ハーレム戦争、勃発!

 冷静に考えれば逃げる必要はなかったかもしれない。

 あの時の俺はどうかしていた。


 よ~く考えれば、女子に囲まれるとか天国じゃないか。なのに、俺は女子の迫力に負けて日和ひよってしまった。


 俺の馬鹿。


 しかし、もう洞窟だ。

 歩いて拠点へ戻ると、北上や八重樫たちが焚火の前で沈んでいた。



「ただいま、北上さん。みんなも」

「……は、早坂くん! おかえりなさい、早かったですね」


「ああ、ちょっとした発見があってね」

「天音さんと宝珠花さんは?」


「その内来るはずだ……って、来た!」



 森の中から走って出てくる天音たち。

 迷うことなくここまで来たか。


 天音と宝珠花、新たな五人の女子が辿り着いて息を切らしていた。



「……! 早坂くん、あの女子たちは!」

「ああ、島の反対側に五人いた。同じ学年の女子で、大伊さんとかだ」

「そうなのですね。やっぱり、流れ着いていた方々がいたのですか」



 納得する北上。八重樫たちも驚いていた。


 これで女子は『11人』となった。多すぎ!


 男って、俺一人だけじゃん……寂し。



 少し不安になっていると、俺はいつの間にか女子に囲まれていた。11人の美少女たちに。


 ……って、まて!!



「ちょ、なんでみんな顔が怖いんだ!?」



 11人の中で天音が冷静にこう言った。



「男の子は倉島とかいうヘンタイを除けば、早坂くんしかいないの。なら、もう“戦争”じゃない!?」


「物騒なこと言うな、天音。仲良くやろう」



 ジリジリと寄ってくる天音たち。

 おい、人の話聞いてないだろ!



「八重樫さんも、止めてくれよ」

「そうはいかないわ。早坂くんのサバイバル知識は生きる上で必要。……それに、万が一この島に取り残された場合を想定した時……子孫を残さなきゃいけないよね」



 またジリジリと距離が縮んていく。


 やばい……。

 やっぱり怖ェ……。


 こんな美人で可愛い女の子に囲まれて嬉しいはずなのに、なんか俺の体が狙われているんだが……! ちょっと想像と違って俺は困惑していた。


 女子たち、もしかして肉食系だった!?


 俺、食われちゃうー!?



「みんな落ち着け!! みんなの気持ちは凄く嬉しいよ。でも、俺の体は一つしかないんだ。だから――」



 けれど、女子たちの空気は重苦しく、一触即発の雰囲気だった。……やべぇ、なにか弾けた瞬間に“戦争”が起きるぞ、これ。



 その時は直ぐに訪れた。


 俺は足元の薪を踏んだ。

 パチッと音が響いた瞬間、女子たちは一斉に俺の方へ飛び掛かってきた。



「え……うそ、うそ、うそおおおおおおおおお!!!」




「早坂くんは渡さない!!」

「彼はあたしのですよ、天音さん。誰にも譲る気はないです」

「ちょっと、みなさん早坂くんが困っているでしょう」

「関係ないわ。独占した者勝ちよ」

「そうですね。恋は始まったばかりです!」

「リコもやるっきゃないよねえ~」

「早坂くんを奪うよ」

「赤ちゃん、何人作ろうか!?」

「うひゃー、こりゃ大変だねぇ」

「……どうして、こんなことに……!」

「少し前に振られたから丁度いいや。早坂くん、付き合って!」



 やべええええ、女体が迫ってくる。

 挟まれるうううう……!!!



 気づけば、俺は揉みくちゃにされまくっていた。胸が、お尻が!! なんかいろいろ接触して、あ、あ、ああああああああああああ……!!!!!




 俺の奪い合い。

 こんな人生が来ようとはな。



 無人島生活に乾杯……!



