スクール水着の少女と恐ろしい計画の録音データ
この海域に船が通ることが分かっただけでも大収穫だ。いつかきっと俺たちの存在に気づいてくれるはず。
「希望が湧いてきたね。これなら帰れるかも」
「そうだな。船が見えたってことは、ここは日本の領海で間違いなさそうだ」
外国の島でもない。地図にない島でもない。パラレルワールドでもないようだ。ここは日本なんだ。
安堵していると――ん?
海の方で人間の姿が見えたような?
「どうしたの、早坂くん」
「いや……今、人がいなかったか?」
「え、どこ?」
天音に起き上がってもらい、俺は警戒しながら歩いていく。すると、荒波に揺られて飛来してくる小さな影があった。
「……ぐぅ、あああぁぁ! また失敗!」
「うわッ、なんだ!?」
浮き輪? らしきものが俺の方へ落ちてきて、ドシャッと衝突。俺は腰を抜かした。
「ひえぇぇえ……! いたーい!」
「ちょ、なんだよ!!」
なにかに踏まれる俺。
いったい、なにが飛んできた……?
「早坂くん、大丈夫!?」
「あ、ああ……幸い、ケガはない。てか、これをどうにかしてくれ」
「う、うん。って、このコって」
俺から未知の物体を引き剥がしてくれる天音。改めて確認すると、それはやっぱり浮き輪で……幼い少女が乗っていた。
「え……小学生?」
「ちゃうわいッ! 高・校・生! 高校生だから!」
マジかよ。
ぜんぜん高校生に見えないな。
しかも水着もスクール水着だし。名前も『
「君、うちの学校の生徒?」
「そうだよ、早坂くん! 同じクラスだよ!! 覚えてないの!」
「そうだったのか……!?」
「意外そうな顔で驚かないでよ」
てか、女子が俺の名前を覚えていてくれたとか、それだけで感動だ。俺は透明人間扱いされていると思ったのだがな。勘違いだったのか。
「よく俺って分かったね」
「あのね、同じクラスの人の名前くらい暗記するよ、普通。それにしても、愛ちゃんと一緒だったとはね」
いや、暗記はしないだろ。面倒くさいし。
あれか、桃瀬は全員の名前を覚えるタイプか。几帳面だなぁ。などと感じていると天音が桃瀬に状況を聞いた。
「桃瀬ちゃんだったんだ」
「やあ、
どうやら二人は仲が良いらしい。
「うん、こっちは早坂くんや別のクラスの生徒と一緒だったからね」
「そうなの。ウチはずっと孤独なサバイバル生活を送っていたよ」
「え、一人で!?」
「そうだよ。あの台風の日……ある情報を入手したんだ」
「情報?」
「ウチは、学年主任の話を聞いちゃったの。
倉島……だと。
アイツ、学年主任とそんな密会を?
まてまて、じゃあこれは最初から仕組まれていたことなのか……。ていうか、キャプテン・キッドの財宝って、だとすればここは『宝島』なのか。
「それ本当なの、桃瀬ちゃん」
「スマホの録音にも残ってるよ」
どうやら、桃瀬のスマホは無事のようで――録音を再生してくれた。
『…………倉島、私は生徒の命はどうでもいいと思っている。それよりも莫大な富が……財宝が欲しい……』
この渋い声、学年主任の声!
マジなのか!
『
『お前しか頼れる者がいないからな。
倉島、お前がある組織のボスの息子だということは承知だ。分かったうえで、お前を学校に入れてやったのだからな』
『そうでしたか。で、俺に船を沈めろと?』
『そうだ。もう準備は整っているのだろう』
『当然です。船体に爆薬を仕掛けてあります。いつでも爆破して沈められます。しかも今日は幸いなことに台風も接近中。生徒は確実に散り散りになるでしょう』
『それも予想の範囲内だ。お前好みの女子はくれてやる。好きにすればいいさ。
私は、この計画の為に雇った外国人ジョン・スミスが用意したボートで“宝島”へ向かう。あそこにはキャプテン・キッドの財宝が眠っているのだからな』
『本当に財宝なんてあるんですかねえ。てか、生徒を巻き込むとか鬼ですか』
『私は
筋書きはこうだ。
船が台風直撃によるダメージを受けて転覆……複数の生徒が投げ出され、溺死。あるいは行方不明……まあ、運よく漂流する者もいるだろう。だが、この絶海で生き残れる者は少ない。ほとんど死に絶え、この事件は不運な事故として処理される。
倉島、お前は好きな女を手にし、どこかの島で理想郷を作れ。私は財宝を手に入れ……外国へ高飛びする』
『分かりましたよ、先生。俺は天音とか可愛い女が十人ほど手に入れば十分ですよ。奴隷ハーレム帝国建国の時です!! ……フフ、フハハハハハ……!』
――そこで録音は切れた。
とんでもない内容に俺も天音も絶句。
三分ほど立ち尽くした。
「……なんだこれは!!」
「倉島と学年主任が……そんな。じゃあ、船が沈んだのって……あの二人のせいってことなの!」
俺も天音も憤慨した。
まさか、倉島だけではなく学年主任の橘川が計画していただなんて……生徒の命をなんとも思っていないなんて!
私利私欲の為に船を沈めたっていうのかよ。あまりに残酷だ。こんなのは絶対に許しちゃいけない。
「ウチも最初はなにかの冗談とかドッキリかと思った。でも、本当に船が沈んだ時に確信した。あの二人は悪魔なんだって……。
ごめん、ウチがもっと早く知らせていれば、こんなことには……」
「いや、普通は信じられないと思うよ。それに、この島に学年主任の橘川がいる可能性があるってことだよな」
「恐らくこの島は『宝島』だと思う。確信はないけど」
倉島は倒したが、本当の敵は学年主任か……。
もしかしてあの湖で泡立ったのも……倉島のものではなく? いやいや、まさかな。あんな場所でスキューバダイビングでもしていたっていうのか。
でも、財宝を探していたというのなら……辻褄が合うような気が。
「このことを拠点の皆にも知らせよう」
「拠点?」
「俺とか天音が寝床にしている洞窟があるんだ。桃瀬さんも来なよ」
「うん、頼るところもないし、お邪魔しよっと」
「てか、桃瀬さんはどこで暮らしていたんだ?」
「ウチはこの近くにある木に網を張り巡らせて、ハンモックにして寝てた」
なんて器用な真似を。どうやら、桃瀬は木登りが得意らしい。木々に生えている実とかを採って凌いでいたとか。
それと便利なアイテムもいくつか持っているみたいだ。
俺の方もこれまでの経緯とかを桃瀬に話していく。
そうして森を歩けば拠点に到着。
焚火の前に座る北上や千年世の姿があった。
「おはよう、北上さん」
「おはようございます。どこへ行って……って、その子」
「ああ、この桃色の髪をした少女は、俺と同じクラスの桃瀬さんだ。浜辺で拾った」
「ひ、拾った!?」
「話すと長いのだが……とりあえず、重要な話がある。八重樫と大伊さんたちが集まり次第、みんなに話す」
全員の集合を持ち、一時間が経過。
大伊たちも元拠点から歩いてきたので、これで俺を含めて十三名か。やっぱり女子だけという……。これは倉島が考えていたプランなのだろうか。
だが、中心にいるのは俺だ。
悪いな倉島。
お前の計画は阻止してやった。
けど、重要なのはそっちではなくなった。
俺は桃瀬の録音をみんなに聞かせていく……。
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