嵐の中の脱出!! 小型クルーザーを探せ

 よく見ると、久保の腕だけが動いていた。

 瀕死状態で今にも死にそうだ。あの重症でよく生きていたな。


「…………倉島、お前だけは殺……す。父を殺した恨みだ」

「があぁぁ……久保、てめぇ……」

「あんな父でも……親だから」


 久保は今度こそ絶命し、息絶えた。

 だが、倉島は足を撃たれただけだった。ならば、俺がトドメを。


 デザートイーグルを構えた。



「は、早坂……俺を殺すのか!?」

「仕方ないだろ。お前は何度も何度も蘇って、俺たちの邪魔をしてきた……どうしようもないクズ野郎だ」


「今度こそ俺を殺せば、お前は殺人鬼だぞ!!」


「かもな。けど、大切な人を守るためだ。俺は財宝よりも大切なものがあるんだ。その為なら……お前を殺す」



 倉島の頭に銃口を向け、俺は引き金をゆっくりと引いていく。



「ひぃぃいぃぃ!! やめ、やめてくれえええええええ!!!」



 情けなく泣き叫ぶ倉島。

 俺は冷静に引き金を――。



「バーン!!」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


「なんてな……あれ」



 俺は声で発しただけなんだがな。

 撃たれたと思ったらしい倉島は、白目を剥いて失禁していた。ピクピク痙攣けいれんして、かなり情けない姿となっていた。これは酷い。



「うわ、サイテー!!」

「……これは、ちょっと」


 天音も北上もさすがに引いていた。


 そもそも、倉島は足から血を流し過ぎていた。顔色も青くなっている。もう長くはないだろう。



「行くぞ、天音と北上さん。もうほっといても倉島は大量出血で死ぬ。凶器だけ回収して……ここは埋める」


 ドクドクと流れ出る血。倉島はとうとう横に倒れて泡さえ吹いていた。もう手遅れた。



 * * *



 俺たちは引き返して、みんなに事情を説明した。



「え……橘川がいたの!?」「は? 久保さんが……死んだ?」「倉島ってまだ生きていたの!! アイツ、ゾンビなんじゃないの!!」「傭兵の男も死んだのね」「ちょっとの間に洞窟内で何があったのですか!」「やばすぎでしょ……」



 みんな騒然となっていた。そりゃ……驚くよな。たった一時間以内で、死人が四人も出たんだだから。


 俺だって信じられねえ。


 裏切りの連鎖が続いて――凶弾によって人が死んでいく。なんかそう思うと地獄だな。


「とりあえず、船が確保できた。みんな、嵐が来る前に乗り込んで島を脱出しよう」



 俺がそう提案すると、桃瀬が手を挙げた。



「この人数が乗れるの?」



 確かに……。

 俺、天音、北上、千年世、八重樫、ほっきー、リコ、大伊、野茂、篠山、大塚、桃瀬で十二人もいる。



「う~ん、船にもよりますね。大伊さん、あなた方が見たという船はどのようなタイプでした?」



 北上が大伊に訊ねていた。そういえば、この二人が会話するの初めて見たかも。



「えっと、あれは小型クルーザーだったと思う。北上さん、ああいう船の定員数が分かる?」

「小型クルーザーなら最大二十名は乗船できますね」



 そう北上が断言すると「おおー!!」と歓声が上がった。しかし、まだ足りない。俺はひとつ懸念があった。


「まってくれ。操縦できる人いるの? 船舶免許もってる人は?」



 ……反応なし。北上ですらお手上げ――でもなかった。



「あたしは船もヘリも操縦できます」

「なにィ!? それが本当なら脱出できるじゃん。さすが北上さん」

「父にいろいろ教わったので」



 よし、これでついに無人島を脱出できるぞ。

 いったん外の様子を見に行く俺。


 うーん……天気は最悪か。


 雨雲がもう目の前まで迫って、雨も強まっていた。雷もゴロゴロと鳴り響いて、良い天気とは言い難い。


 これは下手すると転覆もありえるぞ。


 あの初日を思い出す。


 あの日だって、こんな大嵐だった。



「……これは出航は無理かな」

「しかし、今を逃すと船が流される恐れが」



 北上の言う通りだ。今このタイミングを逃すと、島から二度と出られなくなるかもしれない。多少のリスクは……仕方ないか。



「みんな、船を探しにいく! 多分あるとしたら浜辺じゃなくて、逆の方向だ。大伊さんたちがいた場所の周辺だと思う。ヤツ等は、たびたび反対方向から来ていたからな」



 みんな不安気だ。そうだな、結構無謀な挑戦をしようとしている。下手すりゃ、全員また流される可能性さえある。


 でも――それでも。



「わたしは賛成。早坂くんは、いつもわたしたちを導いてくれた。だから、信じる」

「天音……」


 天音に続くように、北上も。


「あたしもついて行きますよ。もう啓くんと一緒でなければ、ドキドキできないんです」


 北上から、千年世と賛成意見が連鎖して、全員の気持ちが一致した。



「――よし。決まりだ。みんな、大伊さんたちのいた拠点に向かう。大伊さん、道案内を頼めるか」

「もちろん。いざとなれば、避難場所もあるから安心して」



 どうやら、テント生活をしている時に作った塹壕みたいなものがあるらしい。万が一があれば、そこへ逃げ込むしかなさそうだな。


 決まったところで荷物をまとめた。スクールバッグに詰め込めるだけ詰め込み、雨の中を歩いていく。



 ……さらば、拠点。もう来ることも、ないかもな。



 森の中へ入ると、嵐に見舞われた。なんて、風だよ。台風かっ!



「……うわ、キツイです」

「大丈夫か、千年世。俺が体を支えてやるよ」

「ありがとう、早坂くん。助かります」


 千年世の肩に触れる。

 以前の俺なら絶対に無理だったし、その前に女子に拒絶されていただろう。でも、今は違う。信頼関係が生まれていた。


 千年世も俺に寄り掛かってくれた。



「早坂くん、わたしも……」

「天音も? いいけど、なんだ……甘えん坊なんだな」

「ち、違うし!! そうじゃないし! ……もう、バカッ」



 顔を真っ赤にする天音は、ツンとそっぽを向く。でも体は素直だ。手を握ってきた。


 なんだ、本当は支えて欲しかったんだ。


 仕方ないヤツめ。



「分かった。天音のことも支える」

「そ、それならいいけどっ」


 だが、千年世は対抗して俺に密着してきた。――って、そんな大胆にッ!


「だめです。天音さんには申し訳ないですけど、今は、私と先約のはずです」



 なんと、あの大人しい千年世がこんな積極的に俺を欲しがるなんて……珍しいな。



「な、なによ、千年世さん。いいんじゃん。早坂くんを半分こしよ」

「まて、天音。俺をお菓子みたいに言うなって……」


 真っ二つにされたら、敵わんぞ。以前、天音と北上で取り合いがあったな。あれももう懐かしい思い出かぁ――。



 そうしてニ十分ほど歩いて、ようやく大伊たちの元拠点が見えてきた。……あそこに小型クルーザーがあるのか?

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