 けど、これでは俺の身が持たない。

 誰か、誰か助けてくれ……。

 そう祈っていると、天音が俺の腕を引っ張ってくれた。



「早坂くん、こっちよ」

「……天音」



 砂埃が舞う中、俺は洞窟内へ連れてかれた。




 * * *



 外ではまだ“戦争”が起きている。

 頼むから殺し合いに発展はしないでくれよ。



「まさか早坂くんの取り合いになるなんてね」

「あ、ああ……俺も信じられないよ。今まで陰キャのクソぼっちだった俺が、女子に求められまくる日が来ようとは――あ、いや、こんな目に遭おうとはな……」



 中盤、天音がジトッとした目を向けてきていたので訂正した。



「嬉しいの?」

「……そりゃ、男としては嬉しいよ。こんなモテ期は一生ないだろうからな」


「そう。……むぅ、早くしないと先を越されちゃうよね」

「ど、どうした天音」


「この洞窟の奥なら誰も来ない。だから」

「だから?」


「キス、しよっか」

「え……」



 ドキッとした。

 天音の方からキスを求めてくるなんて思わなかったからだ。


 心の準備がまったく出来ていない俺は、頭が真っ白になった。


 ぼうっとしていると天音が俺の手を握った。

 正面からズイッと身を寄せてきた。



「早坂くん……わたし、あんまり役に立てないかもしれないけど……でも、体とか心の支えにはなってあげられると思う。だから、その……」


 顔を真っ赤にして、まるで告白みたいに言う天音。……マジか。俺は、そんなに好かれているとは思っていなかった。


 天音は、仮にもアイドルだからな。


 そんな遠い存在が俺なんかを相手にするとは思えなかった。


 けど。

 けれど。



「……俺、スケベだぞ」

「うん、知ってるよ。いつも視線がわたしの胸ばかりだもん」


「……うぅ。すまん。天音は魅力的すぎるんだ」

「そっかそっか」



 照れる天音は、俺に抱きついてきた。

 瞼をそっと閉じて……待っていた。


 こ、これは……まさか!


 明らかに“キスして良いよ”という意思表示だった。



 なんてこった。

 ありえない奇跡が起きていた。


 天音がそう思ってくれていたなんて、めちゃくちゃ嬉しい。



 この気持ちはありがたく受け取る。

 俺も彼女が――。



「それ以上はダメです、早坂くん」


「「!?」」



 出入口側から歩いてくる北上の姿があった。あの中を抜けてきたのか。



「北上さん……!」

「今、天音さんにキスしようとしましたよね」

「……そ、それは」


「誤魔化しても無駄です。早坂くん、天音さんが好きなんですか」

「それは……」


「聞きたくありません。好きだとか嫌いだとか、この島では関係ないと思うのです。我々は元々は動物。本能的に相手を見つけ、つがいとなる。

 そこに理由はいらない……わたしは、ただ純粋に快楽を求めたいのです」



 ナイフを向けてくる北上。


 ……あぁ、やっぱり彼女はどこかおかしい。でも、ああいう頭のおかしい女が俺は割と好きだった。



「まて、北上さん。女の子が快楽を求めるとか言うな」

「はぁ~、早坂くんは女の子に幻想を持ちすぎです。女の子だってムラムラする時があるんですよ?」


「んなッ! そうなのか!?」



 あえて天音に聞いた。



「ちょ、なんでわたしに聞くの!!!」



 天音は凄く恥ずかしそうに声を荒げた。

 あぁ……なるほど、察しがついた。



「ふむ……」

「ふむって、どういう意味よ。あのね、早坂くん! わたしは処女なの! そういう経験ないから分からないし――って、あぁッ」



 勢いでカミングアウトしちゃったんだろうな。天音は自分が未経験だと明かしてしまった。



 ……そうだったのかよ。

 こんな可愛いから、彼氏のひとりやふたりいるかと思ったぞ。


 事実を聞いてドキドキしていると、天音は俺に飛びついてきた。



「な、なにを!?」

「こうなったら、もうするしかないじゃん」



 混乱していると、天音の方からキスしてきた。

 重なる唇と唇。



 北上がいる目の前で……!

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