ハーレムサバイバル 死闘編⑥(後四時間)

「待ってくれ。俺はその倉島ではないよ。人違いだ」

「嘘を言うな! ハーレム帝国を作ると言っていた! そんな人数の女子を連れ回して、倉島ではない!? ありえない」


 そうきたか。

 確かに、倉島の目的はそれだった。

 それが故に、俺が誤解されてしまったと。


 死んでも尚、はた迷惑なヤツだ。


「残念ですが、彼は倉島ではありませんよ。早坂 啓くんです」

「え……嘘。嘘よ!」


 そんなに疑うならと、俺は学生証を提示した。容疑を晴らすなら、これが手っ取り早いよな。胸ポケットに常備しておいて良かった。


「ほら、これを見てくれよ」

「早坂……。え、他人だったんだ。ごめんなさい」


「だから言ったろ。武器をしまってくれ」


「……ごめんなさい、ごめんなさい」



 何度も謝る草埜は、ブンブンと頭を下げた。

 誤解が解けてよかった。



「いや、いいんだ。それより、この洞窟を脱出したい。ロープを使っても?」

「ど、どうぞ。わたしも戻るから……」


 良かった、これで地上に出られるぞ。



「よし、俺が先にいく。上からみんなを引っ張るよ」



 同意が得られたところで俺はロープを掴む。どうやら、森に生えている大樹にロープを括りつけたらしい。


 筋力を最大限に活かして俺は、どんどん這い上がっていく。


 そして、なんとか地上に出られた。



「おー、さすが早坂くんです! 凄いなぁ」

「千年世たちも上がってきてくれ」

「でも、登るなんて出来ないですよぉ……」

「大丈夫だ。俺が引っ張ってやるからさ。ロープを体に巻きつけてくれ」



 みんな細いから体重もたいしたことないはず。俺の筋トレで鍛えぬいた腕力なら、引き上げられるだろ。たぶん。



「分かったよ~。じゃあ、私からいくねー!」

「おーけー」


 まずは千年世だ。

 体にロープが巻かれたことを確認して、俺は引っ張っていく。千年世はやっぱり軽いな。


 同じ作業を繰り返して、みんなを地上に上げていった。



 * * *



「……やっと外に出られた」


 息を乱す篠山は、その場に倒れて大の字になった。

 おいおい、そんな場所で大胆に股を広げすぎだろう。


 とはいえ、他の女子たちも疲労困憊。


 しばらくは動けそうにないな。



「少し休憩したら、天音たちと合流しよう」

「賛成です。向こうも八重樫さんたちを発見しているかもしれませんし、全員集合となるかも」



 北上の言う通りだ。

 もう良い時間だし、日が暮れる前に浜辺へ戻ろう。


 十分に休憩して、それから俺たちは再び歩き続けた。


 森の中をひたすら前進していく。


 ええい、虫が多いな。



 少し迷いながらも、なんとか浜辺に出た。

 森の中にある“目印”さえ発見できれば、どこへ進めばいいか分かるからな。



「天音さんたちは……あ、いた!」



 千年世が指さす方向に天音たちがいた。

 八重樫の姿は……あれ?



