第38話 歓迎されていない……?って、あれれ~?

 エルフの里を出発してから、実に一週間ちょっと。

 俺たちは、ようやく化け狐族の里に関する痕跡こんせきを見つけ、それを辿る事で近くまでやってきた。


 それにしても、いや~時間がかかったね。

 探索三日目あたりで、街づくりの方は一旦中断しようという話になり、こちらに注力すべく方向を変えた。


 時間がかかった理由としては、里の痕跡が見つからなかったのもあるが……


『ルシオ! 見てこれ! すっごく綺麗な花!』


「また変なもん取ってきやがって」


『我も見つけたぞ!』


「フクマロお前もかい!」


 まあ同行者が元気なこと。

 それに一週間とは言っても、別にワイルドな生活をしていたわけではない。


 簡単な寝床のコテージなら俺がすぐに作れるし、収納魔法内には食料も存分に入れてきた。

 料理は言わずもがな、素晴らしいシェフが二人もついているので困る事は無い。


 なので、言ってしまえば道中を楽しみ過ぎた。

 けどまあ、こうして無事目標には辿り着けたのでよしとする。


 街づくりも特に期限があるわけではないしな。

 久しぶりの冒険だ、のんびりするのも悪くない。

 

「でもみんな、そろそろだ。この辺から魔力の質が違う」


『ええ、そうね』


 魔力の質が違うというのは、この辺りからまるで「この先は我々の領地だ」と言っているかのような、魔力の線引きを感じられるということ。


 と感じていたのもつかの間、


「──!」


 俺たちの足元に一本の矢が刺さる。


 直接俺たちを目掛けたわけではないようで、領地の線上にぴったりと刺さっている。

 俺たちをそれ以上近づけさせないための、警告の様な矢だ。


「止まれ!」


 続けて、前方の高い木々の上の方から声がする。

 見上げた先には……


「人?」


 弓矢をこちらに向けながら、俺たちを警戒するのような者が三名。


「……いや」


 人かと思ったが、微妙に違う点がいくつか見受けられた。

 頭の上部についている猫耳のような耳や、後方に少し見え隠れする尻尾、きつねっぽい特徴と言われれば納得できる。


 これが聞いていた化け狐族か。

 そして噂通り……


「くっ! イケメンかよ」


 今世の俺も、自分を見たときはかなりイケメンに生まれ変わったものだと歓喜したものだが、それを優々と超えてきやがった。


 それはもう、女性向けのソシャゲとかに出られるレベルのイケメン達。

 近寄ったら甘い声で誘惑されそうだ。 


 成人式のようなド派手さとはいかなくとも、街にいたら十分に目立つ綺麗な和服のようなものに身を包む彼らは、大変える。

 それも加味して……悔しいがかっこいい。


 で、でも俺もまだまだこれからだもーん!

 まだ十五歳で幼さが垣間見えるだけだもーん!


 けどまあそんなことは後にして、今は話をしなければならない。


「急に訪問してしまいすみません!ですが、僕たちは決して争いにきたわけではないんです」


「黙れ! をして許されると思っているのか!」


「そんなこと? ──くっ!」


 しかし、話の途中で化け狐達は容赦なく弓矢を放ってきた。

 俺は即座に反応し、リーシャを抱えてバッとその場を離れる。


 今度は境界線ではなく、確実に俺たちを狙って撃ってきた。

 さらに、地面に刺さった弓の先には魔法が付与されており、どんな効果があるか分からない。


 直観で避けたわけだが、結界で防がなくて正解だったな。

 下手をすれば何らかのダメージが残った可能性がある。


『あいつら、己の立場を分かっていないようね』


「やめろドラノア。ここで手を出すと交渉が決裂してしまう」


『ルシオ……。じゃあどうしろって』


「こういう時はとにかく、俺たちに戦闘の意思がないことを伝えるしかない」


 そうしないと、せっかく辿り着いたこの場所へは二度と入れなくなる。

 俺もまさか、化け狐族がここまで好戦的とは思わなかったけどな。


「放て!」


 そんな俺たちを追撃するよう打ってくる弓矢。

 見えている三名が同時に撃ってきており、あちらは完全に迎撃態勢だ。


「スフィルは一歩後退! フクマロはリーシャを頼む!」


「分かりました!」

『承知!』


 スフィルを下がらせ、リーシャは一旦フクマロに預ける。

 もし何かあった時、一番速くここを抜け出せるのはフクマロだからだ。


「はあっ!」

『ヴオオ!』


 向かってくる弓矢は、俺の『風魔法』やドラノアの火の咆哮ほうこうでいなす。

 俺たちは反撃をしないが、弓矢は止まる様子が無い。

 

『……この』


「まだだ。抑えるんだ、ドラノア」


 だが、この攻防で一つ気づいた事がある。

 こいつら、時々弓矢を放ちずらそうにしていないか?

 

「くそっ、貴様ら卑怯ひきょうだぞ!」

 

「卑怯?」


「そうだろう! 神獣フェンリル様を盾にしやがって!」


 ん? 今、フクマロのことを“様”って言ったか?

 そうして、もう一方の化け狐さんも必死に叫びだした。


「ちくしょう! フェンリル様! 今お助けします!」


「お助け??」


 あれ、いよいよ話が分からなくなってきた。


「なあフクマロ、もしかして知り合い?」


『いや、まったくそのような記憶はないが……』


 そうだよなあ、フクマロから化け狐族の話なんて聞いたことないし。


 あれれ~? おっかしいぞ~?

 けどまあ、ここはありがたくこの状況を利用させてもらうか。


「フクマロ、一言言ってやってくれ」


『うむ』


 フクマロが俺たちの前に出ることで、三人は攻撃の手を止める。

 そうして、一息ついたフクマロが宣言した。


『この者たちは敵ではない! どうか矛を収めよ!』


「「「へ?」」」


 半信半疑だったが、フクマロが一言を放った瞬間、嘘のようにぴたっと矢の嵐が止んだ。

 ……まじで止むのかよ。

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