包焼きの魚料理完成。女の子たちと楽しい無人島生活

 ファイアースターターの扱いには、すっかり慣れた。

 俺は更にコツを掴み、ほぼ一発で火を着けるようになった。この島に来てから、随分とレベルアップしてしまったぜ。


 焚火を用意する度に、女子から歓声が上がって俺は気分が良い。


「ライターもマッチもないのに、こんな簡単に火がつけられるなんて……魔法みたいです。ファイア~みたいな!」


 毎度、千年世がキラキラした目を向けてくる。

 俺は魔法使いかよ。


 けど、ファイアースターターを異世界に持っていけたら、こんな反応を現地人から得られるのだろうか。それはそれで快感、みたいな。


「千年世もやってみるか?」

「え、いいんですか!」

「さっき、松明たいまつを作ったからね。それに火をつけてみよう」


 俺はイノシシの毛皮や油を使って、即席の松明を作った。

 古来はこれで明かりを灯していたようだ。


 太い枝の先にグルグル巻きに固定されている毛皮と油。ここに着火すれば、しばらくは燃え続ける――はずだ。


 でもその前に『火種』を作らないとな。


 俺は、ファイアースターターを千年世に渡して簡単に説明した。



「マグネシウム棒を固定して、プレートを擦るんですね?」

「そうだ、初心者はそっちの方がいい。簡単だろ」

「うーん、やってみます」


 千年世は、細い指でファイアースターターを握りしめた。

 プレートを擦ると火花が散る。

 けど、何度やっても火が着かない。


「難しいだろ」

「うぅ……全然着きません。早坂くん、凄すぎません!?」

「俺は修行しまくったからな。とりあえず、まずマグネシウムを削った方がいい。で、あとこれを使う」


「なんです? その爆発したみたいな木の棒」


「これは“フェザースティック”と言ってな。着火剤の代用になるんだ。普通、キャンプとかでは着火剤を使う。その方が早いからな」



 フェザースティック。

 幅5cm、高さ20cmほどの木の棒を用意し、先端をナイフでえぐる。抉りまくる。最終的にアフロヘアみたいにする。それで着火剤となるのだ。


 初心者でなくとも超おススメである。



「コツを教えてください、早坂くん。――いえ、先生! お願いですからあぁぁ」



 涙目になって抱きついてくる千年世。

 先生とか言われたら、ちょっとテンション上がる。


 どうしても火をつけてみたいらしい。

 し、仕方ないな。



「分かった、分かったから! その、離れてくれないかっ……刺激の強いものが俺の腹部に接触して大変なことになってるッ」


「……あぅ。す、すみません、先生」


 慌てて離れる千年世。

 勢い誤ってって感じだな。


 凄くふわふわしていた。

 感触に感動していると、足元をふらつかせてやってくる天音の姿があった。



「うぅ……頭痛い」

「大丈夫か、天音。今こっちは明かりの準備と、北上さんが魚を調理中だ」

「そうだったの。わたしも手伝えることある?」


「いや、大丈夫だ、千年世を応援してやってくれ」

「千年世さんを? うん、分かった」



 俺の傍にくる天音は、一緒に見守ってくれることになった。……結構、近いな。

 けど、顔色は良さそうだ。

 どうやら、体調の回復はしたらしい。



「そうだ、早坂くん先生!」

「どうした千年世」

「こっちへ来てくださいっ」


 手招きされ、俺は千年世の背後に。

 なぜ背後?


