再び拠点開発へ! 超危険生物接近の予感...

「な、なんなのこれ!」


 合流したばかりの大伊たちが声を荒げた。彼女達だけではない、北上や八重樫たちも学年主任の計画を聞いて耳を疑っていた。


 当然の反応だ。


 俺だって未だに信じられない。


 だが、この声は間違いなく倉島と学年主任の橘川だ。

 船が沈む前に密会があったんだ。桃瀬はたまたま現場に居合わせて録音してくれたが、この証拠がなかったら、橘川の存在は永久に表に出なかったかもしれない。



「というわけだ。もしかしたら、この島が『宝島』であり、学年主任の橘川が潜伏している可能性がある」



 全員が沈黙して青ざめた。

 まさか橘川が生徒の命をなんとも思っていなかったなんて……そんなことは信じたくもなかったはずだ。俺もだ。


 だけど、これが紛れもない現実だ。


 ヤツの悪魔的計画に抗うには生き残るしか術がない。


 そんな重苦しい空気の中、八重樫が手を挙げた。



「なら、今度は橘川を倒さなきゃね。あるいは島を脱出して録音データを世間に知らせる。動画サイトでもテレビ局でも何でもいいから拡散するしか」



 その通りだ。だが、島の脱出はかなり難しい。荒波に耐えられるちゃんとした船がないとな……。


 ……いや、待てよ。


 橘川がこの島に来ていると想定する。なら、その方法は?



「桃瀬、もう一度録音を聞かせてくれ」

「りょ、了解……」



 俺は何度も早送りしたり巻き戻してもらったりした。……そして、その時だった。気になる情報が現れた。



『――この計画の為に雇った外国人ジョン・スミスが用意したボートで“宝島”へ向かう』



「そこだ!」

「え、どこ?」

「今の部分だ。その『外国人ジョン・スミスが用意したボート』ってところだ。もし、この島に来ているのなら、どこかにボートがあるはずだ」



 その瞬間、全員がざわついた。

 俺に視線が集まりドキッとした。この人数の女子から注目されると、さすがの俺も焦る。慣れないなぁ。


「早坂くん、これはつまり……ボートがこの島にあるってことですよね」


 北上が冷静に言った。


「恐らくだけどね。けど、敵はひとりではない可能性もある。外国人のジョン・スミスもいると考え……敵は二人か、それ以上か。武器が必要だな」



 倉島は銃を持っていたし、橘川と外国人とやらも所持している可能性がある。遭遇した時のことを考え、なにか武器を作っておかないとな。



「どうしましょうか、早坂くん。武器でも作ります?」


「そうだな、千年世。これだけの人数になったし、今後は『拠点開発チーム』、『武器・罠作成チーム』、『食料調達チーム』に別れた方がいいと思う。捜索は、不定期に俺と誰か二人でいいだろう。一応、多数決を取る。賛成は挙手を」



 ――全員賛成だ。


 これで方針は固まった。

 チーム分けはこうなった。



 拠点開発チーム:早坂、天音、千年世、桃瀬


 武器・罠作成チーム:北上、八重樫、彼岸花、宝珠花


 食料調達チーム:大伊、野茂、久保、篠山、大塚



「北上さんは、武器と罠の開発を頼む。知識ありそうだし」


 彼女は、少しジトッとした目で俺を見る。多分、チームが連続で同じにならなくて不満があるのかも。また病んで刺されないといいけど。


 心配していると北上は、軽く溜息を吐いた。


「……仕方ないですね。確かに、あたしたちには武器がなさすぎる。この島は動物も出現するようですからね、備えあれば何とやらです」


「ありがとう、北上さん」

「いえ、その代わり後で付き合ってください」

「お、おう」


 武器と罠は任せた。

 食料調達チームの方にも確認を取っておこう。


「大伊さん、これからよろしく」


 腕を組み凛々しい表情で俺を見据える大伊。なんだか、ちょっとおっかない。

 けれど直ぐに表情を崩して握手を交わしてくれた。なんだ、友好的じゃん。


 大伊は美形で柔道とか剣道部っぽい雰囲気。正直、近寄りがたいのだが……頼れそうでもあった。

 そもそも、野茂、久保、篠山、大塚を纏めていたリーダーっぽいしな。


「よろしく、早坂くん」

「食料の確保をお願いしても良かったかな」


「うん、構わないよ。銛を貸してもらったし、これで魚は取れる。あと、食べられる草や実の情報をもらったから。

 それに、あんずが釣りが趣味なんだ。ねえ、杏」


 杏――ああ、大塚のことか。

 あのツインテールの女子が『大塚おおつか あんず』というらしい。どうやら、釣りが趣味らしく今までも彼女が釣りをして魚を釣ってくれていたようだ。

 へえ、おっとり系のお嬢様っぽいのに意外だな。


「どうも、早坂さん。わたくしは大塚です。二年D組の大塚 杏と申します。以後お見知りおきを」


 口調とか雰囲気とか、まさにそれ。

 おぉ、俺は初めて本物のお嬢様と話したな。いるんだなぁ、こういう子が。

 でも、釣りをするような感じには思えない。


 う~ん、ちょっと現場を見てみたい気もするぞ。いつか同行してみるか。


「よろしくね、大塚さん」

「はい。わたくし、早坂さんに大変興味があるので、いっぱいお話とかしましょうね」


 柔らかい笑みを向けられ、俺は胸を『ズキューン』と撃たれた気分に陥った。


 なんだこの子、天使だ……!


