女子が俺の取り合い...!?

 森を抜けると砂浜に出た。

 範囲はそれほど広くないが、地面には『SOS』の文字が書かれていた。


「こ、これって……早坂くん」

「ああ、誰かの残した救難メッセージだ」


 この島に、まだ人がいるのか?

 それとも八重樫たちが残したものだろうか。あとで聞いてみるか。



「魚とか取れませんかねぇ」



 かかとを上げ、海を見渡す千年世がつぶやく。



「こんなこともあろうかと、拾った網を持ってきた」

「おぉ! 地引網漁でもする気ですか? でも船が必要ですよ」


「え、そうなのか」

「船を沖合まで出さないといけませんから」


「マ、マジか。千年世さん、詳しいね」

「小学校の頃に体験したことがあるんです」



 そういうことか。

 船が必要だったとは……網は切り取って釣り糸にするか。


 網魚を断念。

 他の場所へ向かおうとすると、今度は天音が叫んだ。



「あ……!」

「どうした、天音」

「大きな貝殻~。これお皿とかに使えないかな」


「それ、シャコ貝の殻かな。意外と高く売れるらしいぜ」

「ほんと~! 結構落ちてるみたいだし、拾っていこう」


 綺麗な形をしているし、色彩も悪くない。お皿の代わりになりそうだ。

 俺と千年世も貝殻を探していく。


 俺はふと茂みの方に視線を送った。


 ん……あの“赤い実”はなんだ?


 気になって近づいてみると、それが果物であったことに気づいた。



「この赤い果物……まさか」

「どうしたの、早坂くん」



 顔を近づけてくる天音。

 俺は思わず心臓がドキッとして顔が熱くなった。


 こう近くに寄られると、さすがに緊張する。


 いや、俺はずっとドキドキしっぱなしだった。今日の俺はどこかおかしい。



「いや……この果実を見つけてな」

「わ~、赤くて小さなつぶつぶが沢山だね。これって食べれるのかな」


 天音は興味津々の視線を向けた。


「うーん、俺の無駄知識トリビアによれば『ヤマモモ』の可能性がある。甘酸っぱくて生で食べれるって聞いたことがある」


「それ凄いじゃん! 早坂くん、博識~」

「い、いや、それほどでも――あるけどなっ」



 照れていると、千年世も俺を褒め称えてくれた。



「さすが早坂くんです! 頭の良い人は好きですよぉ」



 俺の腕に掴まってくる千年世。俺の腕にぶら下がるようにしていて、なんだか可愛い。……って、そうじゃないっ。



「ち、千年世さん!」

「早坂くんと一緒なら生き残れそうな気がしてきたので……。それに、今のところ男子は早坂くんだけ。この分だと女子しか集まらない予感がするんです。だから、奪うなら今のうちですよねっ」


「……っ!」


 素敵な笑顔を向けられ、俺は脈が乱れた。

 千年世の愛玩動物的な可愛さには正直、負ける。


 更に顔を赤くする俺。

 動揺していると今度は天音が俺の腕にしがみつく。



「ちょっと、千年世さん。早坂くんに近すぎ! 離れてよ!」

「そういう天音さんだって早坂くんの腕にくっ付いているじゃないですかっ」



 二人は俺の前で火花を散らしていた。

 どうしてこうなった……。



「まあまあ、二人ともヤマモモを食べて落ち着けって」



 俺は二人から離れ、慎重にヤマモモを摘み取り、天音と千年世に渡した。

 ビー玉サイズの可愛い奴だ。



 天音は「ありがとう、早坂くん。大切に食べるね」と笑顔を向けてくれた。千年世も続いて「ありがとうございます。早坂くんの愛を受け取りました。……えへへ」と照れていた。


