ヤンデレなのかもしれない

 天音の拾ったモノは、一瞬ガラクタかと思われた。

 しかし、その黒いモノ・・・・は間違いない。


 一瞬、スマホかと思ったけど――違う。


「これ、なにかな」

「天音、これ拾ったのか?」

「よく分かんないけどね。使えなさそうだから、どうしようか悩んだけど一応持ってきた」



 俺は受け取って使えるか確かめた。

 すると、北上が興味深そうに顔を近づけてきた。



「早坂くん、それって『トランシーバー』だよね」

「間違いないな。しかも、これ使えそうだぞ」



 中古品のようだけど、動作に問題はなさそうだ。てか、なんでこんなモンが落ちていたんだ?


 もし、これが繋がれば“誰か”と連絡が取れるということだ。


 望みは薄いだろうけど。



「トランシーバーって、あの無線機の?」

「そうだよ、天音。よくこんなの見つけたね」

「結構遠くの方に落ちてたよ。……あ、そういえば足跡らしきものもあったような」


「となると、他のクラスメイトが流れ着いていたのかもしれないな」

「マジ!? ごめん、もっと早く言えば良かった」

「いや、このトランシーバーで連絡を取ってみればいいさ」


「出来るの?」


 俺は頷きながらもトランシーバーを確認。周波数はこのままで、送信スイッチを押す。

 ボタンを押して話しかけてみた。


「こちら二年A組の早坂。早坂だ。応答頼む。どぞー」

『…………』


 反応がない。

 相手はトランシーバーを持っていないのだろうか。


 諦めかけたその時だった。


 スピーカーからノイズが聞こえてきて……なにか声が聞こえた。



「お……?」

『こちら二年C組の。きっと誰かトランシーバーを拾ってくれると信じていました。直ぐに合流したいです。オーバー』


 やっぱり流れ着いていた人がいたんだ。しかも、声が可愛いし……別のクラスの女子なのか。


 俺は返事を返す前に、天音と北上に確認した。



「二年C組の千年世さんだってさ。会うしかないだろ」



 天音は「わたしは賛成」と手を挙げた。

 北上は少し悩んでいたが、同意してくれた。


「人手は多い方がいいでしょう。早坂くん、相手に連絡を」


 俺は頷き、まだ顔も知らない千年世とやらに返信した。


「分かった。居場所を教えてくれ。どうぞ」


『――こちらの現在地は洞窟。奥にいるので時間を要するかもです。オーバー』



 現在地は洞窟?

 まて、まさか……この奥にいるのでは!?


 そんなまさかな。


 気になって俺は質問してみた。


「千年世さん、その洞窟って浜辺から十五分の場所にある洞窟ですか? どぞー」

『そうです。探検をしていたら随分と歩いていました。そろそろ出入口です。オーバー』


 ――って、そこにいるじゃないか!


