どうやって脱出する?

 スマホは使い物にならなかった。

 本州から離れた、こんな離島では当たり前か。距離もかなりある。


「そもそも、ここは『無人島』っぽい。電波なんてあるわけないか」

「うわぁ……最悪じゃん。ていうか、わたしと早坂くんの二人だけ?」

「かもな。他のクラスメイトは見当たらないし、海の底か……流されたか」


「ちょ、不吉なことを言うの止めてよ!」


 顔を青くする天音。

 そういえば、制服がずぶ濡れで少し寒そうだな。それと下着がちょっと透けてる。


 ふぅん、青か。


「可能性の話さ。俺たちが助かっただけでも奇跡だよ。あんな台風だったし……船、沈んだし」


「そ、それもそうだけど……ん? 早坂くん、さっきからわたしの胸とか見てない?」


「……かもな」


「って、透けてるー! は、恥ずかしいから見ないでよ!」


 赤面して涙目で抗議してくる天音。

 くるっと背を向け、しゃがんだ。

 俺だってドキドキしとるがな。

 こんな美少女と二人きり!?

 信じられねえ……。


 まず、女子と話す機会のなかった俺。孤独すぎる人生を送り、卒業を迎えるとばかり思っていた。


 だが、漂流して気づけば天音と二人。


 なんの因果かな。


「天音、そんなことより脱出方法を考えようぜ」

「そ、そんなことって……へっくち」


 天音は可愛らしく、くしゃみをした。やっぱり、少し寒そうだな。火を起こせればいいんだけど、どうしたものか。


 火打石か……こういう時、サバイバルの基本アイテム・ファイヤースターターでもあったら良かったけど――ああ、あったわ。


 お守り代わりに持っていたんだっけ。


「夏だから自然乾燥でもいけそうな気温だけど……せっかくだし、火を起こしてみるか」

「え、早坂くん、火起こしできるの?」

「多分ね。木を集めてくれ」



 ――十分後――



 二人で協力して浜に落ちている木を集めた。

 乾燥しているし、これならいけるかも。


「これをどうするの?」

「まあ、見てて」


 俺は胸ポケットからメタルマッチ……別名:ファイヤースターターを出した。


 マグネシウムの金属棒を擦ると火花が散って――着火するのだ。かなりコツがいるので初心者には難しいが、俺は自宅で何度も練習済み。


 まずはファイアースターターを手に持つ。


 左手にストライカーと呼ばれるプレートを持つ。

 右手にもう片方のロッドを木に向ける。


 手前にゆっくり引いていくと、バチバチと火花が散っていく。


 それが上手く乾燥した木に着火した。


「わぁっ!! 火が着いた……どうなってるの?」

「マグネシウムさ。金属で擦るとこうやって火花が散って、火が着く。サバイバルアイテムなんだぜ」


「なんだぜ……って、そんなモノよく持っていたね」

「サバイバル動画にハマっていた時期があって、その影響で。これ、そんなに高くないし、二千円とかで買えるんだ。一個持っておけば、こうして無人島に漂流した時にも使えるし」


「いやいや! 普通、漂流することなんてないでしょ……」

「今現実になっとるし、買っておいて良かったよ」

「ま、まあそうだけどさ。けど、助かったよ。服を乾かせそう」


 どうやらお気に召したようで、天音は焚火の前に立って服を乾かしていた。


 俺はそんな天音を観察。


 おや、顔が赤いが背は向けないな。


「恥ずかしいんじゃなかったのか」

「……死ぬほど恥ずかしい。でも、お礼」

「お礼?」

「火を着けてくれたお礼だよ。だから見ていい……けど、三分間ね! それ以上見たら、目を潰す」


「おっかねえな。じゃあ、三分間だけ」


 まるで某大佐みたいな条件を突き付けられ、けれど俺は天音のスケスケを堪能した。


「ところでさ、どうやって脱出する?」


「んー、イカダとか作っても沈みそうだしな。救助を待つかないんじゃね。さすがに船が沈没したんだぞ、今頃は大事件だ。直ぐに海上保安庁やら漁船が探してくれるさ」


「そ、それもそうだよね。うん、それまでは頑張って生きようね」


「そうだな。生きる為にも、まずは水と寝床だな」



 サバイバルの基本中の基本。

 とにかく、水の確保。

 それと安全な寝床。


 この二つさえ条件がクリアできれば、なんとかなるだろ。



「なんで水なの? 食料じゃないの?」

「人間、水があれば最大二週間は生き延びられるらしいからね。それに、水の確保は難しいんだ。海水を飲むわけはいかないし」


「そ、そうなんだ……知らなかった。早坂くん、博識でカッコイイね」

「それほどでも――あるけどな」


 水が飲めなければ最終手段・・・・もある。

 今はとにかく、やれることやっていくか。



 島は中々に広い。

 はっきりした広さは分からないけど、少なくとも東京ドーム一個分以上はありそうだ。


「暑いね……火、いらなかったかも」

「ひどっ! がんばって焚火作ったのに~」

「あはは、ごめんごめん。でも助かったよ」


 林の方へ向かう為、大岩を歩いていると天音は手でパタパタ煽いでいた。汗ばんで、少し……エロい。しかも結局、汗で透けてるし。


 そういう俺も汗が止まらない。


 あんまり移動はしない方がいいかもしれない。体力を奪われるから。


「天音は、彼氏とかいるのか?」

「唐突だね。急に聞くとか」


「答えたくなければそれでいいよ。なんとなく聞いただけ。ほら、少しは暑さが紛れるだろ」

「……彼氏なんていない」

「そうなのか。天音ってモテそうじゃん。可愛いし」


「か、かわっ!?」


 驚く天音は足を滑らせた。


 危ない!!


 俺は咄嗟に手を伸ばし、天音を右手を掴んだ。……セーフ! 危うく、岩に後頭部を打ちつけるところだったぞ。


 ゆっくりと引き上げると、今度は天音が俺の胸の中に飛び込んできた。


 やっべ、力を入れ過ぎた。



「うわっ!?」

「きゃっ……」



 天音が俺を押し倒す格好となってしまい、俺は混乱した。

 事故とはいえ、天音が俺の胸の中に!


 や、柔らけぇ……じゃなくて!!



「す、すまん。力み過ぎた」

「う、ううん。助かったよ……ありがとう」



 お互い顔を真っ赤にして、動けなくなった。


 どうしよう。


 固まっていると林の方がガサガサと音を立てた。……ウ、ウソだろ!? この島、動物がいるのか!?



 まずい、熊とかいたら食い殺されるぞ。



 身構えていると――



 それは……うああああああああ!!!



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