「俺になにをさせたい?」

「ロボットみたいに、私を操作してください。ほら、親が子供に教えるみたいにやるじゃないですか」

「あ~、つまり俺が千年世の手を握って――って、恥ずかしいわっ」


「大丈夫です。私は気にしませんから」



 俺が気にするんだが。

 しかも天音の目の前で、そんなイチャイチャを見せつけるようなことを……。

 尚、天音の目が死んでしまった。


「…………」

「どうした、天音。死相が出てるぞ」

「わたし、アイドルとしての自信……無くしそう。ライバルが多すぎて辛いわ」


「気に病むな。お前ほどの一兆年に一度のアイドルは滅多にいない」

「小学生みたいな数字だけど、まあいいか」


 辛うじてご機嫌になってくれた。


「千年世、マグネシウムをふんだんに削ったから、これで一発だ」

「了解ですっ! ……でも、爆発とかしませんよね?」

「ニトログリセリンじゃないから安心しろ」


 再チャレンジ開始。

 千年世は、ファイアースターターを機敏に動かし、バチバチと火花を散らした。すると、今度は上手く着火した。


 直ぐにフェザースティックに火を移していく。


 火が強まり、上手くいった。

 そのまま『松明』に火を灯した。



「さすが俺の指導。出来たね」

「おー! 火の勢いが凄いです。大文字だいもんじみたい」



 大文字って、あの京都の五山送り火か。

 あれほどの規模ではないけど、松明が上手く出来て俺も満足だ。



 八重樫たちも、松明に注目した。



「へえ、明るいわね。これ、どれくらい持つの?」

「おう、八重樫。これは動物の油だからね、十分持てばいい方だ。松明は本来、松脂まつやにを使うからな。本格的なヤツなら一時間は燃焼するらしい」


「結構持つんだね。松脂かぁ、この島にあるかな」

「探せばあるかもな。そっちはどうだ?」


「北上さんが調理を終えたところ。鱗とか内臓ってあんな風に取るんだね。……知らなかった」



 普段、魚とか肉は“加工”されてスーパーに並んでいるからな。

 もちろん、こんな島には業者とかいないから自分たちで捌くしかない。キツイ仕事だが、命を戴くということは、そういうことだ。


 殺した以上、最後まで責任を持ち、残さず食うべきだ。



「ご飯できましたよ~」



 北上が焚火の中から“土の塊”を棒で取り出した。



「北上さん、それ、上手く出来たね」

「はい、チヌの包焼き完成です」


 二人で頷き合っていると、天音が珍しそうな声を上げた。


「え~、なにそれ?」

「これは包焼きなんですよ、天音さん」


「どういうこと~?」


「まず、調理したチヌを大きな草とかでいいので包みます。今回は『カシワ』を使いました。

 それから、その上を粘土で固めていく。粘土は水で簡単に作れますからね。

 完成したら、焚火の中へ放り込む。あとは焼けるのを待つだけという感じです」



 俺が教えた調理方法を見事に実践してくれた。


 ナイフで丁寧に粘土の塊を粉砕していく北上。

 中からカシワの葉っぱの包が出てきた。


 それを解くと、中からホクホクに焼けた魚が。


 既にぷるんぷるんの身が零れ落ちそうになっていた。……美味そうだ。



「おお~!!」



 全員が期待の声を発した。

 サバイバル術の受け売りだけど、俺もこんな上手くいくとは思わなかったな。



「俺が味見してみるよ」



 枝を加工をした木製箸を使って――試食だ。

 白身を掬いあげると、湯気が立った。


 見事な焼き加減だ。


 味付けは出来ないけど、このままでも十分美味いはず。


 俺はゆっくりと口の中へ。

 久しぶりの魚を味わった。



「ど、どう?」



 天音が感想を求めてきた。



「ぷりぷりでスゲェ美味い」

「マジ!?」



 直後、全員が箸を動かした。

 ぱくぱくと味見する女性陣。


 さて、感想のほどは?



「お、美味しい! なにこれ、スーパーで売ってるのと遜色ないじゃん!」


 天音は絶賛していた。


「上手くいったね。早坂くんからやり方を聞いてよかったですよ」


 北上も満足していた。



 千年世や八重樫は――黙々と食っとるー!!


 やべえ、これは直ぐに無くなっちゃうヤツだ。



「北上さん、もう無くなりそうだよ!?」

「ありゃ……大人気だね、チヌ。まだ在庫はあるから、もう二個ほど作ろう」


「頼むよ」



 みんな顔が幸せそうだ。

 素潜りして獲ってくれたリコに感謝だな。

 魚に関しては彼女に任せよう。

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