悪を打ち砕く運命の一撃

 倉島がどうなったか一応確認しておくべきだよな。

 歩きだそうとすると足に何か当たった。


「ん……これは? あ、倉島の拳銃だ」


 拾い上げるとズッシリとした重みがあった。うわ、ガチの本物じゃん。


「早坂くん、それって」

「ああ、天音。これは本物の銃だよ。弾は一発か……」


 正直、物騒すぎるし、法律的に銃刀法違反なので持ち歩きたくはない。だが、ここは幸いにも無人島。倉島の脅威も完全に排除できたわけではないし、護身用に持っておこう。


 どうせ弾もあと一発だからな。

 空になったら、きちんと事情を説明して警察に届ければいいだろう。


 そう考えていると北上が物欲しそうに見ていた。


「本物の銃があるとは……どうやって入手したのでしょうね」

「分からん。こんなものがあるとは思わなかったけどな」


 普通、高校生で入手できるものじゃない。

 だとすれば……親があっちの世界の人とか、闇取引で入手したとかかな。

 なんにせよ、倉島はロクなヤツではない。


「さて、どうしましょうか?」

「この先へ向かう。倉島がどうなったか確認しておかないとな」


 丸太で打撃を与えただけだから、死んではいないだろう。肋骨くらいは折れているかもな。


 歩こうとすると天音が俺の腕を引っ張った。



「この先、暗すぎるよ? 危険だよ」

「でも、このまま安心して寝泊まりできないだろ」

「そ、それはそうだけど」


「俺のスマホのバッテリー残量は40%を切った。ちとキツイがライトを使うか」

「まって。いつも早坂くんばかりに悪いよ。わたしがライトを照らすよ」


「だけど……」


「いいの。いつも守って貰ってばかりだもん。少しは役に立ちたいの」



 お願い、と真剣な眼差しを向けられてはな。

 俺は天音に照明係を頼んだ。



「じゃあ、この先へ進むぞ」



 ゆっくりと進んでいく。

 倉島はそれほど遠くへは飛んでいないとは思うんだが……この洞窟、奥の方は急斜面になっており、どこかに繋がっているらしい。


 もしかしたら、キャプテン・キッドの財宝が――なんてな。



 ゆっくりと慎重に進む。

 天音がスマホのLEDライトを照らしてくれるおかげで視界は良好。

 ポタポタと水滴が落ちてきて、俺の頬を伝う。


 冷たい。

 この先は幽霊のような冷気に満ちている。


 冬のように寒くて、深夜のように静かだ。



 倉島はどうなった?



 銃を構えつつ、かなり歩いたはず。

 ヤツの姿がない。


「……早坂くん」

「ッ! 天音、急に服を引っ張るなよ。びびるだろう」

「ご、ごめん。けどさ、倉島いなくない?」


「あ、ああ……。おかしいよな。北上さんもどう思う?」



 後になって北上も俺の服を引っ張る。今更対抗かッ! けど、ちょっと可愛いと思ってしまった。



「飛んだとしても五、十メートル程度でしょう。それ以上とは思えませんが」



 だよなぁ。どう考えても、もう発見している頃合いだ。だけど、倒れている光景すらなかった。


 更に進むと、水の流れるような音が聞こえ始めた。

 この奥に水源があるのか。



「まさか地底湖か?」

「かもしれませんね。周辺は海ですから洞窟と繋がっていても、おかしくはありません」


 北上の言う通りだ。

 地下が海を繋がっているということか。


 いよいよ、それらしい場所に出た。

 大きな岩に囲まれて、湿気もある。地面も泥の混じったものが多くなった。水源は明らかだ。



「あったぞ。湖だ」

「わぁ……これが地底湖……水があんなに透明で青いよ」


 まさに宝石のアクアマリンのような美しさがあった。なんて神秘的な場所なんだ、ここは。


 しかも、そうか。


 洞窟の奥が反対側に繋がっているのか非常に明るかった。こんなところに繋がっていたとは……まさか倉島が現れた理由も、ここから来たというのか。



 洞窟の風景に見惚れていると、岩陰から何か飛び出してきた。……って、倉島! そんなところに隠れていやがったのか。



「クハハハ! 油断したな、早坂ァ!!」



 ヤツは両手に大きな石を持っていた。あれで俺を殴り殺す気か!



