ライン交換の約束

 まきを拾いを終えた。

 こうして洞窟の外で焚火をすれば、狼煙のろしにもなる。


 煙を見た船が気づいてくれるかもしれない。


 ――けど、それよりも肉だ。


 枝に刺したイノシシ肉が良い感じに焼けはじめていた。もう食べ頃だ。



「あの巨体のイノシシが、こうなると焼肉だな」

「うん、美味しそうだね」


 天音が食べたそうに肉を見つめる。


 あれから意識を取り戻した天音や八重樫たち。焚火の前に座り、焼ける肉を眺めていた。


 串焼肉が完成し、北上が枝を拾い上げて各々に配っていく。



「ちゃんと焼いたから大丈夫だと思う。ただ、ちょっと獣臭いかも。だけど、そこは我慢して」


「ありがとう、北上さん」


 いただきますをして、俺はさっそくイノシシ肉にかぶりついた。



 ……んまッ!



 確かに、ちょっと獣臭はするが許容範囲。


 腹ペコのせいか気にならなかった。


 みんな無心になって肉をむさぼる。

 昨日はほとんど食べていなかったからな。



「わたし、イノシシ肉を始めて食べたよ。ちょっと噛み辛いんだね」

「そうだな、天音。食感は豚肉にそっくりだが、少し固いな」



 だけど、ジューシーな肉質でなかなかイケる。塩胡椒で味付けすれば完璧だろうな。

 こんな無人島では調味料なんて入手できないだろうけど。



 北上は黙々と食事を進め、千年世や八重樫たちはバーベキューのように楽しんでいる。


 少し和気わき藹々あいあいとした雰囲気も流れてきて、楽しくなってきた。


 この流れに乗じて、俺は八重樫に話しかけた。



「そういえば、八重樫さんたちってなんで弓矢を持っているんだ?」

「これは手製よ。浜に落ちていた網を使って弦の代わりに。あと……頑丈で、しなやかな竹に括りつけたの。矢は枝だけど」



 よく見れば、それは竹だった。

 日本の海域だし、浜に流れ着いていてもおかしくはないか。もしかしたら、自生しているのかもしれないが。


 弓を作るとはな。

 狩りもできるし、身の安全も守れる。



「よく作れたね」

「弓道部だからね。弓のことに関しては詳しいから」

「それもそうか。それでなんだが、これからは協力していく感じいいかな」


「それは助かるわ。森の方は虫が多くて寝床に困っていたから」

「洞窟ならその心配も少ないよ」


「優しいんだね、早坂くんって」

「そ、そんなことないさ」



 春のような暖かい笑みを向けられ、俺は照れた。

 八重樫って弓道部の主将とか言っていたよな。凛々しくて美しいと思ったけど、笑うとまた違う美しさがあった。



「ちょっと、早坂くんいいかな」



 ちょっぴり不機嫌っぽい天音が急に、俺の制服の裾を引っ張る。



「ど、どうしたの」

「この人数になったし、これからは作業を分担した方がいいと思うの」

「分担か。具体的には?」


「たとえば、周辺の見回りとか。ほら、救助の船とか来るかもだし……あと倉島だっけ? 怪しいヤツもいるんでしょ。危険な動物もいるし。

 あとさ、食糧だって探さなきゃだし、寝床ももう少し快適にしたいじゃん?」



 天音の言う通りだ。

 それぞれ仕事を割り振った方が効率も良い。



「北上さんはどう思う?」

「良いかと。あたしは洞窟内にベッドを設置したいのです」



 ナイフ一本で任せなさいと、北上は自信満々だ。決定だな。そっちは任せよう。


「千年世は?」

「私は賛成ですね~! 人が多い方が楽しいですからねっ」



 よし、決まりだ。



 北上には、寝床の改良を。


 八重樫、宝珠花、彼岸花の三人には外周の見回り担当。

 それと、使えそうな道具アイテム集めをお願いした。枝でも石でもプラスチックでも役に立ちそうな物なら、なんでも持ってきてもらうようにした。


 俺と天音、千年世は食糧担当。

 食べられそうなものを確保する。



「さて、あたしはさっそく材料集めにいくよ」

「北上さん、本当に一人で大丈夫かい?」

「心配ないよ。イノシシ戦を見ていたでしょ?」


 そうだった。

 あの英霊に匹敵する力を目の前で見せつけられたんだった。北上は、きっと世界が滅亡しても大丈夫だな。



 スマホを見ると【7月1日(金)10:34】となっていた。

 電池残量は【48%】と、少し危うい。


 ……って、そうだ。



「みんな、スマホは持ってるの?」

「わたしはあるよー。アイフォンの電池もったいないから、電源は落としてるけどね」


 天音は使えるらしい。

 どうやら、船に乗っていた時から電源は切っていたようだ。


「あたしは落としちゃいました。ナイフだけです」


 そうか、北上はないのか。


「私はありますよー。でも壊れちゃいましたぁ……」


 千年世のスマホは水没したようだ。



 となると、あとはあの三人組だが。

 どうやら、三人ともアイフォンではなかったようで壊れたようだ。アンドロイドは防水機能が脆弱らしい。


 アイフォンは、海に落ちても平気だからな。


 助かったのは俺と天音のスマホだけか。



「天音、試しに電源つけてみてくれ」

「……いいけど、電波届かないと思うよ」

「俺のは相変わらず圏外だけど、契約キャリアによっては届くかもしれないだろう」


「どうかな。まあ、試してみよっか」



 スマホの電源を入れる天音。

 すると電波は……。



「だめかぁ……」

「そりゃそっか。すまん、天音」



 残念ながら電話不可。

 今のところ、通信手段は千年世の持っていたトランシーバーだけか。このオモチャでは、島内でしか連絡を取れないし、電池が尽きればいつかは使用できなくなる。



「いいよ。試してみないと分からないこともあるもんね。せめてネットが使えたらなぁ……」

「本当ね。天音ともラインできるのにさ」


「え……。早坂くん、わたしとラインしたいの?」

「ネットがあったらね。今は繋がらないから無理だけどさ」

「じゃあ、無事に生還できたら、いっぱいしようよ」


「……い、いいのか。俺なんかとライン交換してくれるってことか」

「もちろんだよ。その為にも、早く脱出しないとね」



 天音とライン交換か。

 そりゃ是非したい。


 こうなったら、イカダでも作るか。


 ……いや、無理か。

 この島から本州までの距離が分からないし、鮫でもいたら食われておしまいだ。それに、海流だってよく分かっていない。


 下手すりゃ、海外に流されることもある。

 リスクが高すぎるな。



「生き残らないとな。みんな、手分けして頑張ろう」



 全員が頷いた。

 ならば、俺はみんなの為に食糧集めだ。



 俺は、天音と千年世を連れて森へ向かっていく。



 歩いてニ十分弱。

 少し道に迷いつつも、ある場所に出た。



 ……こ、これは……!

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