さらば、無人島...! これで思い残すことは――あああああああッ!!

 雨が強い、視界が悪すぎる。

 このまま突き進めば高波にのまれるかもしれない。


 早く船を見つけないと。


「……な、なんて雨なの」

「足元がぬかるんでいる。気を付けろ、天音」

「うん、ありがとね、早坂くん」


 一歩一歩、前へ進む。

 やがて、大伊たちが拠点にしていた場所に出た。


「うわ、ここは高波で危ない。近寄れないや」

「大伊さん、浜辺は止そう。もっと向こうの大岩あたりが怪しいんじゃないか」

「あ~、あそこね。船を泊めるには絶好の場所かも」


 奥の方に大きな岩が密集している海岸があった。

 周囲の地形からしても、船があるとしたら、あそこしかなさそうだ。


 海岸を目指して再び歩いていく。


 かなり歩いて、ようやくその場所に出た。



「船は……?」

「早坂くん、あれ!!」



 北上が指さした場所には、小型クルーザーがあった。あんな岩陰に隠してあったのか。


「大伊さん、あれだよな」

「うん。例の船で間違いない」



 そうか、なんとか見つけ出せたな。財宝はちと惜しいが、それ以上のお宝を発見した。船に乗れれば、これでやっと脱出できる。


 強い雨風の中を突き進み、なんとか全員で船の前にやって来れた。


 これで、やっと……。



「船だ……」



 天音がぽつりとつぶやく。

 いや、みんなも船を目の前にして感動さえしていた。俺もだ。これでやっと脱出できるんだ。



「こっちに縄はしごがあったわ!」



 篠山が叫んでいた。

 そっちにあるのか。

 気づかなかったな。



 急いで向かうと『縄はしご』が垂れ下がっていた。これを降りれば丁度、船に降りれるわけだ。



「これを降りていく。先に北上さんから行ってくれ。俺は最後に」

「いえ。わたしは、か弱い千年世さんや桃瀬さんをサポートしたいので」


 言われてみれば、千年世と桃瀬は腕が細いからな。運動部でもなさそうだし。


「分かった。俺と北上さんでみんなを降ろす補助をする。天音は先に――」

「嫌よ。わたしは最後まで早坂くんといるの」

「……そ、そうなのか。それって俺といたいって意味か?」


「そ、そ、それは……! うぅ、いいじゃん。別に!」



 耳まで真っ赤にして分かりやすいな。だけど、天音がそう思ってくれるのは嬉しい。



「分かった。先に八重樫、ほっきー、リコ。で、大伊さんチームで行ってもらう。最後に俺たちだ」



「……けど、これを降りるの怖すぎだよ」


 ぶるぶる震える八重樫。

 手を滑らせたら荒れた海に流される。そうなったら終わりだ。助けられない。



「大丈夫だ。俺たちも支えるし」

「お願い……ね」

「ああ、信じてくれ」


 トップバッターは、八重樫。弓道部の部長として立ち上がってくれた。

 ゆっくりと『縄はしご』に足を掛けていく。


「こ、こうでいいの?」

「その調子だ、八重樫。ゆっくりと足を掛けて。落ち着いて」

「う、うん……」


 声が震えているぞ。

 見守っている俺も心臓バクバクだ。


 一段、一段確実に降りて――八重樫はついに船に乗り込んだ。



「おぉ!!」

「いけたよ! デッキが広くて助かった」

「ナイスだ、八重樫。これから、ほっきーやリコもそっちへ送る」

「了解!」


 同じ手順でほっきーとリコを降ろしていく。更に、大伊たちも。野茂、篠山、大塚が無事に船へ。


 あとは俺たちだ。



「がんばれ、千年世と桃瀬」


「大丈夫ですかねぇ……」

「自分も不安しかないよぅ」



 千年世も桃瀬も運動神経はやっぱりないようで、不安しかなかった。いかんな、この二人が一番不安すぎる。



「いざとなったら飛べ。デッキで八重樫たちが受け止めてくれる」

「そ、それでも怖いですよぉ」


 今にも泣き出しそうな千年世。さすがに弱気だ。


「がんばれ、千年世。無事に帰れたら、みんなで帰還祝いのパーティでもやろう」

「パーティ! それは楽しみですね。分かりました。がんばります」


 やる気を出してくれたのか、千年世は『縄はしご』へ向かった。

 ゆっくりと降りていくが――強風が吹き荒れ、千年世が手を滑らせてしまった。



「千年世!! おい!!」

「いやあああああああああああああ……!!!」



 泣きわめいて落ちていく。

 だが、幸いにもデッキにいる八重樫たちにキャッチされていた。……あっぶねぇ。ヒヤっとしたぞ。



