リーダーになった俺、女子たちを導く

 気づいた時には、北上が手榴弾らしきものを宙へ蹴り飛ばしていた。……速ッ! チーター並みの瞬足だったぞ。


 全然見えなかった、今の。



『――――――!!!!』



 金属の物体は空へ舞うと大爆発を引き起こした。


 な、なんて爆風だ……!


 こんなの直撃していたら死んでいたぞ。木っ端微塵だ。

 俺は咄嗟とっさに天音を庇い、その場に伏せた。彼女だけでも守らないと。


 やがて爆風が晴れた。



「ク、クソォ!!」



 思い通りにならなくて悔しがる大男。ぐるぐる巻きに縛られて抵抗はできないが、油断はできない。まだ武器を隠し持っているかも。


「北上さん、その男……」

「大丈夫です。武器類は直ぐに接収しますから」


 手慣れた手つきで男の服をまさぐる北上。彼女に任せておけば間違いはないな。


「金髪の女……貴様、何者だ。あの動きは明らかに訓練された者の……軍人の動きだった」


「……黙れ」



 北上は、男の首裏に手刀を食らわした。

 ゴスッと鈍い音がするや、男は一瞬で気絶した。本当、手慣れているな。でも、おかげで助かった。北上がいなかったら、俺たちは爆死していただろう。



「外国人の男はどうするんだい?」

「コイツからは“情報”を引き出します。学年主任の橘川がどこにいるか吐き出させるのです。それに、この島の情報とかも得られるかも」


 その通り。

 事は慎重に進めるべきだ。幸い、この外国人の男には日本語が通じるし、いろいろ知っていることを教えてもらう。


 この島の脱出方法も分かるかもしれない。


 などと考えていると、大伊たちが顔を青くして屈んでいた。



「……うぅ、なんで爆発なんて」「こんな、こんなのって……」「お家に帰りたい」「どうしてウチばかり狙われるの!」「これからどうすればいいの」



 絶望する女子たち。気持ちはよく分かる。俺だって、まさかこんな傭兵みたいな輩に命を狙われるとは思わなかった。

 学年主任が俺たちの命をなんとも思っていなくて、こんな恐ろしい計画を立てていたなんて……ありえないと思った。


 けど。

 けれど、これが現実なんだ。


 未だに多くの生徒は行方不明。

 生存者が何人いるのかも分からない。


 奇跡的に流れ着いたのは俺たちだけ。


 ……いや、見つけ出せていないだけで、どこかに潜んで今も救助を待っているかもしれない。


 でも、全員を助けることはできない。

 どんな正義の味方でもだ。


 せめて……せめて目の前にいる人達は、なんとかしてやりたい。


 だから。



「みんな、落ち着いて聞いてくれ。

 俺たちは確かに苦境に立たされている。船から放り出され、流され……無人島に流された。全てを失って孤立した。……けど、生きている限り常に希望はある。

 なぁに、ここは地球の上なんだ。なにも宇宙を漂流しているわけじゃない。きっといつか帰れるさ」



 俺が必死に鼓舞すると、篠山ささやまが頭を抱えて弱々しくこう言った。



「早坂くん、私達は久保さんに裏切られたよ。そのうえ、学年主任が私達を殺そうとしていたとか……もう誰を信じていいか分かんないよ!!」


「なら、俺は信じてくれ。みんなを絶対、家に帰してやる」


「……け、けど」


「今こそ結束する時だ。バラバラに動けば橘川だけではない、自然に負ける。ある意味、人間よりタチの悪い相手だ。

 ヤツ等は気まぐれだ。

 こっちの意図なんて汲んじゃくれない。容赦なく牙を剥く。

 いいか、俺たちは今……大自然も相手にしているんだ。ここは広大な大海原であり、ジャングルのような森であり、絶壁が連なる岩に囲まれた洞窟。危険な動物や虫、植物だっている。数え切れないほどに」