「おーい、天音。そっちはどうだった?」

「おかえり、早坂くんたち。いや~、こっちは収穫なし。……って、そっちは千年世ちゃんと桃瀬ちゃん! 良かった、無事だったんだ」


 お互いに抱き合って再開を喜び合った。生きていて本当に良かった。これは奇跡だな。


「それで、その子は誰?」

「良い質問だ、大塚さん。この女子は――」


草埜くさの よもぎです。よろしく」



 俺が紹介する前に、草埜はそう自己紹介した。

 どうやら全員が初対面のようだな。


 知っているのはリコだけなのかな。

 確か、リコとは友達だったはず。

 あとで詳しく聞いてみるかね。



 そう思案していると、天音が耳打ちしてきた。



「ねえ、早坂くん。あの艾ちゃんって」

「ああ。リコの友達のはず。折り畳みスコップの持ち主のはずだ」

「だよね。スコップは返さなきゃかな」

「あ~…できれば使いたいけどね」


 スコップは何かと便利なんだよなあ。

 ここで手放すのは惜しいが、仕方ないか。



「それで、これからどうしようか?」

「拠点へ戻ってみよう。あの拠点洞窟が一番安全だからね」

「うん、アツアツのお風呂も入れるし」



 俺はみんなに説明して、拠点へ戻ることにした。

 再び森へ入り……いつもの目印を追って拠点へ入った。


 一日ぶりだが、なんだか懐かしく感じた。


 ドラム缶風呂とか無事だな。


 槍柵もそのままだ。



 ……あぁ、なんだか我が家に帰ってきた気分だ。



「…………」



 琴吹と草埜を除く全員が拠点を見つめた。

 思いは一緒ってことか。


 分かる。


 変な気持ちだ。

 どうして、またここに戻ってきちまたったんだろうなぁ……。運がよければ小型クルーザーに乗って本州に帰れたはずなのに。


 サバイバルって難しいな。


 俺は新しく入った琴吹と草埜に拠点を案内した。



「こっちが風呂と貯水池。で、洞窟の方にベッドがあって寝られる」


「「すご……!」」



 二人とも感心していた。

 物珍しそうに観察して、面白がってさえいた。



「これ、ぜんぶ作ったんだ」

「そうだよ、琴吹さん。みんなの力を合わせた。だから、二人にも協力して欲しい」

「もちろんだよ。なんでも言ってね!」

「助かる。草埜さんもいいかな」


「わ、私は……その」


 まださっきのことを気にしているのか。


「倉島と勘違いしたことならいいって。ちなみに、アイツはもうこの世にはいないよ」

「それって……殺したってこと?」


「最初はそう思っていた。でも、ヤツは防弾チョッキを着ていてね。蘇ってきたというか、また現れた。でも、ヤツは仲間に裏切られて今度こそ殺された」


「そうだったんだ。……ならいい。もう倉島がこの世にいないのなら、裁きを受けたというのなら……。でも、倉島の仲間がいるはずなの」


「それが田中とアキラか」


「知っていたの!?」


 声を荒げる草埜は、意外そうにしていた。


「さっきの洞窟内で会ったんだよ。銃で脅したら、逃げていったけどね」

「そうだったの。って、銃を持ってるの?」

「倉島とか傭兵から奪ったものさ」

「なんだか物騒な島ね。まあいいわ。早坂くん、改めてよろしく」


 握手を交わし、これで気まずい雰囲気も消えた。

 草埜は正式に俺たちの仲間になった。



 * * *



 晩御飯はレーションにした。

 まだ在庫は大量にあるし、美味しいからな。


 みんなで焚火を囲って食事を進めていく。


 学校のこととか、船が沈んだあの日のこと、この無人島のことを……これからのことを話し合った。


 これだけの人数がいると、さすがに話題が尽きないな。



 また時間が流れ――俺はふと『キャプテン・キッドの地図』を広げて眺めていた。



 あの洞窟は関係あったのだろうか。

 地図は確かにあの場所を指していたはずだ。



 焚火fireは、紛れもなくあの土砂崩れの場所。つまり、あれは海賊たちの作った人工物だったのかもしれない。



 でも、財宝らしきものは見当たらなかった。



 更なる仕掛けでもあるのか?


 地図を炙る行為は一度しているし……むぅ。



「ねえねえ、早坂くん。その地図って」

「天音。実はさ、今日この『焚火fire』の場所へ行ったんだよ。けどさ、お宝はなかった」

「そうなの? 確か、田中とアキラって男子がいたんだよね。あと草埜 艾さん」



 そうなんだよな。なんであの場所に。

 普通、あんな見つかりやすい場所に財宝を隠すか?


 けど、実際は見つからなかったし……まさか、別の場所なのか。


 じゃあ、この『焚火fire』すらフェイクなのか。


「分からんな。お宝は一生見つからないかな」

「八重樫さんたちも見つけないと~」

「もちろんだ。でも、財宝も欲しいだろ」

「それは確かに。ロマンあるし、一生遊んで暮らせるかもだもんね」

「それこそハーレム帝国だよ」


 冗談を交えていると、俺は地図のある構造に気づいた。


 まてよ。


 この地図……変な折り目があるな。



 まさか!?

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