海辺で戯れる裸の女子たち

 まさか、通信が出来るようになったのか。

 だとすれば……連絡して救助を呼べば助かるかも!


「リコ、今すぐ連絡だ!!」

「ま、任せてっ!」


 いそいそとスマホをタップしていく。

 緊急通報に指を伸ばした――瞬間。


 画面がブラックアウトした。



「「……え?」」



 リコは、何度も電源を入れるが……付かなかった。


「……リコ、電池の残量いくつだった?」

「えっと……3%くらいだったはず」



「ちょおおおおおお!! なにやってるんだぁ……! ゲームのしすぎだろう」


「うああああああん……! やっちゃったぁ……」



 二人で叫んでいると、みんな何事かと寄ってきた。



「どうしたの、早坂くんもリコちゃんも」

「あぁ……天音。起こしちゃったかな、すまない」



 俺は、リコのスマホに『新着メッセージ』があったことを伝えた。俺とリコ以外、驚いてライブのように湧き上がった。



「マジ! それってネットが出来るようになったってこと?」

「どうだろう。一瞬だったからな。メッセージが着てから、リコのスマホは電池切れになってしまったからな」



「そんな……他の誰か通信できないかな?」

「天音は?」

「わたしはダメ。北上さんは、そもそもスマホを持っていないし、八重樫さんとほっきーは水没したからね」


 そうだったな。

 ――って、あれ。


 ふと違和感を感じていると、北上が俺の腕を掴んだ。


 引っ張られて洞窟の外へ連れてかれた。



「ど、どうした北上さん」

「変だと思わないのですか」

「あー…通信とか」


「違いますよ。スマホです。彼岸花理瑚は、水没したと言っていたはず」


 違和感の正体はそれか。


咄嗟とっさの嘘だったのかも」

「怪しくないです? 黙っているだなんて……」

「たまたま電源がついたとか? 乾いて復活する場合もあるらしいよ」


「ちょ、早坂くん……ポジティブすぎでしょう。少しは疑うことをですね」

「疑心暗鬼は破滅をもたらすだけだよ。俺、北上さんを信じてるから」


「……っ! な、なにを……」



 顔を真っ赤にしてモジモジする北上。

 こう普通にしていれば可愛いのにな。



「誰かのスマホを拾ったとか可能性も排除できない」

「なるほど、一理あるかもですね。でも、なぜ通信が回復したのでしょう?」


「あくまで推測だけど、たまたま無料Wi-Fiを飛ばしている豪華客船が通りかかったとかな。ありえないだろうけど」


「……それ、ワンチャンあるのでは。彼岸花理瑚は、過去に船旅をしたことがあり、その船がたまたま通りかかったとか」



 適当に言ってみたことだけど、そんな馬鹿な。

 洞窟からは海が見えないからな……。

 もし仮に船が通っていたのなら、さっさと救助を求めなければ。



「ふむ、本人に聞いてみた方が早そうだな。おーい、リコ。ちょっと教えて欲しいことがある」


「な、なに~?」



 トコトコと寄ってくるリコに、俺はスマホのことを聞いた。



「なあ、リコ。そういえば、前にスマホは水没したって言ったよな」

「……あぁ。ごめん、それはこっちのサブ機のこと」


 リコは、ポケットからもう一台のスマホを取り出す。なるほど、そっちは壊れているわけだ。


「なんだよ、メイン機のスマホは使えたのかよ」

「嘘をつくつもりはなかったんだけど、ほら……あの時は信じていいか分からなかったし、でも今は違うよ。早坂くんを信じてる」


「分かった。もう隠し事はなしだぞ」

「うん。本当にごめんね……」


 反省の色を示しているし、ここは許してあげよう。


「で、もうひとつ聞きたいんだが、リコは船旅の経験があったり?」

「船旅なんてしたことないよ~」


「マジか。じゃあ、船は違うようだな」

「どういうこと?」

「いや、気のせいだ。すまん、そろそろ寝よう」


 リコを先に戻らせ、俺は北上へ向き直った。

 すると、疑うような眼差しだった。


「……怪しいですけどね。まあいいでしょう」

「もう時間も遅いし、寝よう」


「そうですね。今日から外を気にせず寝られますから」

「え?」