 人間なんて下手すりゃ蚊に刺されただけで死ぬ。それほどに脆弱な存在だ。だから、こそ生き抜く術を、知恵を身につけないといけない。自然と共存できるよう、協力し合わないといけないんだ。


 俺に続いて天音が口を開いた。



「みんな、早坂くんの言う通りよ。今は身内で争っている場合ではないし、生き抜くことだけを考えた方が賢明だと思う。

 せめて今ここにいるメンバーだけでも、信じあえるよう努力しましょう」



 天音が俺の手を握ってくれた。

 まるで対抗するように北上も。更に千年世や桃瀬も。八重樫やほっきー、リコも続いてくれた。


 大伊たちも複雑そうな顔を浮かべながらも、手を重ねていく。



「ごめん、私達……疑心暗鬼に陥っていた。久保さんのことは一旦忘れる。もしかしたら、救助を呼んでくれているのかもしれないし……まだ信じたい部分もある」


「大伊さん、野茂さん、篠山さん、大塚さん……四人とも、今は不安が多いだろうけど、俺に力を貸してくれ」


「分かった。その見返りに……私達を家に帰してくれる?」


 大伊の真剣な眼差しに、俺は無責任に返事は返せないと感じた。けど、その覚悟がなければ、みんなを導くなんて到底できない。その資格もない。


 俺は……今こそ変わるべきなんだ。


 リーダーって器じゃなかったんだけどなぁ……。だけど、誰かが上に立たなければならない。それが、たまたま俺だったのだ。


 こんな運命が待ち受けていたとはな。――いや、これからの運命の方がもっと大変かも。



「いいだろう。俺が全員を無事に帰還させてやる。だから、文句言わずについて来てもらうぞ!」



「さすが早坂くんね! ここ最近ずっとカッコイイ」

「そ、そうかな」

「みんなそう思ってるよ。それに、みんな君を信じてる」


 うん、と頷くみんな。

 全員の気持ちが一致した。


 そうだ、まだこんなところで終わるわけにはいかないんだ。



 ――その後、俺と北上の交代で外国人の男……仮名ジョン・スミスを見張ることにした。



「なんだか、こういうの久しぶりだな」

「そういえば、最初の頃はこうして番人をしていましたね、啓くん」


「そうだな。懐かしい気分だ」



 そんな会話をしていると、ジョンが意識を取り戻した。



「…………っ。ここは……なるほど、俺は負けたのか」

「そうだよ。ジョン・スミスさん。あんたは負けた。そして、これから色々聞かせてもらうことになる」


「俺はなにも喋らないぞ。雇い主に殺されちまう」


 わざとらしく口を噤むジョン。

 だが、北上がナイフを向けた。


「その口を裂くのは容易い」

「……! ご、拷問をする気か。可愛い顔しておっかねぇな。おい、早坂とか言ったか小僧。この女、やべぇんじゃねえの!?」


「まあね。俺はもう散々命を狙われたよ。もう慣れた」

「な……慣れたって、ヒィ!?」


 北上は、いきなりジョンの首元に刃を向けた。唐突に始まるんだから。


「……殺しますよ?」

「お、俺は口を割らねえ! 情報を漏らしたら、もっと恐ろしいことになるぞ」

「どういう意味ですか」


「言えるか! 言った瞬間、ヤツ等・・・に捕捉され、この島は焦土と化すぞ。そうなれば、お宝はパーになる。全部おしまいだ」


 焦土と化す?

 そんな恐ろしいことも計画してあるってことなのか。いやいや、ハッタリだ。こんな無人島を焦土にするなんて、なんのメリットもないじゃないか。

 

 この男から情報を引き出す。それだけだ。



「話してもらうぞ、ジョン・スミス」


 俺はデザートイーグルをジョンに向けた。



「わ、分かった! 分かったから……命だけは!!」



 これで情報は得られる。

 そうして、俺と北上はジョンからあらゆる情報を引き出した。中でも驚いたのが……。


 ――橘川のヤツ、いったいどこまでやる気なんだ。

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