ヤンデレの恋の冒険
元の道へ引き返し、洞窟前へ戻った。
すると、あれだけの騒ぎだった女子たちは、地面に倒れて息を乱していた。……どんだけ争っていたんだか。
「……あ! 早坂くん、どこへ行っていたんです!」
「やあ、千年世。悪い、天音に拉致られてさ。北上さんも合流したから、ちょっと洞窟の奥にいたんだよ」
「洞窟の奥に?」
「さっき俺の取り合い? みたいなのが起きたろ。で、こっそり洞窟の奥へ退避していたんだが――向こうで『倉島』と遭遇した」
俺はそう説明すると、八重樫が声を荒げた。
「ウソ!? この洞窟に倉島がいたの!?」
「あ……ああ、潜伏していた。この奥に地底湖があって島の反対側に繋がっていた。ヤツは泳いできたらしい」
「…………なんてこと。それで、どうしたの?」
「ヤツを倒した。倉島は銃を向けてきてね、こっちは丸太で対抗した」
などと現実離れした対処方法を詳細に話すと、騒然となった。
「えー、そんなことあるぅ!? 丸太って……そんな強いの~?」と、リコが頭を抱えていた。まあ、リーチはあるし、槍みたいなものだしな。
届きさえすれば結構痛いはずだ。
それを証拠に、倉島は肋骨が折れていたらしいし。
俺はその先の銃の話をしようとしたが、天音が遮った。
それから小声でこう囁いた。
「早坂くん、それは内緒にしておこう。三人の秘密。墓場まで持っていくの」
「だが……いいのか。本当のことを言わなくて」
「うん。いいと思う。この中にも嘘をついている人……いると思うし」
「なんでそんな事が分かる?」
「実際いたでしょ。怪しい人」
……まあな。
なにかあるとは思いたくないけど。
とりあえず、俺は銃のことは喉の奥へ飲み込んだ。
「ねえ、ちょっと……早坂くん」
「うわッ! な、なんだい……大伊さん」
「倉島って誰よ」
「あー…」
そうだった。新しく入った五人組の女子たちには説明していなかったな。
俺は『倉島』のことを詳しく話した。
五人はドン引きして悲鳴を上げた。
「うわ……キモッ」「天音さんをストーカー!?」「え、え……船を沈めたのー!」「なにわたしら巻き込んでるのよ、そのクズ男!」「そんなゴミ男……殺せ、ぶっ殺せぇ!!」
そこまで拒絶反応を示すとは……倉島、お前めちゃくちゃ嫌われてるぞ。同情はできないが。
「というわけで、ヤツは地底湖に流されて行方不明だ」
嘘は言っていないぞ。
生死は不明だが……いや、死んだはずだ。俺は確かにヤツの胸を撃ち抜いたのだから。
「そっかぁ、良かった」
安堵する大伊たち。
しかし、こうなると彼女達も拠点で過ごすことになりそうだ。いや、もうそうするしかない。
「大伊さんたち、ここで一緒に暮らすかい?」
「え、いいの?」
「力を合わせれば快適な生活が送れる。この人数なら家でも作れると思うぞ」
「いいねえ。テントは不安定だし、強風で吹き飛ばされる心配があったからね」
決まりだな。
大伊たちは、今日は戻るという。
島の反対側にある拠点に荷物を残したままだから、取に行きたいらしい。
俺は護衛しようか? と提案するが、五人もいるから大丈夫だと丁重に断れた。ので、きっと大丈夫だろう。
* * *
逢魔が時――また夜を迎える。
この島に流れ着いて何日経ったっけ。
いろいろありすぎて忘れてしまった。
まあいいか、今は島の生活がそれなりに楽しい。
女子たちに囲まれてワイワイする人生も悪くない。寧ろ天国だ。
ファイアースターターでバチッと一発。
暗くなる前に俺は焚火を作った。
上手く炎が上がると、北上が褒めてくれた。
「職人ですねえ、早坂くん」
「やあ、北上さん。……って、それって」
「ああ、これ。この前のイノシシ肉ですよ。燻製にしたんです」
「え!? いつの間に……燻製器はどうやって?」
「実は今日、彼岸花さんが『一斗缶』を入手してくれたんです」
「一斗缶を!?」
一斗缶といえば、化学薬品とか入った金属缶だ。う~ん……なんか衛生面的に使い辛いけど、大丈夫なのだろうか。
「ご安心を。『
「あぁ、お煎餅の方か。なら大丈夫だな」
「しかも、一斗缶なら火事のリスクも減るので焚火にもってこいです」
風の影響を受け辛いし、ありだな。
料理もしやすくなるし。
「なるほどなぁ、これはレアアイテムを入手したな」
しかし、肝心のリコたちは不在なんだよね。
今は北上しかいない。
珍しく二人きりだ。
「ところで早坂くん」
「そ、そんな見つめて……なんだい、北上さん」
「そろそろ溜まっているでしょう……?」
「――は? な、な、な、なにが!?」
「いろいろです」
「いろいろ!?」
「はい、いろいろです……」
なぜかこっちに接近してくるし!
やべえ、今の俺……蛇に睨まれた蛙状態だ。動けねえ。
「スッキリさせてあげましょうか」
耳元で囁かれて俺は脱力した。
こ、これは破壊力が……凄まじすぎるだろう。ていうか、これ以上は危険すぎるって!! 万が一、天音たちに見られたらまた戦争勃発。
今度は核戦争だぞ!!
「ス、ストップ!」
「……大丈夫です。最後まで責任をもって気持ち良くさせてあげますから」
「――んなッ!?」
お、俺……襲われるぅ~~~!?
目を瞑って覚悟していると、北上は俺の背後に回った。……なんぞ?
身構えていると北上は――俺の肩を揉み始めた。
「がんばりますね、マッサージ」
「…………」
「あれ、どうしました、早坂くん」
「いや……俺は、えっちなマッサージを期待したんだがな」
「じゃあ、好きって言ってください。そうしたら考えます」
「……ッ」
迷っていると、北上はナイフを取り出した。
「言って下さい。あたしを好きだと……」
「脅しには屈しないぞ、北上さん。俺を殺す気はないだろ?」
「……いいえ、今は二人きりで気分が良いので殺気がないだけです。他の女の子にデレデレしたら……血の海になりますよ」
「好きだ、北上さん!」
死にたくないので、俺は即答した。
「心が篭もっていませんね」
「いやいや、今のは渾身の告白だったぞ。褒めてもいいくらいだ」
「う~ん……五十点ですね。でもいいです。マッサージを続けてあげますね」
再び肩を揉まれる。
……気持ちいし、結構上手いな。あとついでに背中に胸の感触を感じた。……なんちゅうマッサージだよ。
「北上さんは、家に戻りたくないのか?」
「別にですね。あたしはほら、野生児なので」
「あー、サバイバル女子だから?」
「それもあります。もともと旅が好きですし、将来は世界中をサバイバルして旅しようと思っていたんですよ。でもまさか無人島に流れ着く人生があるとは思いませんでした」
確かに。これは貴重な経験でもあるような気がする。
でも、そうか。そんな目標があったらからこそ、サバイバルの知識がそれなりにあるんだな。あと運動神経も抜群だし。
「北上さんは冒険家だね」
「ええ、最近は恋の冒険をしています。だから……好きなんです」
「……あ……あぁ……? なにィ!?」
マジか。
これは明らかにふざけている風ではなかった。
北上は、確かに真面目な口調で告白したんだ。俺の耳元で。
……そう、だな。
彼女のおかげで俺は生きて来られた。だから……。
ん……んんッ!?
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