脱出不可能の島 side:千年世

※千年世視点


 台風のような嵐の中、船は流されていく。

 奇跡的に船を手に入れ、なんとか乗船できたのはいいけれど……操縦できる者が、私を含めて誰もいなかった。


 でも。


 八重樫さんが北上さんから操縦方法を教えてもらっていたみたい。



「……これを、こうして……」

「大丈夫ですか?」

「多分ね……」


 彼女は凄く焦っていた。

 助けてあげたいけど、自分に出来ることは何もなかった。祈るくらいしか。


 隣で見守る大伊さんたちは、焦っていた。


「ちょっと、八重樫さん。このままだと船が転覆しちゃうよ!?」

「分かっているよ、大伊さん。けどね、船なんて操縦したことないし、なにをどうしたらいいか、まったく分からないの」


「さっき、北上さんから聞いたんじゃないの?」


「そうだけど……あんないっぺんに教えられても……」



 弱気になる八重樫さん。このままでは船がひっくり返るのも時間の問題。そうはさせない。早坂くんたちを助けるためにも、私が何とかする。



「私も手伝います。なんでも言ってください」

「わ、分かった……」


「えっと、なんとか確認して……なにかを押して……その後、キーを回してエンジンを掛ける。……レバーを動かして……あぁ、もう分かんないッ!」



 八重樫さんは、頭を抱えた。

 そんな情報では、私にも分からない。


 船って、そんなに手順があるんだ。


 確かに、ボタンとかレバーとかいろいろあってわけが分からない。



「諦めないで下さい。私がやってみます!」

「ち、千年世さん……分かった。任せる」



 席を交代してもらい、私は教えて貰った曖昧な手順通りに進めていく。桃瀬ちゃんが不安気に見つめてくる。

 いや、彼女だけじゃない。みんなも不安だらけ。


 急いで動かさないと……。



 そう思った時だった。



『――――ガガガガガガッッ』



 変な音がして船体が激しく揺れ動いた。強い波に打たれて、流されたっぽい。



「うわッ!!」「きゃっ!?」「ちょ、やば……」「沈む! 沈んじゃうよ!!」「うそぉぉ!!」



 ガタガタと揺れる船は、今にも沈みそうな音を響かせていた。……これって、初日の船と同じ音がしているような。



「ちょっと!! この船、流されてる!!」



 外を見張っていた大塚さんが叫ぶ。

 激しい波に襲われているんだ。



「と、とにかくキーを回してエンジンスタート!!」



 私は、なんでもいいからキーを回した。車とかだって、キーを回せば動く。それと一緒のはず。


 するとエンジンが掛かって――あれ!?



「ど、どうしたの……千年世さん!」

「八重樫さん、あの……エンジンが停止しました……」

「え、エンジンが!? うそ!! どうして!?」


「わ、分かんないです」


 急にエンジンストップして、うんともすんとも言わなくなった。……上手くいくと思ったのに。なんで……?


 焦っていると、船体が大きく傾いた。



『…………ギィィィィィィィィィ』



 軋むような音が響く。

 こ、これは嫌な予感しかしない……。



「八重樫さん、逃げましょう……」

「逃げるってどこへ! ここは海の上よ。逃げ場なんてない……」



 全員が絶望した。

 せっかく島を出られたと思ったのに……家に帰れると確信していたのに。どうして、どうしてこうなってしまうの。


 私には何も出来ないの……!


 なんとかエンジンを掛けようと、私は必死に抗った。


 でも、それでもエンジンは掛からない。



「この……!」



 苛立った私は、スイッチの辺りを叩く。

 すると、なぜかエンジンがガタガタしはじめて……始動した。



「え……千年世さん!?」

「うそ……掛かった」



 ヤケクソだったのに、まさかの奇跡が起こった。あとは舵を――。



『ドォォォォォォォ……!!』



 けれど、横殴りの波が船を襲った。どこかへ流されていく。こ、この方向って島の方……? 嘘、逆戻りしてるの……?



「ちょ、千年世さん! 船が島の方に!!」

「か、舵が利きません! 操縦不能です!」

「な、なんですってえ!?」


 全員が驚くけど、船体の激しい揺れでそれどころではなかった。みんな船にしがみついて必死。私もこの揺れに船酔いしそうだった。



 それから、大きな波が衝突して――船は一気に押し返されたような、そんな感じがした。



『………………』



 あれからの記憶はない。

 暗闇に囚われてしまい、私は意識を失っていた……。



 絶望……、

 うつつ……、

 魂……、



 どこから降って、どこへ消えるんだろう。



 * * *



「…………ん、暑」



 日差しが強いような。

 ジリジリと肌を焼かれて、私は目を覚ました。


 体を起こすと、そこは薄暗い場所だった。


 でも、さざなみの音が心地よいし、もしかして……島に戻された? 脱出不可能の島ってことなの……?


「気づいたのね、千年世」

「桃瀬ちゃん。ここって、どこ? みんなは?」

「さあ、分かんない。みんな流れたみたいだし、船もどうなったのか。ていうか、ここどこ?」


 洞窟っぽいのは確か。

 もしかして、拠点?


 うーん、でもちょっと違うかな。


 あそこよりも湿気が多いし、水流の音もする。



「どうしようか、桃瀬ちゃん」

「八重樫さんたちを探すしかないでしょ。今は二人だけど、きっとみんなどこにいるはず」


「うん、きっとみんな無事だよね」

「きっとね」



 少し歩こうとすると、桃瀬ちゃんが止めてきた。



「ちょっと、千年世!」

「え……どうしたの?」


「あそこに人骨よ」

「え……ええッ!?」



 洞窟の壁に横たわる人骨があった。……ど、どうしてこんなところに……?

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