ハーレムサバイバル 死闘編①(食料確保)

※早坂視点


 悲鳴の方へ向かうと、腰を抜かして震えている琴吹の姿があった。天音も顔を真っ青にしていた。



「ど、どうした琴吹さん!」

「なにがあったのです、天音さん」



 俺も北上も二人に問うが、ダメだ。なにかに怯えてしまっている。俺は琴吹の方へ視線を移す……すると。


 そこにはひっくり返った救命ボートがあった。


 これは……流れ着いたのか。


 俺が確認するか。


 恐る恐るボートを剥がすと、そこには水膨れした遺体があった。



「うあああああああッ!?」

「こ、これは……もんですね」



 少し動揺する北上がそう言った。

 土左衛門……つまり、水死体のことだ。


 腐敗しており、これはもう男なのか女なのかすら分からない。溺死すると、こんなエグいことになるのか……知らなかった。



「す、少なくとも死後数日以上は経っているよな」

「そうですね」



 つまり、昨晩のメンバーではないということ。となれば、あの船の転覆事故で流された生徒だろうな。今頃になって遺体が流れ着いたということか。



「は……早坂くん。そのご遺体、どうする……」



 ブルブル震える天音。足元が覚束ないところを見ると、相当ショックを受けているな。それ以上に、琴吹も失神しかけているが。


 けど、同級生を乱雑に扱うなんて出来ない。


 救いは北上が冷静だったこと。

 おかげで俺も適正な判断が下せた。



「せめて葬ってやろう。このままはあまりに可哀想だ」

「あたしも手伝いますよ」


「ありがとう。天音と琴吹さんは野茂さん、篠山さん、大塚さんを見てやってくれ」


「分かった……」



 天音と琴吹は三人の介抱へ向かった。……さて、俺は名も無き遺体の埋葬作業だ。

 出来ればやりたくないが、つい最近も四人を土に埋めた。慣れたくはないけど、少し慣れていた。



「今後も同級生が流れてくるかもですね」

「不吉なこと言うなよ……」

「大規模な転覆事故――いえ、船舶乗っ取りシージャックだったのです。これから大勢の犠牲者が明らかになるかもしれません」



 そうだな、生徒は三百人以上はいたんだ……。犠牲者がこれから増えていくはずだ。



「ところで、千年世や八重樫たちは見つからないな」

「心配ですね……。ここにいなければ、他の場所に流されたか……」


 生きていることを願うばかりだ。




 それから俺は遺体を埋めて、作業を終えた。




 天音たちと合流すると、野茂、篠山、大塚が意識を取り戻していた。どうやら、怪我はないようだ。



「大丈夫か、野茂さん」

「あ……早坂くん。よかった……よかったよぅ……」


 わんわん泣きだす野茂。つられるように篠山や大塚も泣き出した。


「ちょ……」

「まあまあ、早坂くん。彼女達、あんな嵐の中を流されて来たんだから」

「そうだったな、天音」


 こうして目の前に逆さまのクルーザーがあるということは、大嵐の波で押し返されたとか、大体そんなところだろう。


 まさかこんな事態になろうとは……。


「すまなかった。俺の責任だ」


「違いますよ。誰の責任でもないんです……早坂くんは、島を脱出しようと必死になってくれたではありませんか」


「大塚さん、そう言ってくれると嬉しいよ」


 結構責任を感じていたんだが、女子三人は俺は悪くないと庇ってくれた。……少しだけ肩の荷が下りたかな。


 だけど、まだ千年世、桃瀬、八重樫、ほっきー、リコ、大伊の姿がない。彼女達を探さないと。



「ところで、他の人は?」



 俺の代わりに天音が聞いてくれた。すると、篠山が答えた。



「……分からない。船が物凄い勢いで流されて……気づいたらここに流されてた」

「ということは、他のみんなも流されている可能性は高いわけだ。そうなれば捜索を続行するしかないな」


「うん。千夜ちよちゃんたちを探したい」



