拠点開発と漂流者探し

 お腹はすっかり膨れた。

 みんな、まったりとした時間を過ごしていたのだが、北上だけは違った。

 リコのスコップを焚火で炙っていたのだ。

 なにしているんだか。


「ん、早坂くん、気になります?」

「そりゃね。どういう意味があるんだ」

「今は消毒中」

「消毒って……」


「そろそろ良いかな。スコップの上を水で満たしますね」


 ペットボトルに溜めてあった水を流していく。そんなところに貴重な水を……!


「ちょっと、それ飲み水だぞ」

「大丈夫。お茶を作るだけですから」

「え?」


「近くに自生していた『イワタバコ』を入手したんです」

「ああ、タバコの葉に似てる奴だっけね」

「そうです。食用で山菜になるんです。胃薬にもなるようですよ。今回は、お茶の代用です」


 へえ、イワタバコってそんな風に使えるのか。

 存在は知っていたけど、実物を目にする日が来ようとはな。


 スコップの上の水は沸騰してお湯になった。こんな使い方もあったとはな、感心。


 北上は、イワタバコの葉を投入していく。


 しばらくグツグツ煮て――完成らしい。


「お~、まさかお茶が飲めるとは」

「ほろ苦いかもしれませんけどね」

「いやぁ、たまにはそういう苦味も感じたい」


 お茶やコーヒーなんて苦味が醍醐味だしな。

 さっそくスコップを受け取り……ん?