 トランシーバーを持つ千年世らしき少女が。



「もしかして……もしかしなくとも、千年世さん?」

「……あれ。三人も!? わぁ、嬉しい。孤独で死ぬかと思いましたっ!!」



 ぴょ~んと飛び跳ねてくる背の小さな女子高生。ちっこいけど、なんか可愛かった。猫のような愛嬌がある。


 千年世は俺に飛びついてきた。

 小柄のクセに巨乳らしく、俺の腹部に接触。マシュマロッ。


「うわっ!!」

「良かった、良かったですよぉぉ……! あなたがさっき無線をくれた人ですね!」


「そ、そうだけど……まさか洞窟の奥に人がいたなんて」


「島をウロウロしていたら、この洞窟が目についたので。でも、私も驚きました。あの晩、船が転覆して無事だった方がいたなんて。普通、死にますよ」


 それは俺も思う。

 自分自身がなぜ助かったのか。天音や北上もなぜこの島に流れ着いたのか……あまりにクラスメイトが集中しすぎていると思う。


 他の島だってあるだろうし。

 海を彷徨っている生徒もいるだろう。


 というか、なんでまた女子なんだ。

 これで三人目だぞ。


 しかもまた美少女。

 天音と北上とは違った幼さを持つ。

 ツーサイドアップの黒いリボンなんかしちゃって子供っぽいけど、なんだろう。守ってあげたくなる。



「とにかく、合流できて良かった。俺は早坂だ」

「よろしくお願いしますね、早坂くん!」


 明るい表情でウィンクされ、俺は胸がズキューンとした――というのは内緒だ。


「わたしは天音だよ。天音 愛」

「あ~、天音さんってA組の! どこかのお嬢様でしたよね。知ってますよぉ~」


 なっ……天音ってそうだったのか。

 道理で清楚せいそなわけだ。仕草もいちいち上品だし。


「こっちの金髪は北上だ」


 なぜか黙って天音を凝視していたので俺が紹介した。



「北上さんですねっ。よろしくお願いしますです」

「よろしくです」



 あっさり挨拶を終える北上。

 どうやら割と人見知りするタイプらしい。俺もだけどな。


 頬を掻いていると、北上が俺の肩を叩く。


「どうした、北上さん」

「ちょっと話があるんです」

「話?」

「こちらへ」


 天音と千年世と離れた。


「どうした、コソコソして」

「早坂くん……あの子にあんまりデレデレしないでください」


「へ? 俺、そんな顔していたっけ」

「顔が綻んでいましたよ。そ、その……あたしだけを信じて欲しいんです」


 照れながら言われ、俺も照れた。

 ……顔がアツアツでヤバい。


 女子からそんな風に“信じてくれ”なんて初めて言われた。


「も、もちろん、北上さんのことは信じているよ。サバゲー得意だって話だし、サバイバル術にも期待できそうだし。なによりも、ナイフを持っているからね」


「はい……だから、その……」


 頬を赤らめ、ナイフの切っ先をこちらに向ける北上。……って、うぉい! 危ねぇ!


「ちょ、北上さん。危ないって」

「浮気したら刺し殺しますからね?」


「え……なんの話ィ!?」



 いつの間に俺と北上は、そういう関係になっていたんだ。わけが分からないッ!



「なんて冗談です。可能性の話です」

「そ、そうか。冗談か……ははは……」



 目が本気じゃないかー!!



 * * *



 今夜は熱帯夜らしい。

 熱くて汗が止まらない……。虫も結構いるし、キツいな。


 洞窟の壁に背を預けていると、天音が制服を脱ぎ始めた。って、何事!


「ちょ、まて天音さん!」

「だ、だって……汗臭くなっちゃうもん」

「だからって下着姿になることは……」

「家では下着姿で過ごすから。って、早坂くん!! 見ないでよっ」


 今更腕で隠す天音だが、もう遅い。

 俺は刹那の時間を利用し、ハイスピードカメラ(俺の神眼ゴッドアイ)によって完全に捉えていた。


 天音って思った以上に巨乳なんだな。


「分かった分かった。見ないけど、勝手に視界に入ったら、そっちのせいだからな」


 俺は背を向けて、ペットボトルの様子を伺った。

 ポタポタ落ちる水滴を溜めていたのだが、まだ微々たるもの。飲めるほどの量になるには、一日掛かるだろうな。


 千年世は洞窟探検で歩きつかれたらしく、寝ている。


 北上は何か作っていた。


「はい、完成しました」

「お、凄いな。それって松明たいまつか? 変わった形をしてるけど」


「そうです。これは浜辺に落ちていた流木であり丸太です。こうやってケーキを切り分けるみたいに溝を作ると蝋燭ろうそく代わりになるんです」


「それって『スウェーデントーチ』かよ。渋いっていうか、よく知ってるな」



 スウェーデントーチ。

 1600年代から広まったという割と歴史ある焚火だ。


 *(アスタリスク)の形状に切り込み、丸太の真ん中から燃焼させると高火力で薪が燃えるようだ。


 そうか、北上のヤツずっと木を彫っていると思ったら、そんなものを作っていたのか。もしかして、俺よりサバイバル術を持っているのかも。興味深いな。

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