最後の戦い①

 風呂を出て数十分後。

 みんなも海から戻ってきた。


 天音と北上が特にソワソワしていて、俺に詰め寄ってきた。



「は、早坂くん……大伊さんと何もなかったよね!?」

「あの、啓くん。……殺していいですか」



 天音はともかく、北上は既に殺意が芽生えていた。そんな殺し屋の目で俺を見ないでッ!


 俺は二人をなだめ、落ち着かせた。



「大丈夫だ。二人が思うようなことはなかった」

「本当かなぁ」

「信じてくれ、天音」

「まあいいけどね」

「許してくれるのか」

「……仕方ないよね、女の子多いし……。それに、早坂くんのこと信じてるから」


 そんな風に天音は笑った。

 俺をそこまで信じてくれているとは……嬉しすぎた。期待を裏切らないようにしないと。


 しかし、今は命の危険が。北上だ。



「フフ……」

「不気味な笑いでナイフを向けるなって、北上さん」


「本来なら追及したいところですが、それどころではなくなりました」


 小声で話しかけてくる北上。


「どうした、北上さん」

「どうやら、嵐が迫っているようなのです。水平線の向こうに雨雲多数、海も時化しけていましたから」


 マジか。

 そう言われてみれば、ちょっと湿っぽい空気だ。

 まずいな。嵐となれば、この拠点も無事では済まないかも。洞窟の中で凌ぐしかない。このことをみんなにも共有せねば。



「みんな、聞いてくれ。雲行きが怪しいから、今後は嵐になるかもしれない。備えて洞窟内で過ごそう」


「えっ、それ本当なの? でも、天気良いよ?」

「本当だ、リコ。雨が降る前の空気って分かりやすいからね。ご飯食べて、もうゆっくりしよう」



 早めに飯を作り、洞窟内へ避難した。

 外はもう闇に包まれつつある。

 小雨もはじまった。遥か遠くでは雷の音も聞こえる。……これは荒れるな。



「わ……雨が降ってきた」

「言っただろ、リコ」

「うん、疑ってごめんね」

「いや、それよりももっと洞窟の奥へ行こう。大荒れになった時に大変だからね」


 みんなを移動させ、かなり奥の方へ歩いた。

 出来れば、あの湖には近づきたくはない。それに、傭兵の男もいるからな。


 それを察した北上が耳打ちしてきた。


「啓くん、なんだか嫌な予感がするんです」

「……そうだな。傭兵の男をまず確認しよう」


 俺はみんなに傭兵の様子を見に行くと伝えた。天音と北上を連れて向かった。


 外の天候の影響だろうか、洞窟は湿度が高くなっている。松明の明かりを頼りに先へ進むと、傭兵の男がいた。


 岩に縛り付けてあり、身動きできない状況だ。



「……やっと来たか、小僧」

「ああ、様子を見に来た。外が嵐になるんでね」

「そういうことか……」


 傭兵は以前と違って、ぐったりしていた。生きる気力がないっていうか、力尽きている感じだ。


「じゃあ、俺たちは戻るんで」

「……ま、待て。小僧」

「なんだ、お前と話すことはもうないぞ」


「まて。この俺もさすがに命が惜しい。雇い主……橘川のことを教える」

「そのことは前に聞いたよ。橘川は湖の底にある財宝を狙って、この計画を立てた」


「そうだ。だから、仲間を信じちゃいけねえ! 特にあの女は――ガハッ!?」



 いきなり『ズドン』と音がして、傭兵の男の眉間が撃ち抜かれてしまった。……だ、誰だ!? 誰が撃った……!



『……余計なことを喋るところだったね、ジョン』



 洞窟の奥から誰か出てきた。

 こ、コイツ……なぜ!!



「お前……」

「もうお気づきだろうね。その傭兵ジョン・スミスが吐いているだろうから」



 そこに現れたのは『久保』だった。

 やっぱりそうだったのか。

 傭兵が……ジョンが話したことは本当だったんだ。



 あの日、ジョンは『久保』が全てを握っているのだと話していた。



「久保さん、どうして!!」

「こんばんは、天音さん。どうして? そんなの簡単よ。わたしが橘川の娘だからよ」


「な……うそ」


「嘘じゃない。苗字は違うけど、わたしは娘だった……。アイツは教師になる前から、この計画を進めていたの。わざわざ苗字を変えてね!!」



 学年主任・橘川と久保にはそんな繋がりがあったらしい。

 つまり、橘川の旧姓は『久保』だった。わざわざ苗字を変えてまで、こんな恐ろしい計画を進めていたとはな。


 銃を向けて来る久保は、恐ろしい形相で威嚇してくる。



「やめろ、久保さん。これ以上、罪を重ねるな」

「はぁ!? なに言ってるの、早坂! お前だって倉島を殺しただろ。知ってるんだぞ、湖に死体が転がっていたからね!」


「正当防衛だ」


「正当防衛!? はん、そんな言葉で取り繕って――――あぁぁあぁぁッ!?!?!?」


 久保がいきなり叫んで、ガクガク震え始めた。口から大量の血を流し、信じられない表情をしていた。


 な、なんだ!?



「早坂くん、あれ!!」



 天音が指さす方向を目線で負う。久保の背後には……まさか!



『馬鹿共が……。勝手に殺し合っていればいいものを、ゴチャゴチャと……。知られてしまったからには、全員を殺す必要がありそうだな』



 闇の中に、白髪の男がいた。

 鋭い目つきで俺を睨みつつも、久保の背中からナイフを抜いた。



「ど…………どうして、お、お父さん……」

「サヤカ。私はお前の父などではない。なぜなら、今の私は『橘川』なのだから」


「そ……そんな……わたしは、お父さんの為に……」


「私の為? ふざけるな。お前はキャプテン・キッドの財宝を奪おうとした。その罪はあまりに重すぎる。残念だ……。だから、せめて苦しまないよう殺してやろう」


「お、お父さん……やめて! やめて!!」



 ズドン、ズドン、ズドンと何度も銃声が鳴り響いた。

 久保は即死だった。



「た、橘川……お前、実の娘を!!!」

「やあ、早坂くん。君の活躍はなんとなく聞いている。実は、この無人島には、いくつもの監視カメラを設置してあった。それに、君たちのトランシーバーの内容を傍受していてね。ある程度の情報は目にして、耳にしいてる」


「てめえ! どこまでクズなんだ!!」


「なんとでも言うがいい。それより、外は嵐だ……しばらく逃げ場はないぞ。こうなれば、どちらかが生き残った方が船を入手できるというわけだ」



 そうか、久保がいたってことは船もあるんだ。なら、橘川を全力で止める。



「橘川、お前の悪事はここまでだ」

「馬鹿が。こっちは銃があるんだぞ。これで終わりだ」



 銃口を向けてくる余裕顔の橘川。

 だがこっちにも『デザートイーグル』がある。


 俺は背中の腰にある銃に手を掛けていく。


 決めてやる……一撃で!

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