第3話 肥満児の華麗なる賭け

結局、退院するのに約二週間かかった。

それにしても二週間もベッドの上というのは長かった。

しかし退屈ではなかった。


何故かって?

それは俺という男がシロタンだからだ、としか説明のしようがない。

俺がギリギリでいつも生きていたい男であることは知っての通りだと思う。

その性分はこの病室内でも発揮されてしまうからな…


俺が何か用があってナースコールを押すにしても、ただでは押さない。

ナースコールのボタンを押し、アレを始めるのだ。


え?アレとは何かって?

そんな野暮な事を聞くなよ…

男が一人ですることと言ったら決まってるだろうよ。


まぁ早い話が、アレをおっ始め看護士が来るまでにイケるかという挑戦だ。

だいたい来るまでにイクのだがな、たまに現場を見られることもある。


そんな時は俺の必殺の流し目を送る。


それだけだ。

それだけでその女の看護士の俺を見る目が変わる。

その眼差しは火傷しそうなほど熱い。

全く、俺は自分でも呆れるほど罪な男だ…


え?男の看護士の場合はどうしたのかって?

そんな時はだな、


「これが俺の生き様だ!

わかったら出てけーーっ!」


この一喝で男の看護士は殆どたじろいで病室から出て行く。

それで終わりだ。


しかしだな、一人だけ


(またくる。ゆるさん)


と俺の病室のドアに貼り紙をして去った奴がいた。

これには面食らった。

こいつは…、只者ではない。

こいつは違いのわかる男だ。


そんなこんなで俺は元気だということで、若干退院が早まったのだ。

退院したと言っても両足を骨折してるからな、当分の間は車椅子生活を余儀なくされた。


家の中では家族の助けを借りるからなんとかなるが、いつも家族が俺に着いて来るのは無理なことだ。

そこで便利な奴らがいることに気付いた。


パリスと栗栖だ。


ブラックファミリーには格、序列がある。

俺を頂点にして、次にクロ、

え?クロがブラックファミリーの領袖じゃなかったのかって?

確かにクロはブラックファミリーの領袖だ。

しかしクロは俺の傀儡なのだ。


クロに続いて高梨と若本と妻殴りに糞平は同じ格。

最底辺にパリスと栗栖がいる。

そんな理由でパリスと栗栖を日替わりで俺の世話係に任命することにした。


パリスと栗栖の1日交代のローテーションで俺の世話係をすることとなり、今日は3巡目だ。

今日は栗栖の担当だ。


朝、俺が松葉杖をつきながら玄関を出ると、既に栗栖は外で待機していた。

良い心掛けだ。

パリスだと必ず俺が待たされることになる。


「おはよう、シロタン。」


必ず栗栖の方から爽やかな挨拶をしてくる。

パリスだとこうはいかない。

奴はいつもの薄ら笑いを浮かべるだけで俺が何か言うまで突っ立っているだけなのだ。


「おはよう栗栖。今日も頼むぞ。」


俺がそう返すと栗栖は車椅子の準備を始め、


「いいんだよ、シロタン。

さぁ、車椅子へ移ろう。」


手際良く俺を車椅子へ座らせる。

そして慣れた手つきで車椅子の安全を確認すると、


「いつもの買ってきたよ。」


大きめなスーパーのビニール袋を差し出した。

この袋には2リットルペットボトルのコーラが2本入っている。

栗栖はいつもズボンを極端な腰穿きをしているせいで半ケツを晒しながら歩いて…、たまに前から陰毛まで晒している超のつくレベルの間抜けなのだが、こういう部分では気の利く奴だ。


「ありがとう。

百円でいいよな?」


俺は問答無用で栗栖に100円玉を渡すと、そのビニール袋からコーラを一本取り出し、蓋を開け飲み口を咥え、


一気に喉の奥へと流し込む。


「プッハーーッ」


「ゴボゥゥエッ」


溜息とゲップが一気に出る。

至福の瞬間だ。


コーラってものはグラスに注いで飲むなんて邪道だ。

コーラを飲むなら缶でも瓶でもペットボトルでも、直接飲み口から一気に流し込むのが至高!

飲むにしても一口なんてケチ臭いことはするなっ!

一気に一本飲み干すか3分の2は飲むのだ。

そしてゲップを自分の出せる最大音量で出す。

これぞ至高の飲み方てあり、コーラという神から与えられし最高の飲料水の味わい方だ。

俺は毎日実践している。

最早これは様式美の世界だ…


わかったよな?

わかったのなら実践してみろ。


話はそれからだ…


俺は迂闊にも大事な事を忘れていた。

ダイエットだのカロリーゼロのコーラのことだ。

あいつらはコーラか?


否、あいつらはコーラではない!


全く別のものだ。

俺はあんなものがコーラを名乗ることが許せないっ!

俺の目が黒いうちはあんなものをコーラとして認めないからな…


俺が2リットルペットボトル一本を一瞬で飲み干すと、栗栖は俺の背後へ周り車椅子を押し始めた。


「シロタン…」


栗栖の声の質が若干重めだ。

栗栖がこの声を出す時は悩みがある時だ。

そんな時は決まって栗栖の悩み相談に付き合わされる。

この後、奴が何を言うのか予想がつくのだが、


「どうした、栗栖。」


「実はシロタンに相談したいことがあるんだ。」


やはりな…


「そうか、それなら放課後、皆でそれを聞こう。


話はそれからだ…」


「ありがとう、シロタン。」


栗栖の悩み事なんて高が知れている。

どうせいつも通り隣のクラスの女に惚れたとか些細な事だろうよ。

どうでもいいことに一々、深刻ぶるのが栗栖という奴の特徴だ。

朝からこんな事に付き合わされるのは御免蒙りたい。

放課後のファミリーの会合でクロの奴に相談に乗らせればいい。

その程度の事だ。

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