「無事か、千年世!」

「し、死ぬかと思いましたあ!! もう絶対に『縄はしご』には挑戦したくありません!!」



 怒ってるのか泣いているのか分からんが、とにかく無事のようだ。


 次に桃瀬。


 彼女は、ぶるぶる震えていたものの……思ったよりもスムーズだった。なんだ、行けるじゃないか。



 さて、これで残るは俺、天音、北上の三人だ。



「「「…………」」」



 なぜか沈黙。

 いや、急いだほうがいいな。早くしないともう台風並みの嵐が上陸しそうだった。危険度マックスレベルの大嵐だ。



「行ってくれ、天音」

「……でも」

「俺も直ぐ追いつくから」

「……うん。ていうか、北上さんは?」


 天音は、北上に対して不思議そうに視線を送る。


「あたしも直ぐに行きますよ」

「ならいいけど」


 この二人は、最後まで仲が悪かったな。俺としては、もうちょい仲良くやって欲しかったけど。


 先に天音を行かせることにした。



「天音、これでやっと家に帰れるな」

「そうだね。短いような長いような……無人島生活だったけど、終わりなんだね」


「ああ。向こうに着いたら、俺と――」



 直後、強烈な風が吹き荒れて『縄はしご』が吹き飛ばされてしまった。




「「「え……」」」




 海の方へ飛んでいく、縄はしご。

 降りれなくなってしまった。




「「「ええええええええええええええええ!!!」」」

「「「ああああああああああああああああ!!!」」」



 うそ……。

 うそだろ、オイ!!!



「お、落ち着いて、早坂くん!」

「北上さん、どうすりゃいいんだよ!! はしごが吹き飛んだぞ!」

「飛び跳ねて下の方にキャッチして貰いましょう」

「だ、だが……俺は体重60kgあるぞ。女子の腕の骨が折れるって」


「そ、それは……細かいことを気にしている場合ですか! 生き残りたいのでしょう!?」


 いやいや、気にするって。

 しかも、船が動き始めていた。

 波が荒すぎるんだ。



「ちょ、早坂くん!! 船が流されていくわ!!」

「すまん、八重樫! はしごが吹き飛ばされた」


「そんなぁ……君たちはどうするのさ!!」


「俺たちのことは構わうな! 誰か船を操縦して脱出しろ!」


「船の操縦方法なんて分からないよ!!」



 雑学宝庫の俺にも分からん。

 船なんて普通は操縦しないからな。

 だけど、察してくれた北上が早口で伝えてくれた。よしッ!



「なんとかがんばれ!! 無事に向こうに着いたら、救助を呼んでくれ。頼む!」

「……早坂くん。分かった。なんとかしてみる! だから、無事でいてね」

「もちろん。八重樫、みんなを頼んだ」


「分かった! また絶対にお会う!」



 船がどんどん流されていく。


 ……なんてこった。


 乗り損ねてしまうなんて。



「ここはもう危険だ。天音、北上さん……緊急避難場所へ向かうぞ」



「うぅ……そんな」

「……無念です」



 天音が落ち込んでいた。

 北上も残念そうに目を瞑る。


 気持ちは痛いほどよく分かる。俺だって……正直言えば家に帰りたかったさ。向こうで、天音に告白とかしてデートとかしてみたかった。


 でも、これが現実リアルだった。


 俺たちはあまりに不運すぎる。

 なんて理不尽。


 自然には勝てないっていうのか。俺に、まだまだ試練を与えるというか。



 * * *



 緊急避難場所は、海岸からそれほど遠くない場所にあった。



「おい、これって……」

「これはどう見ても『トーチカ』です」



 北上が冷静にその名を口にした。


 トーチカ。


 掩体壕えんたいごうの一種で、バンカーとも呼ばれる城塞だ。機関銃とか設置して、敵を迎え撃つ為のシェルターだな。


 これは旧軍の戦争遺跡かな。


「大伊さんたち、これに気づかなかったのかな……」


 俺もだが、天音も初めてみるトーチカに驚いていた。だが、これがシェルターになる。この中で過ごすしかなさそうだな。


 ……ん、なんか中から物音がするような?



----------------------------------------------------------------------

 続きが読みたいと感じたらでいいので

 ★評価していただけると大変嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る