第三部:ハーレム生活Ⅰ

新たな生存者とチョコレート

「む……?」

「どうしたの、早坂くん」

「いや、なんか気配がしたような」


「そ、そうなの!? 誰かいるってこと?」

「さあ、分からん。中を覗いて見ないことには……」


 そもそも、大伊たちはテントなんて使わず、このトーチカを使えば良かったのでは。それとも、別の事情があったのか。



「入ってみましょう」



 冷静に進んでいく北上。相変わらず、恐れを知らないな。少しは恐怖とかないのだろうか。


 裏側に回ると出入口があった。

 雨雲のせいで視界が悪い。


 俺はバッグから懐中電灯を取り出して点灯させた。これは、ジョン・スミスが落としたものだ。まだ電池残量も残っていて、使えた。



 通路を照らし、中へ入っていく。



 トーチカの中はカビ臭くて、地面とか壁のコケの浸食も酷かった。ずっと放置されていたのだろう、廃墟状態だ。



「そうか、このカビの臭いに耐え切れずテント生活を選んだんだ」

「み、みたいだね。これはキツイよ」



 天音も不快そうにしていた。

 だが、外は大嵐だし……ここに留まるしかない。


 ――さて、奥だが。



 物陰から“コトン”と音がして、なにかが動き出した。



 小動物?


 いや、違う。これは“人間”だ!



「……それ以上、近づくな!」



 なにかが威嚇してきて、ナイフを向けてきた。女子だ。


 この制服……ウチの高校と同じだ。


 そうか、生存者がいたんだ。



「落ち着け。俺たちは同じ仲間だ」

「……そうなのか。って、絆……」



 絆?

 誰だっけ――と、思ったら北上の名前であったことを俺は思い出した。そういえば、そんな可愛い名前だったな。



琴吹ことぶき かえでさん、ここにいらしたのですね。生きていたとは」

「絆、これはどういうこと! なんで船が転覆したんだよ。この島はなんだ」



 北上は、琴吹という女子に説明をした。終始驚いて――とりあえず、武器は下ろしてくれた。



「――というわけなのです。脱出し損ねました」

「な……なんてこと。でも、仲間がいて良かった……私、ずっと、ひとりぼっちで……うぅ」


 泣き出す琴吹を北上がなだめていた。へえ、北上ってそういう優しいところもあるんだな。



「ねえねえ、早坂くん」

「どうした、天音」

「あの子、ずっとここにいたのかな」

「いや、大伊たちが俺らと合流してからじゃないか。タイミング的にはそこだろ」

「なるほどね。入れ違ったのかなあ」



 大方そんなところだろう。

 しかし、まだ生存者がいたとは……いや、ここは喜ぶべきところだ。喜ぶべきところなのだが……また女子なのか。


 男は、今のところゼロだな。まあ倉島がいたけど、ヤツは今回の事件の首謀者のひとりでもあったしな。ヤツは除外だ。



 落ち着いたところを見計らって、俺は琴吹に話しかけた。



「ちょっといいかな、琴吹さん」

「な、なに。ていうか、君は誰」


「あー…そうだった。俺は早坂。早坂 啓だ。よろしく」

「早坂くんね。私は琴吹ことぶき かえで。絆とはサバゲー仲間だ」



 そういうことか。名前で呼び合う仲ということは、友達か。北上にも友達が――そりゃ、いるか。悲しいかな、ぼっちなのは俺だけなんだなぁ。



「で、君は今までどこで何をしていたんだい?」

「この島に流れ着いてから、いろいろあっちこっち回った。でも、誰とも遭遇できなくて……この建物を発見した。カビ臭かったけど、我慢して寝床にしたんだよ」


「水とか食糧とかどうしていたんだ?」

「雨水で凌いだよ。もう底を尽きる寸前……。食料は、草を食べてなんとか。昔、絆に教えて貰ったから」



 そういえば、北上は食べられる草に詳しかったな。彼女にも教えていたんだろう。



「そうでしたか。無事でなによりですが、この嵐です。しばらくはトーチカで過ごすしかないようです」


「脱出はできないのか、絆」


「無理です。船は出発してしまいましたし……無事に出航できたのかも分かりません」



 そうなんだよな。八重樫に頼んだけど、果たして船を操縦して島を出られたのかどうか……。


 最悪、転覆なんてことも。

 考えたくもないが。



「そうか……。ところで、その、なにか食べる物はない? お腹が減って死にそうなんだ……」



 ぐぅ~~~とお腹を鳴らす琴吹。

 そうだな、俺も腹が減った。


 天音や北上も言わないだけで、空腹のようだった。丁度良い。



「スクールバッグにあった、チョコレートを食べよう。かなり貴重な品だけど、今こそだと思う」


「チョ、チョコレート! そんなお菓子があるなんて……」



 目を輝かせる琴吹は、今にも飛びついてきそうだった。

 正直、これを食べるかどうか悩んだ。

 貴重な甘味だからな。


 だけど、大嵐の今、いつ何が起きるか分からない。今、栄養をつけておかないと、なにかあった時に困るのだ。


 俺は板チョコを四等分をした。


 それをみんなに配った。



「ゆっくり味わえ、天音」

「ありがとう、早坂くん。わたし、チョコレートは大好物なの!」



 嬉しそうにする天音の笑顔に、俺は癒された。……可愛すぎる。



「あたしにも?」

「当然だろ。北上さんには常に力をつけてもらわないと」

「ありがとうございます。ちなみに、あたしもチョコレートは大好物です」


 北上は笑顔っていうか、殺人ピエロの狂気――って、なんで俺を睨むのぉ!? あの目つきは怖いからヤメテ欲しい。



 最後に琴吹にも分け与えた。



「ありがとう、早坂くん」

「おう。飲み物も必要ならあるぞ」

「凄いね。どこでそんな調達したの?」


「流れ着いた物とか、この島の自然から入手した物も多いよ」

「ガチのサバイバルしてるじゃん。すごっ」

「そうしないと生き残れないからね」



 俺はチョコレートを口に入れる。


 甘くて深い味わいが口内に広がって、久しぶりの糖分に脳がバグりそうになった。



 わぁ……美味ぁ。



 天音も北上も、琴吹も全員がチョコレートの味に感動していた。こんな何気ないものが、こんなに極上に思えるなんてな。



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