「まて、北上さん。なぜ俺が一番なんだ。ここは作った本人が毒見するべきだろ」

「飲みたそうにしていたので」

「仕方ないな。でも、まだアツアツだから冷やさないと」

「こんなこともあろうかと、木製のコップを作っておいたんです。そちらへ移してください」


 いつの間にか地面にコップが置いてあった。

 形は歪なものの木製のコップだ。丸太を加工したのかな……よくここまで作ったな。すげぇなオイ。


 スコップを慎重に斜めにして、お茶を注いでいく。


 これで完成っと。


 あとは“フーフー”して冷ます。



「まだ熱いけど、これくらいなら」



 俺はさっそくカップに口をつけ、イワタバコ茶を味わう。


 ……熱。


 けど、なんだろう。ほろ苦い。



「いかがですか?」

「美味いよ。お茶といえばお茶に近いかもしれない。プラシーボ効果も混じってるかもだけど。北上さんも飲んでみ」



 カップを手渡すと北上は、ピタッと止まった。

 顔を赤くしてカップを見つめていた。



「どうした?」

「……いえ、その……」


 モジモジしている間にも天音がやって来た。



「ねえねえ、何してるの?」

「おう、天音。歯磨き終わったんだ」

「うん、北上さんの作った『房楊枝ふさようじ』のおかげでスッキリ! 歯ブラシが使えるなんて嬉しいよ」



 房楊枝。

 江戸時代の歯ブラシだ。

 俺も北上から教えてもらうまで、まったく知らなかった。


 てか、よく作り方を知っていたな。



「まあ、歯は大事だからな。虫歯になったら大変なことになるし」

「そうだね、助かったよ。……で、それは何?」


 天音が北上の持つコップに興味を示した。


「これはお茶ですよ。天音さんも飲んでみます?」

「へえ、お茶。興味ある!」


「でも先に、あたしが飲みますので、少々お待ちを……」


 だけど、さっきから手が動いていないんだよな。なにを気にして――あ、そうか。俺との間接キスを気にしているんだな。


 急に恥ずかしくなってきていると、北上はカップに口をつけた。俺が口をつけていたところに。



「ど、どうだ?」

「……とても美味しいです。幸せ……作って良かった」



 なんだか幸せそうだ。

 それから、天音もお茶を味わった。


「結構美味しいね。でも、お茶の葉なんてあったっけ」

「イワタバコさ。ないよりはマシな程度に苦味が出る」

「そんな葉っぱあるんだ。知識量どんだけよ」

「今回は北上さんのおかげさ。やっぱり、みんなの力を合わせると違うな」



 そうだ、俺だけではない。

 北上のおかげでもある。

 彼女がいなかったら、もっと不便だったはず。

 本格派のサバゲー女子がいて良かったな。


 更に、八重樫たちも戻ってきて再び焚火を囲った。

 お茶を堪能してもらうと、各反応は良好。

 イワタバコのお茶はしばらく使っても良さそうかもしれない。



「――さて。今日、一日いろいろあった。これからのことを話し合いたいと思う」



 俺はリーダーって器ではないけど、みんなに話を振った。

 全員が俺に注目する。


 以前の俺なら、この視線だけで轟沈していたところだ。

 けど今は違う。


 俺はもう以前の俺ではない。


 誰かが引っ張っていかなければならないんだ。



「私は、倉島を探し出して……島から追い出してやりたいわ」



 怒りを燃やす八重樫。

 ごもっともだが、この島から追い出したら死ぬだろうなぁ。縛り上げるくらいが精々だろうか。



「そうだな、ヤツは脅威だ。なんとかして捕まえたいか。それとも、俺たちでなんとか脱出するとか」


「どうやって? 船も無いのに」

「救命ボートがある。修理すれば一人は島を出られるさ」


「そもそも、この島がどこか分からないでしょう。アテもなく彷徨うのは危険よ」



 この案はやっぱり却下かな。

 となると、誰かが俺たちを見つけてくれるのを待つしかない。


 それがいつになるか分からないけど。


 行き詰っていると、天音が手を挙げた。



「天音、なにかあるか」

「わたしは仲間の捜索がいいか~って思うの。ほら、人が多い方が助け合えるし」


「この島に流れ着いている生徒がいるかもってことか」

「そそ。この島って結構広いし、反対側とかにいるかもよ?」



 そもそも、百人単位が流されたんだ。

 もっといてもおかしくはない。

 困っている人もいるかも。


 それに、この島をもっと詳しく知る必要がある。

 よりよい生活をする為にも冒険するしかないか。



「それじゃ、明日は拠点開発チームと捜索チームで別れるか。

 開発チームは、この拠点の生活向上を目指す。捜索は、他の漂流者を探しつつも、食糧や流れ着いた道具を確保する」



 そう提案すると、反対する者は一人もいなかった。

 決まりだ。



「チーム分けはどうしましょうか?」

「よくぞ聞いてくれた、千年世。ここは“じゃんけん”で公平に決めよう」



 これが手っ取り早い。

 グーとパーで別れれば直ぐ決まる。


 四人が拠点開発チーム。

 三人が捜索チームってところでいいだろう。



「あれ、早坂くんはじゃんけんに加わらないの?」



 天音が首を傾げた。



「俺は捜索チームいいんじゃないか? 男だし」

「そ、そっか……でも」

「どうした、天音」

「ううん。なるべく一緒になれるように頑張るね」



 背を向ける天音は、みんなと対峙した。


 じゃんけんが始まり――“グーとパーで別れましょ”の掛け合いが始まった。



 そして……!



 拠点開発チーム:北上、八重樫、彼岸花、千年世


 捜索チーム:早坂、天音、宝珠花



 ついに、決まった。



 北上が怖いほど沈んでいて……危ういな。



「やったー!! 早坂くんと一緒だ。よろしくね」

「あ、ああ、俺も天音と一緒で嬉しいよ。明日は反対側へ行ってみよう」

「うんうん。二人きりでがんばろうね」


 と、俺の手を握ってくる天音さんだが、一人忘れてるー!



「あの~…。僕もいるのですが……」



 宝珠花――いや、ほっきーが涙目で訴えかけてくる。



「ほっきーもよろしくな」

「こちらこそです、早坂くん! それと天音さんも」


「よろしく、宝珠花さん」

「はいっ」



 決まったところで就寝だ。

 スマホを確認すると【7月2日(土)23:19】となっていた。電池残量は【46%】だった。


 日付と時間、電池残量を確認するだけの為に使っているスマホだが……やはり、自然放電もあるせいか電池は少しずつ減ってきている。


 バッテリー切れは回避したい。

 電源を落とそう。


 スマホの電源を落としていると、他のベッドから不思議な音が響いた。



『――キン、カンッ! シュイィィン!』



 と、ゲームらしき音が。

 久しく聞いていなかったが――って、誰だ、ゲームしてるの!!



「あぁぁぁ、負けちゃったぁ」



 叫んだのはリコだった。

 うぉぉぉい、貴重な電池を!!



「リコ、なにやってんだ」

「なにってオフラインで遊べるゲームだよ~。もう我慢できなくて……暇なんだもん」

「だめだ。万が一があったら大変だぞ」


「うぅ……それはそうだけど」



 そう言いつつもリコはカメラを向けて『パシャッ』撮った。……なにしてんだか。



「俺の写真なんて撮ってもなぁ。じゃなくて、電池は節約するんだ。いいな」

「はぁい」



 リコがスマホの電源を切ろうとした……時だった。



【新着メッセージがあります】



 などと画面に表示された。


 …………え、まて。



「リコ! そのメッセージ!!」

「え、ああ……!」

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