 千夜ちよって、大伊の名前か。

 そういえば、そんな可愛らしい名だったな。



「でも、篠山さんたちに無理させられない。もう少し休憩しよう」

「ありがとう、早坂くん」


「いいってことさ。それより、腹減ったろ。チョコレートでも――」



 俺はチョコを三人に分け与えようとしたが、北上が俺の肩を叩いた。何事かと振り向くと、どこかを指さしていた。


「ん? 北上さん、なんだい」

「あれです。そこに落ちている大きなボックスは、船から落ちたものでは?」


「それがどうした……って」


 カーキ色のボックスの付近には、なにやら“黒い袋”が散乱していた。

 それを拾ってみて見ると英語表記のパックだった。


「やはり、そうですか」

「北上さんこれ……」


「軍隊で支給されるコンバットレーションですね。いわゆる“ミリメシ”です。戦闘食とか野戦食と呼ばれるもので、戦地とかで食べるものです。本物ですね」



 レーションは、ごはんやパン、ビスケット、チョコ、ゼリー、フリーズドライ処理されたものなど多くの種類が存在する。それくらいは俺でも知っていた。



「このパッケージはなんだ?」

「それはアメリカ軍の『MRE』ですね。中身はスパゲッティ、ミートボール、ペパロニピザ、ビーフシチューなどですね。もちろん、ビスケットとかチョコもありますけど。あと缶詰もありますよ」


「さすが北上さん、詳しすぎ!」

「いえ、それほどでも……ありますけどね!」


 ドヤ顔する北上が、なんだか可愛く思えた。いや、実際可愛いけどね。こういう表情もできるんだ。



「ねえねえ、それって食べ物?」



 天音たちが顔を覗かせていた。



「ああ、これは間違いなく食糧だよ。かなりの数がある。多分、あのジョン・スミスの備蓄品だろうな。船に大量に積んであったとは……」


 これだけあれば全員で分け合っても一ヶ月は持つはず。

 久しぶりにいろんな味が楽しめそうだな。


「食べ物! 良かった……お腹減ってたの」


 お腹を押さえる野茂。

 昨日からほとんど食べていないし、全員空腹だ。


「みんなで食べよう。いいだろ、北上さん」

「ええ、いない人たちに少し申し訳ないですが、あとで分け与えましょう」

「賛成だ」


 俺は、ビスケットとジャムのセットを配った。みんな瞳をキラキラ輝かせて子供の様に受け取った。


 という俺も、ちょっとテンション上がっていた。

 こういう食べ物は久しぶりだからな。


 いただきますをして、封を開けた。

 袋にはビスケットが二枚。

 それとブルーベリージャムが一個。



 ビスケットにジャムを塗り、それを頬張った。……うまぁ。こんな濃い味のお菓子は久しぶりに食った。

 今朝はチョコレートも食べたけど、それ以上に濃厚だった。



「おいしー! 思ったより美味しいよ、これ」



 天音も満足そうに味わっている。

 気づけば、みんなあっと言う間に完食してしまった。


 美味すぎるもんな、これ。



「……ふぅ。美味かった」

「ありがとね、早坂くん」

「いや、俺じゃないよ、野茂さん。見つけたのは――」


 北上だ、と言おうとしたが本人から止められた。


「このレーションは、早坂くんが見つけたんです」


 ちょ、北上さん!?

 なぜか俺の手柄にしてくれた。

 なんでぇ?


 だが、そのおかげで天音や野茂さんたちの俺の見る目が変わっていた。



「さすが早坂くん。やっぱり一緒にいると色んな発見があって楽しいな」

「ちょっと天音さん、早坂くんに近づきすぎでは!」



 天音と野茂が俺の方に寄ってくる。

 更に。



「わたくしも早坂くんに興味があります」

「うん。やっぱり、子供作るしかないよね」


 げっ!

 大塚と篠山も俺を狙ってきた。



 な、なんか嫌な予感が……!!!

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