生徒会長の少女

「じゃあ、早坂くんから入って」

「お、おう」


 俺が先なのか。……ま、まあどっちが先でもいいか。どのみち、入ることに変わりはないのだから。


 とはいえ、緊張するものは緊張する。


 彼女は、まだそれほど知らない相手。爆乳美人の大伊さんなのである。


 あの胸だけで俺は心臓が信じられないほどバクバクしていた。……耐えられるかな。



 高鳴る鼓動の中、俺は土台に乗り――ドラム缶の中へ足をつけていく。



「お、いい湯だな。火力調整は良さそうだ」

「ほんと~? 楽しみ」

「ああ、先に入る」



 足、腰と湯に浸かっていく。う~ん……気持ちい。

 少し熱いくらいだけど、これが丁度良い。疲れが吹き飛ぶようだった。



「……お邪魔するね」

「お、おう。手を貸すよ。跨ぐの大変だろ」

「うん……。けど、あんまり見ないでね、恥ずかしいから」



 大伊は、流れ着いたスクールバッグの中にあったバスタオルを借りたらしく、体に巻いていた。これなら俺も少しは安心できる。いや、裸とそんなに大差はないかも。


 なるべく見ないよう視線を逸らしながら、俺は手を貸した。天音や北上以外の女子とはじめて接触した。


 手を握り、こちらへそっと招いた。



「そのままゆっくり腰を下ろして」

「ありがと。エスコート上手いね、早坂くん」

「そ、そうかな。普通だよ」

「ううん、なんか女の子の扱い、慣れてない?」

「この島に来てから成長したかも」



 あれもこれも天音のおかげかも。最初に行動を共にしたのは天音だった。彼女と一緒に過ごすようになってから、俺の女体耐性も随分上がった。


 それどころかコミュ障もだいぶ改善された。


 以前の俺は、教室の隅でぼっち状態だったからなぁ……。


 それが今は女子たちに囲まれて楽園状態。こんな生活がずっと続ければ俺的は天国なんだが……ずっとはないだろう。


 いつかは帰らねばならない。その為にも、俺は全力で頑張る。



「早坂くんって、天音さんと北上さんと仲良いよね。まさか、どっちかと恋人?」

「いや、今のところは……友達かな」

「今のところねえ。でも、そっか、まだ間に合うんだ」


 腰を下ろし終えた大伊。

 あふれんばかりの弾力ある胸が……俺の目の前で揺れ動く。と、特盛すぎるッ。


 こんな谷間を間近のしたのは人生で初めてだ。


「…………ッ」

「やっぱり胸が気になるよね」

「そりゃ、そんな立派なものを見せつけられては……いや、スマン」


「いいよいいよ。むしろ触ってみる?」


「!? いや、それは……」

「あはは。冗談だって」



 な、なんだ冗談か。

 一瞬、焦ったぞ……!



「ところで、大伊さんは野茂さん、篠山さん、大塚さんを纏めているよね。仲良いんだ」

「杏とは幼馴染。野茂さんとはクラスメイトで、篠山は部活仲間と縁があるの」

「へえ。……ところで、久保さんはどういう人だったんだ」


「…………」


 久保の話を聞いてみようとしたが、大伊は表情を曇らせた。そうだよな、信じていた仲間に裏切られたんだから。


 そもそも触れにくい話題だ。

 俺としても出来れば振りたくないことだった。だが、船を奪っていったなんて……只事じゃない。



「そもそも、女子高生が船を動かせるものなのか?」

「小型船舶免許くらい、高校生でも取れるよ。久保さんは持っていたみたい」

「マジかよ。優秀だな」


 そうか、操縦の仕方を知っていたんだ。


「今でも信じられないよ。久保さんは、生徒会長だったし……成績優秀な人で、人望も厚かった。私達とよく遊んだこともあったのに」



 生徒会長だったのかよ。そんな人が船を奪うだなんて……。


 どうして俺たちを置いていったんだろう。一緒に載せてくれれば、助けを呼んだり出来たはずだ。


 あの傭兵が恐ろしかったとか……最悪なケースは、自分だけが助かりたかったという理由とかな。そんなこと、思いたくないけど。


 更に恐ろしい考え方もできる。



「これは憶測なんだが、久保さんって学年主任と仲が良かったとか」

「まさか……うーん。生徒会長だから、橘川とは話す機会はあるかもだけど……でも、こんな酷いことをする人ではなかった」



 可能性はゼロではなさそうだ。久保と橘川が結託していたのなら、もしかしたら近いうちに現れるかもな。



「きっと、いつか分かるよな」

「多分ね。……ところで、早坂くんは胸の大きな女の子は……どうかな」


「なッ」



 いきなり話を振られて、俺は頭が真っ白になった。なんだこれ、遠回しな告白!? まさか。



「数日過ごして分かったの。早坂くんって凄い人なんだなって」

「そんなことはない。俺は凡人だよ。今まで一人ぼっちだったし、友達もいなかった。彼女もいなかったし……これからもきっと」


「自信持っていいと思う。うん、早坂くんは才能の塊。これは君にしかない特別な力だよ。サバイバルの専門家になれるって」


 こう女の子から褒められると嬉しいな。心に余裕が生まれるっていうか、かなり気分が良い。そうか、俺には才能があったんだな。知らなかった。


「ちょっと自信出てきたよ、ありがとう」

「良かった。これからもよろしくね、早坂くん」



 手を握られ、俺は鼓動が加速した。大伊って、こんなに優しいんだ。

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