「諦めの悪い奴だな」

「おかげで肋骨がイっちまったよ。いてぇ……いてぇよ、死ぬほどいてぇよ!! けどなぁ、これくらいの痛み……薬で何とでもなるんだぜ!!」


 充血した眼を向ける倉島。

 狂ってやがるッ!


「この犯罪者が! 銃器だけでなく、そんな下劣なモノにまで手を出していたのかよ。お前の環境どうなってんだよ」


「なぁに、親父が頭のぶっとんだ組織の頭だからな。違法銃器はいくらでもあるし、爆薬だってある。やべぇ薬も使い放題ってわけ。この計画の為に組織の力も使った」



 やっぱりそういうことか。

 頭を痛めていると、天音がこうボソッと言った。


「つまり、反社ってことね」

「ああ、倉島の生い立ちはそんなところだな。アイツはそれで狂って、俺たちを巻き込んだんだ。己の欲望の為に」


 だけど、これで終わりにする。

 島の平和の為に、みんなが無事に帰れるようにする為にも。


 俺は銃を構えた。



「……早坂、てめぇに撃てやしねぇよ。素人風情が一丁前にカッコつけやがって!!」

「そう思うのなら勝手にそう思え」



 リボルバーに手動安全装置マニュアル・セイフティはない。だから、引き金を引くだけで弾丸が飛び出る。


 猿でも出来る、それだけの話。



 俺は倉島の胸の辺りに照準を向けた。



 だけど、ヤツの動きも素早くて狙いが定まらない。


 コイツ……攪乱かくらんする気か。



 それでも、俺はみんなを守る。

 それに、死んでいった同級生もいるはずだ。彼等の無念を晴らす為にも俺は……!



 これで……!



『――――――!!!!!』



 凄まじい銃声が響いて――見事に倉島の胸に命中した。




「――かはぁぁぁぁ……!!!」




 ヤツは石を落とし、白目を剥いてそのままぶっ倒れた。

 激しい衝撃で湖に落ちていく。



 バシャンと体を打ちつけた倉島は沈んでいく。……今度こそ殺ったのか……?



「は、早坂くん……やったですね」

「ああ、確かに命中した。手応えもあった……だけど、これで俺は……」


「いえ、これは立派な正当防衛・・・・ですよ」


「だが……」


「だって倉島は、船を転覆させたテロの主犯ですよ。それに、天音さんをストーキングしたり人質に取ったりした。この島で女の子を奴隷にしようとした。

 更に言えば、さっきは銃で脅されたのです。こっちは生命の危険を感じたほどです。だから、これは仕方なかったんです」



 北上はそう言ってくれた。

 そうだな、倉島のせいで今まで散々だった。


 けど、手が震える。


 はじめて人をやっちまった。



「……早坂くん、大丈夫。世間が敵になっても、わたしはずっと味方だから。何があっても君を守るよ」


「天音……ありがとう」


「もし帰還してバッシングを浴びるようだったら、海外で暮らそう。わたし、英語得意だから任せて」


 天音は天使かよ。

 こんな俺の味方でいてくれるのか。

 嬉しくて泣きそうだ。


「ちょっと、あたしも味方なんですが!」

「北上さんも? マジ?」

「もちろんですよ。これでも海外に友人がいるんです。任せてください」


「心強いよ、ありがとう」

「い、いえいえ……! でも、まさか銃を本当に撃つとは」


「ヤツの暴走を止めるには……もうこれしか手段がなかった。このまま倉島の自由にさせていたら、奴隷帝国になっていただろうな」



 犠牲者も浮かばれない。

 それはあんまりだ。


 だから俺が自ら代表して鉄槌を下した。それだけだ。

 それでも世間が認めてくれず、罪を償えというのなら俺は甘んじて裁きを受けよう。それくらいの覚悟があった。


 だけど、二人が味方してくれるのなら……きっと大丈夫だ。



「あれ、倉島の死体がないよ」



 天音が湖を覗き込む。

 俺も同様に見下ろすが、ヤツの姿は消えていた。



「底に沈んだんだろう。深そうだし」

「そうなのかな。うん、そうだよね」


「帰ろう。こっちの方面は当分来たくない」

「そうだね。水面は綺麗だけど……ちょっと遠慮したいかな」



 こっちの通路は丸太で埋めておくかね。


 ともあれ、俺は倉島を倒した。

 これでもう本来の生活に戻れるはずだ。



『――――ブク……』



 ん……?

 水面が泡立ったような。


 いや、まさか。見間違いだな。

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