天音さんと早朝の釣り

 話は終わった。

 内容を聞く限り、今出来ることはあまりに少ない。


 だから、今は自衛に徹するべきだと判断した。



 今日はもう眠ろう。

 考えるだけ脳みそが疲れる。これ以上は煙が出て大変だ。



 ――翌日。



 見張り仕事で一晩を過ごした。ほとんど寝られていない。でも不思議と眠気はなかった。寧ろ元気だった。

 俺はいつの間に超人になったんだ。


 いや、もともと俺は夜型人間だ。深夜までゲームをしたりしていたし。だから慣れていた。



「それじゃ、俺はちと海へ行ってくるかな」



 北上はすっかり眠ってしまっていた。可愛い寝顔を無防備に晒して。

 例の男もぐったりしていた。多分、気絶している。


 見張りを大伊と交代した。

 彼女らは手製の武器も持っているし、銃も預けた。


「これ、引き金を引けばいいの?」

「物凄い反動があるから気を付けてね。ちゃんと両手で持って構えるんだ。下手すりゃ、腕の骨が折れるかも」


「マ、マジ!?」


「ああ、デザートイーグルはそれほどの威力を持つ。すげぇ破壊力なんだぜ」

「うわぁ、こわ……」


 ずっしりとした銃を手に持ってビビる大伊。一応、セイフティの切り替えも教えたし、誤射はないだろう。


「気を付けてね。俺は漂流者を探すついでに、使えそうなアイテムも探してくるから」

「分かった。なにかあったら“無線”で連絡して」


「おう」



 以前、千年世が持っていたトランシーバーだ。まだ電池があって使えた。


 手を振って別れ、俺は天音と千年世と共に海を目指した。



「昨晩は災難だったね」

「そうだな、天音。まさか銃器を扱う傭兵まで出てくるとは……あの録音から推測できたことだけど」


 事態は切迫しているが、攻め込むのは無謀だ。それは、あの男から引き出した情報が物語っていた。


「……これからどうするのですか?」


 不安気な眼差しを向けてくる千年世。


「んー、とりあえず島生活を続けるよ。あの傭兵によれば橘川の財宝捜しは時間が掛かるらしい」


「時間が掛かる?」


「ああ、この島の地下には“巨大洞窟”があるらしいんだ。地底洞窟というのかな。迷宮のようになっていて、下手すりゃ一生出てこれないってさ」


「そんなところでどうやって財宝を探すんです!?」


「海賊といえば『宝の地図』だろ。傭兵が言うには、橘川は海外のオークションを狙って高値で落札したらしい。その額だけでも日本円にして一億円だとか」



「「い、一億ぅ!?」」



 天音も千年世もビックリする。


 海外オークションでキャプテン・キッドの宝の地図を思われるものが出品されたようだ。それが本物か定かではないが、放射性炭素年代測定では、およそ350年前のもの判明したらしい。


 だとすれば、限りなく本物に近い代物だろう。それをあの橘川が落札するとはな。そして、あんな恐ろしい計画を実行するなんて。



「とにかく、橘川は財宝を探すべく地下に潜っているらしいんだ。かなりの厳重装備のようだよ。多分、近づけば反撃を受けるだろうし……リスクが高すぎる」



 だから、俺は『自衛』をすべきだと思った。いつか現れる橘川を迎え撃てるように。


「そっかぁ。その方がいいよね。こっちはこっちで島の脱出を考えたり、生活の方を優先しないとだし」

「それでいいと思うよ、天音。俺たちの当面の目標は、橘川を倒すとかではなく。あくまで自衛であり、無人島での生活が大切なんだ。生きることだけを考えよう」


「うん、それって大切なことだよね」



 そうだ。戦うことが全てではない。

 橘川の悪事を本州で知らせればいい。そういう戦い方だってあるはずだ。


 森を抜け、海へ出た。



「流れ着いた者がいないか、あとアイテムがあるか探し回ってくれ。俺は、釣りをしながら探す」


「「了解」」


 二人とも素直に返事をして応じてくれる。


 さて、俺は北上が作った『釣竿』を使うか。太くて頑丈な枝を使い、そこに網を解体した紐を括りつけてある。針は安全ピンを加工したものだ


 エサは森の中で取ったミミズを使う。


 よくまぁ器用に作れるものだと感心する。北上は、絶対只者ではない。特殊な訓練を受けた特殊人間か異世界人だろう。間違いない。チート美少女だ。



 俺は、浜と海の境界線まで向かい、そこで遠投した。



 果たしてこれで釣れるやらな。

 幸い、波は穏やか。


 潜って銛で獲った方が早そうな気もするが、俺は泳ぎが苦手なのだ。それに、こうして朝からほのぼの釣りをするのも気分転換になる。


 そうだ、俺はこうしてまったり釣りをしたかったんだ。

 美少女に囲まれてな。



 夏の太陽、夏の風、夏の潮。

 透明度抜群の海水。


 ここに立っているだけで癒される。……おっと、油断をしていると何か掛かったらしい。


 俺は竿を引っ張り、糸を手繰り寄せていく。結構大きいらしい。



 力強く釣り上げると、それは……おぉ!


 ケンサキイカじゃないか。


 スルメで有名だな。

 イカ焼き、天ぷらにしても食べられるようだ。これは大当たりだ。



「早坂くん、なにか釣れた~?」

「おう、天音。イカが釣れたぞ」

「え、イカ? わ、ほんとだ。本物見るの初めてだよ。こんな風なんだ……」


 生きているイカを始めて見たらしい、天音は興奮していた。人差し指で触れて楽しそうだ。



「イカ焼きにして食えるぞ」

「いいね! イカ焼き。絶対美味しいじゃん」

「人数分釣ってやるからな」

「楽しみ! ていうか、早坂くんって釣りの才能もあるの!? 凄すぎ~」


「サバイバルの基本っていうか……日本中で誰でもやっとるぞ。釣り人口かなりいるしな。海釣り趣味の人は、家に持ち帰って捌いて食べる人が大半だし、食費が浮いていいぞ~」


 ただし、釣り竿などの初期投資、餌を付けられるかの問題も発生する。基本的に、ミミズとかニョロニョロ系の虫をつけないといけないしなぁ。


 エビとかサビキもあるけど。


 食べる時は処理もしないとだし、鱗取ったり内臓取ったり慣れないとね。



「うーん、わたしには無理かもぉ」

「そっか。俺の家は自給自足主義でね。畑とか釣りで賄っているんだ」

「早坂くんの家ってどんな生活なの!?」


「クソジジイとクソババアが畑をたくさん持っているんだ。ジャガイモ、ニンジン、ダイコン……蜜柑からいろいろやってる。で、親父と俺は釣りとか、サバイバル術で食べられる葉っぱや山菜を採ったりしているな」


「……な、なんだか凄いんだ。尊敬する」

「だから、サバイバルには強いんだ」

「へえ。早坂くんのこともっと知りたいな」

「いいよ。釣りしながら話そう。俺も天音のことをもっと知りたい」


 千年世には、ちょっと悪いけど天音との甘い時間を過ごさせてもらうぞ。

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