ハーレムサバイバル 死闘編⑤(十三人目)

「早坂くん! こ、こんなところに……幽霊!? 本物!?」

「本物だよ、千年世!」


 飛びついてくる千年世と桃瀬を俺は抱きしめた。やっぱり、あのトランシーバーの通信は繋がっていたんだ。


「良かったよぉ。千年世ちゃんと二人きりになっちゃって、すっごく寂しかった」

「桃瀬もよくがんばったよ」


 二人とも目尻に涙を溜めていた。

 よっぽど怖い思いをしていたのだろうな。

 そりゃ、こんな奈落の底みたいな洞窟にいたんだ、精神的にも参る。閉所恐怖症なら、発狂モノだな。


 しばらく留まり、二人を落ち着かせた。


 そんな中、腕を組んでクールに佇む北上が口を開いた。


「二人とも、どうしてこのような洞窟に?」


 その問いかけに千年世が答えた。


「昨日、船に乗り込んで……それから波にさらわれて……目を覚ましたら、この場所にいたのです。怖かった」


「やはり、無謀すぎましたか。しかし、島に押し流されるとは思いませんでした。自然の脅威とは恐ろしいものですね……むぅ」


 桃瀬の容体を見ながら、北上は意外そうに唸った。



「それで、これからどうするかね」



 全員がややうつむく。

 ですよねえ。

 こんな大洞窟では……どこに出入口があるやらな。奥は真っ暗で、おぞましいまでの深淵が支配している。


 一歩間違えれば吸血蝙蝠コウモリに襲われ、血をチューチュー吸われてお陀仏かもな。


 とはいえ、吸血タイプの蝙蝠コウモリはほとんど種類がいないらしいが。



「なにか連絡する手段とか」

「無理だ、篠山さん。トランシーバーは俺と千年世しか持っていないし、スマホは圏外。電波は届かない。というか、洞窟は電波状況が最悪すぎる」



 となると先へ進むしかない。

 それとも、あの山田とアキラがいた場所へ戻るか。それはダメだ。ヤツ等とまた戦う羽目になる。そうなれば殺し合いだろう。



「先を急ぎましょう」

「そうだな、北上さん。俺も賛成だ。もったいないけど、懐中電灯を使うか」

「それならスマホのライトの方がいいかもですね。あとでモバイルバッテリーで充電できますし」


「そうしよう。電池が切れたら、交代でライトをかざしていく」



 全員、頷いて同意してくれた。

 スマホのバッテリーが全て尽きる前に脱出しないと。


 残量がなくなったら、ブラックアウトだ。


 俺はライトをオンにして先頭に立った。



 その直後だった。



「「「「あ!!」」」」



 北上たちが叫んだ。


 気になって振り向くと、なんだか俺のスマホを見ているような。



「どうした、みんな」

「早坂くん、私とライン交換してくださいっ!」


 千年世からそんな要求が。

 続くように桃瀬と篠山も。


 そして、北上さえも。


「マジか! でも今は通信不可だからね。IDか電話番号を教えるくらいしか出来ないよ」

「それでいいんですよ!」


 キラーンと目を輝かす北上。

 なんで生き生きとしているかなぁ!?

 まあいいけどね。



 俺は電話番号をみんなに教えた。


 070-XXXX-XXXX……っと。



「え、早坂くんって070なんですね」



 千年世が目を白黒させていた。

 ああ、そういえば『090』とか『080』で年代がある程度分かるらしいな。090は二十年前から存在するから、おじさん世代と呼ばれているようだ。


 080もちょっと古いようだが、070は特に最近のようだな。



「俺はスマホの契約をしたばかりだったからね」



 詳しく言えば、俺がぼっちすぎたというのもあるんだがな。それは口が裂けても言えないけど。



「そうなんですね。でも、交換できて良かった」

「ああ、電話番号の交換なら出来るからね」



 俺も女子の連絡先が増えて嬉しい。こんなハッピーなことは、もう二度とないかもなあ。



 交換を終えたところで、先へ進む。



 * * *



 岩がゴツゴツして歩き辛い。

 上ったり、下ったりを繰り返す。


 どこまで続いているんだ、この地下洞窟。


 あれから三十分以上は歩いたはず。


 未だに光は見えない。

 常闇だけが漂うだけ。



 ――いや、まてまて。



 俺は人差し指を舐めてから、指を立てた。



「なんか可愛いポーズだね」

「桃瀬、これは“風”を調べているんだよ」

「風~?」

「そうだ、こうすると風が分かるんだ。……うん、微かに流れているな」


「え? ということは?」


「どこかに出入口があるかもしれない」

「おぉ!!」


 桃瀬だけでなく、みんなが声を上げた。

 そうキラキラした目で見られると、照れるな。


 更に奥へ進むと、行き止まりになっていた。



「……なるほど、そういうことですか」

「どういうことだよ、北上さん」

「我々は土砂崩れでこの洞窟に落ちたのです。つまり、頻繁に起こっているということですね」


「なっ! それじゃあ、出入口は塞がっているってこと?」

「かもしれません」



 ――って、それじゃあ出られないじゃないか!



 頭を抱えていると、天井がいきなりひび割れて崩壊した。……なんだぁ!?



『――ガラガラ、ドシャアアアアァァ……』



「みんな、離れろ!」



 俺は全員を避難させた。

 的確に指示したので、生き埋めは回避された。あっぶねえ。……それにしても、なんだ、突然。



 上を見上げると、そこには光が。



「外だ……」



 篠山がぽつりとつぶやく。

 どんどん光が広がって、まぶしくなった。


 これは明らかに外光じゃないか!



 だけど、誰がこの穴を開けたんだ……?



「……! 啓くん、上から誰が降りてきますよ」



 北上が銃を向けた。

 マジか。

 俺も警戒するべきか悩んだが……む?



 ロープから降りてきたのは、見慣れない顔だった。



 制服の女の子か……でも、誰だ?

 ポカンとしていると、女の子が俺を睨んで叫んだ。



「お前が倉島か!!!」

「……エ? はあぁ!?」


「問答無用で斬り捨てる!! 死ねぇッ!!」



 いきなりククリナイフを向けてくる女の子は、俺を倉島と勘違いして攻撃してきた。嘘だろ!!


 けれど、北上が俺を庇って相手のナイフをナイフで受け止めていた。



「大丈夫ですか、啓くん」

「銃は使わないのか」

「無駄に死体を増やしたくありませんし、弾がもったいないです」



 冷静にナイフを振るって、相手のククリナイフを弾く北上。相変わらずバケモノだ。



「……くっ! 何者!」

「あなたこそ突然、襲ってきて何者ですか」


「私は、草埜くさの よもぎ。友達の恨みを晴らすため……倉島を殺しにきた!」



 よ、艾!?


 まさか、リコの友達の……!


 この島にいたのか。

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