしは織田 ヒカリ

「わたしは織田 ルナ


 俺も天音も驚いた。

 まさかこんな小屋があって双子がいるだなんて思わなかったからだ。どうして、こんな場所にいたんだ?


「教えてくれ。なんでこんなところにいたんだ?」


 ヒカリの方が教えてくれた。


「わたしたちはバックアップ」

「バックアップ?」


 今度はルナの方が説明をはじめた。


「橘川は、わたしたちにネット回線の電波など安定させるようにしたり、無線を傍受するように命令してきました」


「な、なんだって!? でも、どうして」


「恐らく、久保さんの友達だったから……」


 どうやら二人は、久保と繋がりがあったようだな。その縁で橘川は、双子を利用していたと。


 ……って、まてよ。


 以前、ネットが一瞬繋がったのは、この二人が電波を飛ばしていたからか。



「Wi-Fiがあるの?」



 二人は無言で頷く。


 マジかよ!!



「あります。安定させるのが難しいですが」

「無線も使えます」



 おいおい。それが事実なら、俺たちはアッサリ帰れるぞ!!



「リコ、どうして黙っていたんだ」

「本当は二人で逃げようと思ってた」

「なんだって?」


「財宝を見つけたらって思ったんだ。みんな殺して、二人きり……とか考えてた」



 そんな恐ろしいことを!?

 こ、怖すぎるだろう。



「どうして辞めたんだ」

「倉島や橘川の異常行動を目の当たりにして……どうでもよくなった。でも、早坂くんだけは諦められなくて……」



 だから、さっきは襲い掛かってきたのかよ。怖すぎるって。


 いや、なんであれ――これで外部と連絡が取れるわけだ。俺たちは帰れるぞ。



「Wi-Fiでも無線どっちでもいい! 今すぐ貸してくれ、ヒカリさん、ルナさん!」

「分かりました。電話やWi-Fiを繋げられるようにしますね」



 特殊な機材があるようで、それを調整する双子。これでついに通信が可能になるのか。

 しばらく待つと作業が終わったようだ。


 俺はスマホの電源をつけた。


 さて、果たして本当に圏外から復活するのだろうか。



「……あ、早坂くん、それ!!」

「ああ、天音。これは驚いた」



 スマホの右上に電波と4G+の表示があった。


 電話回線もネット回線も両方復活したんだ。



「おおおおおおお、きたああああああああああ!!!」



 俺はつい叫んだ。

 こんなことがあるなんて、夢のようだった。



 電話が、ネットが使えるなんて!!



 あとは『緊急通報』するだけ。



 たったそれだけだ。



 ――けど、本当にそれでいいのか俺よ。



 これで無人島生活が終わってしまうんだぞ?



 財宝だって手に入らず終わる。

 女子たちとの生活も終わるし、ハーレムもなくなるだろう。


 みんなそれぞれの生活に戻り、当たり前の日常を送るようになる。



 きっと俺も以前のような、ぼっち生活に戻る。



 それはあまりに寂しい。

 永遠に無人島に居てもいいのではないか?


 今すぐ無線機器を破壊すれば、もう出られることは二度とないかもしれない。



 いや、それはあまりに酷というもの。



 家に帰れるのなら……それでいいじゃないか。



「早坂くん、家に帰りたくないの?」

「……ちょっと躊躇った。でも、俺は十分この生活を楽しんだ。天音や北上さんたちとの無人島生活はとても楽しかった。通常ではありえない体験もできた」


「うん。もう無理をしなくてもいいんだよ、早坂くん」



 俺を優しく抱きしめてくれる天音。


 そうだ。

 そうだな。もう家に帰ろう。


 きっと家族が心配している。

 この事件を知りたい人たちがいる。



「帰ろう」

「……ありがと」



 俺は決めた。

 “帰る”という選択を。



 * * *



 ――翌朝、俺はみんなに回線が復活していることを告げた。



 瞬間、みんなは声を上げた。



「ええええええ、マジ!?」「うわ、ほんとじゃん!!」「ネットだ。ネットが使えるよぉぉぉ!!」「うああああああ、久しぶりにSNS覗こっと!」「ニュースが気になってたのよね」「ママと連絡取れるかな」「家族に連絡しなきゃ!」「飼い猫が心配」「わぁ、わぁ! 奇跡みたい!」



 などなど歓喜の声が。

 みんなそれぞれに連絡したり、通報したりした。



 これで早ければ今日中には救出されるだろうな。俺ももう通報済みだし。



 汗を拭っていると、北上が話しかけてきた。



「これは驚きましたよ、啓くん。いつの間に」



 俺は昨晩のリコのことや双子姉妹のことを話した。



「――というわけなんだ」

「なるほど。倉島と橘川の置き土産があったわけですね」

「ある意味、そういうことになる。おかげで回線を得た」


「これだけの人数で通報したので、もう助かるでしょうね」


「ああ、これで北上さんとも終わりかな」

「? なにを言うのです。本州でもデートとかしてあげますよ」


「え! 変わらず関わってくれるの?」

「もちろんです。キスをした仲ではないですか」


「――ッ」


 そう言われると照れるっていうか、意識しちゃうな。



 * * *



 一時間後。


 大型のフェリーや報道陣のヘリコプターが襲来してきた。すげぇ数だ。


 俺たちは全員救助され、ついに無人島を脱出した。



「……さようなら、宝島」



 どんどん遠ざかる島。

 思えば、一ヶ月とそれほど滞在していなかった気がする。それでも、俺にとっては三年や五年を過ごしたような感覚さえあった。



 女子たちとの日々は最高だった。



 叶うのなら、またしてみたい。



 それに少しだけ心残りもあった。

 そう、財宝だ。


 キャプテン・キッドの財宝が結局見つからなかった。見つかったのは複数の遺体。あのアキラと田中は救助されたようだが。



 * * *



【本州帰還……一週間後】



 俺は港で黄昏ていた。

 あの向こうには無人島の宝島が今もある。


「どうしたの、早坂くん」


 ワンピース姿の天音が俺の腕に絡みついてきた。良い笑顔で。


「いや、ちょっと昔を思い出した」

「昔って、まだ一週間前じゃん」

「かもな。ところで俺って両手に花だな」


 そう、今は北上も俺の腕に抱きついていた。


 俺は結局、天音にするか北上にするかでずっと悩んでいた。前に天音からは告白を受けたけど、北上にはまだ返事をしていなかったから。


 だから、今は天音と北上から熱烈なアプローチを受けていた。


 あの無人島から脱出しても、俺はみんなから愛され続けていた。



 なんだ、無人島にこだわる必要はなかったんだな。



 あの経験が俺を強くした。



 これからもきっと――。

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