ハーレムサバイバル 死闘編③(地図の洞窟)

 昨晩の嵐によって多くのゴミが押し寄せていた。

 あの中にお宝が眠っているかもしれない。あとで選別してみるかな。


 岩を超えていくと、崖が見えてきた。


 この島は崖も多く存在する。

 裂けた崖が天然の洞窟になっていた。


 あんなところにあったとは。

 だけど、歩いて行ける距離ではないし……救命ボートかイカダが必要かな。


「洞窟……ですかね」


 北上が興味深そうにしている。


「あそこに八重樫たちが流されたとか、ないよな」

「だとすれば救助が大変ですね」


 どうしたものかと立ち尽くしていると篠山がこう提案してきた。


「ねえ、早坂くん。叫んでみるとかは? もしかしたら、反応が返ってくるかもよ」

「……反応が返ってくる。いや、それだよ、それ! 頭良いな篠山さん!」


「え?」


 すっかり忘れていたが、俺と千年世を繋ぐ『トランシーバー』があったのだ。なんで忘れていたんだろうな。

 これで連絡をすれば、千年世がどこにいるか分かるはずだ。


 後ろポケットに忍ばせてある『トランシーバー』を取り出し、電源を入れた。


 これで……!



「なるほど、トランシーバーですか」

「そうだ、北上さん。まだ電池残量もあるし、千年世が圏内にいれば……通信できるはずだ」


「電波が届きますかね?」



 トランシーバーの通信距離は、機種とかの性能にもよるが三キロ~五キロある。島は大体、神奈川県の江の島ほどの大きさと見た。あくまで俺の体感だけど。


 だとすれば、通信は可能だ。


 俺はトランシーバーの電源を入れて送信してみた。



「こちら早坂。千年世、反応できるか」


『…………、……、…………』



 通信を試みるが、ノイズが返ってくるだけ。通信は厳しいのか。

 諦めかけたその時。



『……さん? そ………すか』


「千年世!? 千年世だよな。おい、今どこにいる!」


『………つ……す! ……さ』



 ダメだ、全然聞こえないし、ノイズが酷過ぎる。ということは……遮蔽物の多い空間にいるということだ。

 トランシーバーの電波は、建物が多くある場所だったり、トンネル内となると通信が厳しくなる。


 ということは……まさかあの洞窟内か?



「おい、千年世! 千年世! 反応しろ!」



 俺は何度も呼びかけるが――ついに、トランシーバーの電池が切れてしまった。


 プツッと消失するディスプレイ。……終わった。


「も、もしかして電池切れですか?」

「うん。電池切れだ」


 交換用電池なんてものはないぞ。

 あの船を漁れば出てくるかな。

 いや、どちらにせよ電波状況が悪すぎた。あれでは会話もままならない。


「千年世ちゃんたち、どこにいるのかな」


 篠山も心配そうにする。

 う~ん、多分あの『洞窟』が怪しいんだけど、確証はない。別の場所かもしれないし……困ったぞ。



「洞窟……ですか」

「ん、北上さん。なにか思い当たることが?」

「ありますよ。啓くん、ひとつ忘れていませんか」

「忘れていること?」


「キャプテン・キッドの地図ですよ。あれは森を指していましたが、実際は洞窟の奥深くかもしれません。ほら、橘川が言っていたではないですか」


 そういえば、あの学年主任の橘川は地底湖を調査していたようだったな。財宝が地底にあると思っていたようだが、実際は違った。


 それが別の洞窟だとすれば……。


「地図の指す場所が『洞窟』かもしれない、ってことか」

「そうです。行ってみる価値はあるかもしれません」


 改めて俺はキャプテン・キッドの地図を取り出した。前に解読済みだが、そこは明らかに森の中。しかも、まだ未踏の地だ。


 危険な動物がいる可能性が高くて近寄らなかったのだが……入る時が来たか。


「分かった。でも、俺たち三人だけで?」

「まずは見に行くだけでもいいかと。一応、武器もありますし」


 これまでの激闘で入手したハンドガンが二丁ある。弾は僅かだが、動物相手なら何とかなるだろう。


「分かった。篠山さんも良いかな?」

「おっけーだけどさ、宝の地図なんてあったんだ。本物?」

「ほぼ本物と見て間違いない。見つけられたら、億万長者かもね」


「お、億万長者って! それを発見して持ち帰れたら、私達大金持ちってこと?」


「金銀財宝があったらの話だけどね。まあ、あの橘川が悪魔的な計画をしてまで探していたんだから……もしかしたら、本当にお宝が眠っているかも」


 俺的には眉唾物だけどな。

 だけど、地図はどう見ても古びているし、この島の地形と合致しているし……。そもそも海外のオークションに出品されるほどの代物。本物で間違いない。


 だとすれば、お宝は存在する可能性が僅かながらに高い。あったら、大金持ちになって……女子にモテモテ!?