 北上は出入口に丸太の柵を立てた。いつの間に作っていたんだか。

 それにしても、丸太の万能説があるな。自衛とか生活用品とかどこでも役に立つし。


 ……あぁ、眠い。


 明日に備えよう。



 * * *



 翌朝。

 俺と天音、ほっきーは捜索チームとして、洞窟を出発。

 未踏である島の反対側を目指した。


 ただ向かうだけでは無謀すぎるので、丸太や水、食糧も少々携帯した。



 深い森を歩くこと数十分。



 草木が多すぎて行き詰っていた。

 まったく、ここはジャングルかよ。



「一応、丸太は持ってきたからコイツで掻き分けていくか」



 俺は先行して草を押し込んでいく。

 道を作り、どんどん先へ。


 ……ん?


 なんだか潮のニオイがするような。

 この先は海なのか。


 もうそんなところまで歩いてきたのかな。



「ねえ、早坂くん。波の音が聞こえない?」



 天音が俺の背中を突く。



「だろうな。ちょっと待ってろ、道を作るから」



 丸太で突く、草を押し込むの動作を繰り返す。地味に重労働だな、これ。

 汗を拭いながら作業を進めると、ついに先が見えてきた。


 光だ。


 青い海が広がり――へ?



 俺はそこで立ち止まった。

 その先にあったものが、あまりに“神秘”だったからだ。



 これは、いったい。


 …………なぜ、なぜそこに。



 そんな言葉が浮かぶと同時に、俺はその人物たちを目で追っていた。




「ちょ、あんまり水をバシャバシャ掛けないでよ~。塩辛い」「大伊おおいさん、胸大きいよね」「あ~ん、もう男子がいなくて快適ー!」「男子、絶滅したんかもねえ」「まあいいじゃん。おかげで裸で泳いでも誰にも見られないし」




 目の前に、全裸の女子がいた。


 それも五人・・も。


 浜に制服が置かれているし、同じ学年の女子らしい。



 ……全員が生まれたままの姿で水を掛け合ったり、体を洗ったりしていた。



 なんて光景だ……。

 ここは楽園かな。



 見惚れていると、背後の天音がまた指で突いてきた。



「ねえねえ、早坂くん。なんで立ち止まってるの?」

「……いや、その。ちょっと奇跡を目の当たりにしていてな」


「は? 奇跡? そんなことより早く出てよ。ここ暑苦しいのよ」

「仕方ないな。いや、実は海に女子が五人もいた」



「「え!?」」



 天音も宝珠花も驚きの声を上げた。

 大きい声だったせいか、向こうの女子五人が不審がっていた。……まずっ!



「イカン。気づかれたかも……天音、悪いけど俺より先に――あ」



「ちょっと、誰かいる!!」「……え、男子?」「うそ! うそでしょ!?」「きゃあああッ!! ヘンタイ!!」「うわ、あたしら裸!!」



 気づかれてしまった。

 仕方ないので、天音を先に行かせた。


「天音、頼む」

「頼むって……あ、野茂のもさん!」



 天音は『野茂』という三つ編み女子のところへ向かった。知り合いか。



「天音さん!? 流れ着いていたんだ」

「うん、そう。早坂くんのおかげで生き延びられたんだよ~」

「早坂くん? あの男子のこと?」


「そうだよ。彼っていろんなサバイバル知識を持っていて凄いんだから。今、洞――」


 俺は天音の口を塞いだ。

 あっぶねえ~…!


「まて、天音。洞窟のことはまだ言うな」


「もが!? もがが~~! もがー!!」


「あぁ、すまん」

「……ぷはぁ。ちょっと早坂くん、いきなり口を塞ぐとか窒息しちゃうじゃん!」

「悪い悪い。けど、相手の出方を伺ってからだ」

「同じ生徒でしょ。大丈夫だって」


「それはそうだけど、少し話を聞いてからでもいいだろ」

「そ、そっか。ていうか、早坂くん……女の子の裸を見ちゃダメ!」



 天音が両手を伸ばして、俺の視界を遮る。……チッ、天音め、余計なことを。



「そうですよ、天音さんの言う通りです! 動いてもダメです!」



 ほっきーから抱きつかれ、動けなくなった。やれやれ。

 五人の着替えを待ち、事情を聞いてみるか。

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