はじまりの浜辺と抗えぬ運命...?

 俺に寄り掛かっている天音は、胸元が無防備だった。

 よ~く見ると谷間がわずかに見えていたのだ。さすが巨乳アイドル。


 朝っぱらから、とんでもないラッキーだ。この角度なら壮観。天音が起きないことを祈って、俺は視線を送り続ける。……はずだった。


「……おはよー」


 早くも天音が起きてしまった。タイミングの悪いッ。


「おはよう、天音。出来ればそのままでいて欲しい」

「う~ん? ああ、添い寝。いいよ、まだここのままでいてあげる」


 ポケポケした表情の天音は、全然気づいていなかった。よし、あと少しだけ堪能できそうだな。よしよし。



「天音さん、気を付けた方がいいです。啓くんは、あなたの胸元を覗こうとしていますから」


「……え! そうなの!?」



 頬を一瞬で赤く染め上げる天音は、俺から離れてしまった。……チッ、北上め。余計なことを。



「いや~、誤解しないでくれよ、天音。たまたまなんだ」

「うぅ。恥ずかしい……」


 涙目になる天音はジャージを直していた。あ~あ、あれではもう見えないな。


「不可抗力だ。許して欲しい」

「……うん。別に怒らないけど、やっぱり恥ずかしいじゃん!?」


「悪かった。それより、外へ出よう。嵐は去ったから」

「天気よくなったんだ。さっそく探索だね……って、琴吹さんは?」


「そういえば、気づいたときには居なかったな。外の様子でも見に行ったのかも」

「あ~、なるほどね」


 俺たちもさっそくトーチカから出た。

 すると、直ぐに雲一つない青い空が出迎えてくれた。気持ちの良い風が吹き抜けて、そんなに暑くもない。


 まだ嵐が過ぎ去ったばかりだからかな。なんて清々しい。


 海の方へ歩いていくと、浜辺はゴミが散乱しまくっていた。


「嵐で流されてきたのでしょうね」


 クールな表情で砂浜を見渡す北上は、急に服を脱ぎだした。


「って、北上さん、いきなり!」

「昨晩はお風呂に入っている暇がなかったですからね、朝風呂です」


 とはいえ、水着を着用していた。そんな黒ビキニをどこで拾ったのやら。……しかし、スタイル抜群だな。モデルみたいだ。


 あの透明感あるスベスベの肌も、なにを食ったら、ああなるんだろうな。



「……マジか」

「見惚れちゃいました?」

「そりゃ、男としては当然」

「それは良かったです。では、一緒に泳ぎましょう」



 俺の手を握ってくる北上だったが、天音が阻止した。ですよね。



「ちょっと、北上さん。海水浴よりも、みんなの無事を確認しないと」

「分かっています。でも、女子として体は清めておきたいので」


 なぜか胸元を強調してくるしッ。

 まさか、トーチカでの天音に対抗しているのか。そりゃ、北上もとんでもバストだけどさ。


 なんで二人とも巨乳なんだ……?


 目の保養にいいけどさ。


 仕方ないので、俺も汗を流すことにした。



「さくっと水浴びして探索しに行きますか」


「そうだね、そうしよ」

「決まりですね」



 * * *



 パパっと海水浴を済ませ、水着のまま周辺探索へ。天音も北上も大胆なビキニで、目のやり場に困る。だが、これはこれで……うん、良い眺めだ。


 昨日の海岸まで向かった。


 そこには船の姿形はない。さすがにいないか。



「不吉なことは言いたくないけど、バラバラになった気配はないな」

「ええ、船の残骸も見当たりません。少なくとも、流されはしたのでしょう」


「本来なら出航できないレベルだったけど、タイミングが無かったからな」


 本当にあの選択で良かったのか、今更ながら思った。でも、下手すりゃ嵐で船が流されていた。だから、あれで良かったんだと思う。


 あとは奇跡を願うしか。


 他の場所も探索をしていくが、船の気配はなかった。


 だとすれば、八重樫たちは無事に島を出られたということか。



「啓くん、あたし達が居た拠点と浜辺の方角へ向かいましょう」

「そうだな。でも、その前に琴吹さんはどうする」


 心配していると森の方からガサガサが音がして、そこから琴吹が姿を現した。そんなところから出てくるとは。


「おはよー。早坂くんに天音さん。あと絆」

「おはよう、琴吹さん。どこへ行っていたんだ?」


「そりゃ、もちろん周辺の様子を見に行っていたんだよ。あとトーチカがカビ臭いからねえ、お風呂も兼ねて」


 やっぱり女子は、まずはお風呂なんだな。清潔感あっていいけど。


「これから、俺たちの拠点側へ向かう。琴吹さんもついて来る?」

「当然。ひとりぼっちとか嫌だ」


 その割には単独行動だった気が。まあ、細かいことはいいか。


 とにもかくにも、初日に俺と天音が倒れていた例の浜辺へ向かう。


 元大伊拠点から歩き続けてニ十分ほど。ようやく、ベースキャンプ側に辿り着いた。まさか、またここに戻ってくることになろうとは。


 はじまりの浜辺に戻ってきた。

 少し感慨深く感じていると、天音が声を荒げた。



「……ちょ、あれ……!!」



 指をさす方向に俺も北上も琴吹も、その先を追う。



 すると――



 小型クルーザーが浜辺で座礁ざしょうして、横倒しになっていた。



「「「うそ……!?」」」



 ……な、嘘だろ……?


 信じられねえ……!


 あの大嵐でここまで流されてきたっていうのかよ。しかも、投げ出されている人もいた。



「あれは……野茂、篠山、大塚さんだ。三人だけか?」

「船の中に取り残されているのかも。あたしが見にいってきます」


 北上が走って行ってしまう。


「天音、悪いけど琴吹さんと一緒に三人を看てくれ」

「わ、分かった」



 俺は北上を追いかけた。

 すぐに小型クルーザーへ辿り着き、デッキや窓を覗いた。



「……いないか」

「ええ、今のところあの三人の姿しかありません。他の方はどこへ行ったのでしょうか」

「流されたのかな」


「でしょうね。海を漂っているか、別の島へ流されたか……こんな状態では皆目見当もつきません」



 どうにか全員の無事を確認したい。

 あの三人がいたんだ。


 千年世や桃瀬、八重樫やほっきー、リコとか……大伊だってどこかにいるはずだ。


 もう少し船を探して――



「きゃあああああああああ……!!!」



 な、なんだ、誰かの悲鳴!?

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