 おっとり系お嬢様のスマイルの破壊力、スゲェや。



 感動を噛みしめながらも、俺は自チームの方へ合流。


「やっと来た。早坂くん、わたし達はどうするの」

「すまん、天音。遅くなった。俺たちは拠点開発を進める。俺なんか『貯水池』を放置しっぱなしだからな、続きを進めたい。それに、生活環境ももっと向上させたい」


 けど、俺ひとりの力では無理だ。

 みんなの力が必要だ。


 俺はそのことを伝えた。


「私は賛成ですよ、早坂くんっ」


 千年世は、可愛い敬礼をしながらも賛同してくれた。続いても桃瀬も「なんでも言って~」と乗り気だった。よし、二人とも指示通り動いてくれそうだ。



「いったん、学年主任のことは忘れて生活の方を重視しよう」


「「「おお~!!!」」」



 スコップを借りたので、貯水池の壁を更に固めていく。



「えっと、まずは皆で海水を確保しにいく」

「え、どうして?」


 首を傾げる天音さん。

 千年世と桃瀬も理解していないようだし、俺は説明した。


「飲み水を使うわけにはいかないからな。海水を使って粘土を作るんだよ」

「なるほどー! あぁ、貯水池の壁を固めるんだ」

「そそ。今のままでは強度が無さすぎるんだよ。粘土で更に強固にしてから丸太で覆う」


 そうしないと壁が崩れてくるからな。そうなると水が汚染されてしまうし、生活水として機能しなくなってしまうのだ。



「それでは出発進行ですねっ」



 千年世の掛け声と共に、俺たちは拠点を立った。

 目指すは、いつもの浜辺だ。



 * * *



「――あづぃ……」



 今日は真夏日。燦々さんさんと降り注ぐ容赦ない陽光が肌をジリジリと焼く。……まずい、ミディアムレアにされてしまう。


 汗を掻きながらも森を抜けて、ようやく浜辺。


 その直後だった。


 天音たちが覚束ない足取りだったはずだが、急に水を得た魚状態になり……服を脱ぎ捨てた。


 って、ああああぁッ!?


 お、俺の目の前で……まったく気にも留めずに丸裸に!



「あ、天音さん!? 千年世! 桃瀬は……スク水だったな」



 裸の乙女たちは海へ次々とダイブしていく。どんだけ暑かったんだか。という俺も海へ入りたい気分だ。この汗とか汚れを吹き飛ばしたい。

 なので俺も自然に身を委ねて疾走した。



「「「「う~~~み~~~!!!!」」」」



 バシャバシャと水を掛け合っていく。



「楽しいね、早坂くん!!」

「あぁ、でも天音。丸裸だけど大丈夫か?」


「えー? なんのこと――おぉ!? イヤアアアアア!!」



 俺が指摘すると天音は叫んだ。

 今更気づいたのかよ!!


「天音、せめて下着くらいつけろって」

「わ、わたし……全部見られちゃった……お嫁にいけない」


「大丈夫だ、俺が貰ってやるからさ」

「え?」



 って、なにを言っているんだ俺ー!!

 つい勢いで口走ってしまった。

 この島にいると変に気が強くなるようだ。俺としたことが……恥ずかしい。



「すまん、なんでもない」

「……それならいいけどね」

「いいのかよ。――って、天音の下着とかジャージが流されてないか!?」


「へ……あ! あれ、わたしの服ぅー!!」


 なんと風で飛ばされて波にさらわれていた。いかん、このままでは天音が裸で生活することになってしまう!


 それはあまりに可哀想だ。


 俺がなんとかする!


「任せろ。天音の服は必ず俺が取ってきてやるからな」

「……早坂くん、かっこいい……惚れちゃった」


「天音……無事に帰ってきたら、俺と結――」

「ああ!! 早坂くん! 愛ちゃんの服が!」


 おっと危ない。桃瀬のおかげで俺は死亡フラグを飲み込めた。そうだ、今は愛の告白なんぞしている暇はない。



 俺は、クロールで天音の服へ近づいていく!


 よし、今は波も穏やか。大チャンスだ。これで……む?



 俺の周囲に『三角形状のヒレ』が複数・・見えた。



 ……やっべ、囲まれた。


 この血に飢えた大きなお魚さんは……まさか!

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