金髪の美少女

 黒い影が飛び出てきて俺は、天音を守る体勢に。

 けど、それが獰猛どうもうな熊でないことに安心した。良かった、熊だったらマジでやばかった。


 だが、それ・・は別の意味で恐ろしい生物だった。


「天音、これはへびだ! しかも大蛇だ……」

「へ、へ、蛇はダメ! わたし蛇は無理!! 早坂くん、助けてよぉ……!!」


 俺に抱きついてくる天音。

 力いっぱいグイグイ体を押し付けてくるものだから、俺は天国に。だけど、そんな余裕もなかった。


 あれは下手すりゃ毒蛇だぞ。

 噛まれたら大変だ。



「アオダイショウなら毒はないらしいが、生憎俺は蛇に詳しくないからな」

「ど、どうする!? 逃げる!?」

「落ち着け、天音。こういう時は静かに留まる方がいいんだぞ」


「で、でも……」

「もしくは倒して食糧にするか」

「え、蛇を? 嫌!!」


 全力で拒否する天音。

 ですよねえ。

 でも“貴重なタンパク源”なんだよね。


 少々残酷ではあるけど、生きる為だ。

 ヤツを確保する。


「少し離れていてくれ、天音。俺が蛇をなんとかする」

「なんとかって、何をするつもり?」


「救援がいつ来るか分からないし、食糧確保さ。ナイフはないけど、大き目な石でちょちょいと」

「やだやだやだああああ!!」


 天音は涙目で叫んで俺の手を握った。

 競走馬サラブレッドみたいな猛スピードで爆走し、その場を逃げ出した。……走るの早ェ!


 気づけば、林の方へ入っていた。

 いや、もう森か。


 このままだと迷子になる可能性もあるし、また危険な動物と遭遇するかも。



「なあ、天音……」

「……っ」



 彼女の顔をよく見ると、泣いていた。

 まさか蛇が怖かったのか。


 天音は思ったより純潔だったらしい。

 まあ……女の子には恐怖でしかないか。俺としたことが、デリカシーなさすぎたな。



「す、すまん。俺は生きることばかりで……天音の気持ちをちっとも考えてやれなかった」


「怖かった……」

「え?」

「すごく怖かった……」


 また抱きつかれて、泣かれて……俺は頭が真っ白になった。

 天音がこんなに小さくなって。


 うぅ、これ以上は俺の身が持たん。


「あ、天音。今は『水』の確保を優先しよう」

「……うん、分かった」


 俺から離れる天音。頬が真っ赤だ。

 という俺も心臓がバクバク。

 女の子に二度も抱きつかれるなんて人生初だ。この時だけは漂流して良かったと思えた。


「アテもないけど、この森の奥へ行ってみるか」

「大丈夫なの……」

「デメリットの方が多いけど、メリットもある」

「へえ、どんな?」


「水が確保できる可能性が高い」

「水……そういえば喉が渇いたし、飲みたいな」


「その為にもこの道を進もう」


 緑の生い茂るジャングルのようだが、湿度も高いし……水分補給できる可能性は高い。

 森の中を突き進んでいく。

 草木が行く手を阻んで鬱陶しい。


 ナイフがあればなぁ……。


 仕方ないので落ちている太い枝を代用した。



 草木を掻き分けて行くこと十五分ほどだろうか。岩山のような場所に出て、少し開けた。


「ねえ、早坂くん。あの穴って……!」

「ああ! あれは『洞窟』で間違いない」


「ということは、あそこを拠点に出来るんじゃない!?」


 喜んで走り出す天音だが、俺は待ったを掛けた。


「待て、天音」

「な、なによ。あそこなら安全に休めそうじゃん」

「無人島は危険がいっぱいあるんだぞ。さっきも蛇と遭遇したばかりだ。もう忘れたのか」


「うぅ……そうね。そうだった。洞窟には、なにか危険が?」

「もちろんだ。例えば、あれが洞窟ではなく“巣穴”だったらヤバいぞ」


「す、巣穴って……まさか」


「そうさ、蛇とか熊の巣になっているかも。まあ、蝙蝠こうもりはいるだろうな」


 そう説明すると天音は足を止めた。

 明らかにビビっていた。

 でも俺もヒヤヒヤしている。


 洞窟の中に動物がいることもあるからな。頼むから、熊だけは勘弁してくれ。


「どうすればいいの?」

「こういう時は“石”を使う」



 俺は適当な石を地面から拾った。

 それを洞窟の中へ向けて投球。


 ぴゅ~んと弧を描く小石。

 やがて奥でカツンカツンと音が響く。


 あとは耳を澄ませて動物の気配がないか探るだけ。



「……気配、無さそうだね」



 ぽつりとつぶやく天音。

 どうやら洞窟は問題なさそうだ。


「よし、入ろう。でも万が一もあるかもしれない、太い枝と小石をいくつか拾っておこう。武器になるから。ほら、天音もお守り代わりに持っておけ。何もないよりはマシだろ」

「う、うん」


 天音にも小石を持たせた。

 使える物はなんでも使うべきだ。

 たとえ、石ころであろうともね。


 慎重に洞窟に入っていく。


 改めて確認しても獣の気配はない。


「俺が様子を見てくる。天音はここで待っていてくれ」

「やだ、怖いもん。早坂くんに着いて行く」

「仕方ないな。じゃあ、せめて俺の手を握ってくれよ」

「バカ……」


 手は握ってくれなかったけど、服の裾は掴んでくれた。頬をあんな赤らめて……ツンデレさんかな。


 ともかく、安全を確保したい。

 進んでいくと……。



 ん?



 なんか光った気がする。

 気のせいかな。



 ジリジリと前へ進むと、岩陰からいきなり何か飛び出してきた。



 やっべ、今度こそ熊か!?



 飛び出してきた小柄な何かは、俺に飛びついてきた。押し倒されて転倒する俺。



「――ぐっ! 小熊か!? クソ、こうなりゃ目を潰してでも……って、アレ」



 よく見ると俺の喉元にはナイフが突きつけられていた。

 こんなモノを扱えるなんて……つまり“人間”だ。



「熊かと思ったら違いました。同じクラスの早坂くんと天音さんじゃないですか」


 ぱっちりした大きな瞳が俺を見下す。女子だが、知らない顔だな。


「誰だっけ。てか、生存者がいたのかよ!」



 驚いていると天音が少女の名前を口にした。



「え……北上さん!!」

「昨日振りです、天音さん。仲間がいて良かった」

「そ、それよりナイフをおさめて。早坂くんが困ってるでしょ」


「困ってる? 嬉しそうですけど」



 そりゃ、金髪の美少女に馬乗りされて嬉しくない男子はいないだろう。

 ……しかも、結構感触が。


 いやしかし驚いた。


 クラスメイトの女子がこの島に流れ着いていたとは。



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