 ――で、またバチバチっと――。


 なんで仲が悪くなっているんだかなぁ。



 結構な数のヤマモモがあったので、採集。貝殻に盛っていく。



「こんなところだろう」

「五十粒はあるよ。これなら、みんなに分けられるね」


「いったん、拠点へ戻るか」


「「さんせー!!」」



 砂浜を後にして、帰り道へ戻っていく。



 * * *



「……おかしいな。全然洞窟に戻れない」

「あの、早坂くん。これって迷ったです……?」


 不安気に俺を見つめる千年世。


「かもな。目印に石を置いていたんだが……なぜか消えている」

「えー! うそでしょー…」


 天音が震えて怖がっていた。

 こんな薄暗い森の中だからな。

 俺もちょっと怖い。


 更に歩いていくが、なぜか洞窟へ出られない。


 同じところをグルグル回っているようにさえ思えてきた。



「……ダメだ。完全に迷ったらしい」

「そ、そんな! 早坂くんの知識で何とかならないの!?」

「無茶言うなって天音。方角なんて分からないんだ」


 そろそろ夕方だから、太陽は西へ落ちていく。だが、背よりも高い森のせいか、太陽も見えない。これではどこへ向かっているのか分からない。


方位磁石コンパスがあれば……」


 そう、つぶやいて肩を落とす天音。

 そんな都合の良いものはない。


 あれば便利だけど。


「そうだ、トランシーバーはどうです?」

「すまん、俺が持っているんだ。千年世さんのヤツ、借りっぱなしだ」


「あー…」


 これもダメだった。



 歩きつかれたので、いったん休憩とした。大木に身を預け、その場に腰を下ろした。



「しかし、この島って思ったより広いな」

「そうだね。結構大きな島なのかも」



 はぁ~と、疲れた溜息を漏らす天音。

 日本の無人島は、6500ほどあるらしいからな。この島が実際、南西諸島なのかも分かっていない。分からないことばかりだ。



「帰りたいです……」

「千年世さん、大丈夫か」


「こんな島よりも、普通の高校生活に戻りたいです。お風呂だって入れないし、甘いモノも食べられない……好きなコスプレも出来ないし!」



 珍しく感情的になる千年世。

 そりゃ、女子は精神的に参るよな。


 って、最後はなんだ!


「コスプレの趣味があるのかい、千年世さんって」

「ええ、こう見えて私はコスプレイヤーなのです!」


 お、コスプレの話をしたら元気になったな。



「どんなコスプレするの?」



 俺よりも先に天音が話を振った。

 もしかしたら、千年世が落ち込んでいるのを見かねたのかもしれない。



「気になりますか」

「うん、教えて」


「そうですね、アニメが多いですね。メイドさんとかボカロやVTuberとか」



 お、元気になったな。

 というか、千年世ってそっちの趣味があったのか。気が合いそうだな。



「ほ~。俺もアニメ好きなんだよ。VTuberもよく視聴する」

「おぉ、早坂くんはそっちでしたか!」

「そっちって……。イメージ通りだと思うよ、ぼっちだし」

「えっ、そうなのですか。私と同じですねー、あはは~!」



 んなっ、千年世がぼっち!?

 嘘だろ、こんな小さくて可愛いのに意外すぎる。


 驚いていると、天気が荒れ始めていた。


 ポツポツと小雨が降ってきた。



「雨だ……! 恵みの雨だぞ!!」



 少しすると、雨は強まった。


 全員、雨を浴びていた。



「はぁぁ……久しぶりのシャワー! 水も美味しい!!」



 天音が歓喜する。

 俺のことなんて気にせず下着になって雨を浴びていた。――って、脱ぐなァ!


 千年世も制服を脱ぎ捨てていた。


 なんか二人とも俺が男だってことを忘れて雨を浴びているぞ。


 ……まあいいか。


 俺は目の保養になるし、それに汚れも落とせる。水分補給もできて最高だっ!




「「「恵みの雨だああああ!!!」」」



 気づけば抱き合って、生きている喜びを分かち合っていた。


 ――あぁ、生きてるって素晴らしい。

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