 そう思えば、ロマンがあるなあ。



「啓くん。もしお宝があったら、お金持ちになって一緒に暮らしましょう」

「き、北上さん!?」


 いきなりだなぁ。

 でも、それはそれで……悪くない。

 一気に人生の勝ち組になれるってわけか。

 しかも、未発見のお宝を発見したとなれば、世界的なニュースにもなるはず。そうなれば、俺は有名人にもなれるかも。


「ちょ、北上さん、ずるい! でも、私って無個性で魅力ないし……そうだ、早坂くんの愛人でいいや」

「あ、愛人!?」


 篠山は何を言い出すんだっ。

 しかも無個性だなんて……そんなことはない。ちょっと地味、垢抜けないだけで、それが逆に良い。将来は魅力ある大人の女性になること間違いない。



 二人が俺の腕に抱きついてくる。

 抱えたまま俺は地図を頼りに森へ進入していく。……歩き辛いけど、気分は最高だ。



 * * *



 森に入って十分ほど経った。

 相変わらず薄暗くて不気味だ。魔女が出て来てもおかしくない。


 枝を掻き分けながら進むと、小さな丘らしきものが見えてきた。



「お? 傾斜になっているな」



 先行している北上が丘に足を付けた時だった。



「きゃ!?」



 足を滑らせてこっちに倒れてきた。

 俺は咄嗟とっさに北上をキャッチする――が、しかし。反動で後ろに倒れて、背後の篠山を突き飛ばしてしまった。



「ちょ――あぁッ!!」



 篠山は急斜面をゴロゴロ転がって、森の奥へ消えててしまった。



 嘘だろ!?



「……さ、篠山さん!! ……ダメか。北上さん、大丈夫か?」


「…………うぅ、痛い」



 珍しく痛そうな表情をする北上。いつも澄ましているけど、こういう時は普通に痛がるんだ。良かった、少なくとも北上は人間族ヒューマンらしい。


「北上さん、ケガは?」

「だ、大丈夫です。それより……あ!」


「あ?」


「そ、その……啓くん、そこはあたしの胸なのですが……」

「ん……そういえば、右手に柔らかいものがぁぁッ!?」



 光の速さで俺は手を離した。

 ……なんてこった。


 そんなところを掴んでいたのか俺は。



「二人きりになっちゃいましたね」

「篠山さんを助けに行かないと」

「そうですね。でも、少しの間だけ……いいですか」

「え……」



 北上はこちらに向いて、大胆に抱きついてきた。今は、ビキニ姿だから……肌の接触が多すぎる。……こ、これは刺激が強すぎだ。



「好き。……好きですよ、啓くん」

「……き、北上さん。俺は……」

「言ってください。啓くんの素直な気持ちを聞きたいんです」


 その瞳は『言わなきゃ殺す』的な文字を映し出していた。……あぁ、やっぱり北上は根本はそれなんだな。


「お、俺も……北上さんのことは好きだよ。今まで散々助けて貰ったしさ」

「良かった。嫌われていたら、腕とか腿の傷が増えるところでした」

「自傷行為はしないでくれ!」


 それではヤンデレというより、メンヘラの部類になってしまうのだが……北上は、二つの要素を併せ持つハイブリッド型と思って良いな。


「冗談です」

「冗談かよっ」


「……それより、キスして……いいですか」

「なッ! そ、それは心の準備が――あ」


 動揺している間にも、北上は俺にキスしてきた。キスされてしまった……。完全に油断していた。


 しかも、これ以上ないほど気持ちが篭もっている。


 息も、心も、体温も熱くなってきた。


 このままもっと肌に触れていきたい……。


 俺はゆっくりと北上の体に触れていこうとした――が。



『ドドドドドドド……!!!!』



 丘が土砂崩れを起こした……。


 って、俺たちも巻き込まれ――うあああああああああ……!!

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