第37話 快適な空の旅、得られた情報

 ドラノアの提案から、長年森を飛び回っていたであろう、ダークエルフのテトラさんに話を聞くことにした。


 今はその出発段階だ。

 そこで必要な工程が一つ。


 「……」


 スフィルが祈るようなポーズを見せ、背後には黄緑色のオーラが包む。

 精霊さんの力を使役しているんだね。


 会話は出来ないと言っていた彼女だが、精霊側からスフィルへ言葉を受ける手段がないだけで、こちらから一方通行で言葉を伝えることはできる。


「はい、もう大丈夫です。これで、これからエルフの里に伺うよう里側に伝わったはずです」


「よし、ありがとう」


 開放的なエルフの里だが防衛手段はいくつか存在しており、その一つがこれ。

 エルフの里外から里へ入るときは、事前に精霊伝いに知らせておくのだそうだ。


 最近となっては、果たして森に怖い種族がいるのかすら怪しいが、みなが安心して暮らすには必要なことなのだろう。


 とにもかくにもこれで、


「じゃあテトラさんに話を聞きに行こうか」


 俺はドラノアとの一件以来、エルフの里を訪ねることにする。





 いつもはフクマロにまたがって移動していたが、今回はなんと空の旅。

 ドラノアがドラゴン形態となり、高い木々のさらに上から里へ向かったのだ。


 満天の青空は陽が強すぎたので、俺の魔法でうまく日陰を作りながら悠々自適な素晴らしい旅(二時間ぐらい)をした。


 ただやはり、森は精霊やその他の原因で幻影を見せているようで、空からの光景は均等な高さの木々が永遠に広がるのみ。


 それが、里にたどり着いた瞬間に『神秘の樹』のような巨大な木が姿を現すのだから、不思議ったらありゃしない。


 いつか、森の秘密も解いてみたいものだな。

 と、どれだけかかるかも分からない謎にも心躍らせながら、あっという間にエルフの里へ到着した。


 里につくなり、俺たちは出迎えられ、改めて里の穏やかさを感じる。

 いくらエルフィオさんが説明したからと言って、ドラゴンに恐怖一つしないのだ。


 エルフィオさんへの信頼が上限を突破しているのか、肝が座っているのか。

 そんな中で、早々にテトラさんに本目的を聞くことができた。


「ドラノア様……! それでうちのところに!?」


『ええ、そうよ。というか、あたしに“様”もかしこまった言葉もいらないわ! あたしたち友達でしょ?』


「はい……あ、うんっ!」


 テトラさんめっちゃ嬉しそ~。


 最初はクールキャラなのかな、なんて思ったけど、案外妹キャラというか、まあエルフィオさんにもぞっこんみたいだからな。

 可愛い系のキャラなのかもしれない。


「それで、これを見て何か分かることとか、話を聞いたりしたことってある?」


 俺はスフィルのペンダントを指しながら聞いてみる。


「ん~、そうね。正直ルシオっちみたいに分かることは少ない」


 ルシオっち!?

 めちゃくちゃツッコミたい呼び名だが、ここは一旦話を聞こう。


 彼女も真剣に話してくれている、それにまあ、口調から出なくもない呼び名だと一応理解できる。


「けどこれは、“ダンジョン”からの物じゃないかしら」


「ダンジョン!?」


 それってよく言う、未知の発掘物が取れるとかいう、迷宮とかか?


「うん、多分だけどね。そんな凄い物があるとすれば、まずダンジョンで間違いないと思う」


 テトラさんは、確信まではいかなくとも、どこか根拠を持って話しているよう。


「うちはドラノアの世話をしているのは悟られたくなかったし、なるべく誰とも話さないようにしてた。けどその分、コソコソ情報収集することだけは怠らなかったわ」


「ふむふむ」


「魔力については素人だったわけだし、ドラノアへ供給するためにも色んな場所で情報収集したわ。その中で思い当たるのは、やはりダンジョンね」


「なるほど。それはどこに?」


「そうね」


 テトラさんの説明は大変わかりやすいものだった。


 俺たちの住処を中心とすると、北は森の外。

 トリシェラ国をはじめとする人間界だ。


 南がここエルフの里で、東にはぬしのいた湖がある。


 そして、今回の話題のダンジョンは西。

 それも住処から湖までの距離よりも長く、西にずっと行った先にあるという。


 ただ、テトラさんも正確な位置までは分からないとのこと。

 あくまで話に聞いた程度みたいだ。


「あとはたしか、里があるって話ね。種族はなんだっけなー、化けるとか化けないとか、そんな種族だった気がするけど……」


 テトラさんは記憶を振り絞るように「うーん?」と頭を悩ます。

 情報はここらへんまでのようだ。


『それ、ぎつね族のこと?』


「そう! それっ!」


 意外にも口を開いたドラノアに、テトラさんが同意を示す。

 

「よく知ってるな」


『名前だけよ』


「それで化け狐族っていうのは?」


『そうね。名の通り、化ける狐のこと。それも、あたしみたいに人間の姿にね」


「へえ……」


 ドラノアも何故か人型に化ける事が出来るし、化け狐族も……か。

 これは偶然なのか?


 けどまあ、とりあえず


「テトラさん、ありがとう。本当に助かった」


「ううん、うちで良ければいつでも頼ってよ。ちょっとここでやることがあるから、今回は行けないけど」


「いやいや、全然。じゃあまた、すぐにでも顔を出すよ」


 方角さえ分かれば、俺とドラノアの魔力探知でどうにもでもなるだろしな。


『ありがとうね! テトラ!』


「うんっ! またねドラノア!』  


 そうしてドラノアが変身。

 さあ行こうか、というタイミングでテトラさんが何かを思い出したかのようにこちらに向かって叫んだ。


「もう一つ特徴を思い出したわー!」


「なにー!」


「化け狐族が化けた人は、美男美女って噂よー!」


 ……なんだと?






 

<三人称視点>


 ルシオ達がエルフの里を出発して“一週間”ほど。


 ここは森の中、とある場所。

 ここにはダンジョンと呼ばれるものが眠っており、それを囲うように里が作られている。


 その里に住み着くのは、化け狐族だ。


「ここも、随分と平和になったものだな」


「ああ。かつてはこの里も小競り合いしてたなんて、夢のような話だ」


 言葉を交わす両者も、話題の割には顔が暗い。

 それもそのはず、


「あとは姫様さえ治ってくだされば……」


「そうだな……。争いがないのは良いことだが、姫様は心配だ」


 この里の姫様の体調が良くないのだという。

 しかし解決策がないようで、話題は切り替わる。


「そういえば知ってるか? この森にはいるんだろ? フェンリルやドラゴン、そんな伝説的な存在の数々が」


「ばっか、そんなのただの伝説だよ。そんなの信じてる奴なんて今時──」


「報告です!!」


 そんな二人の話を割って入るように、見張り番の者が声を上げる。


「どうした、そんなに慌てて」


「古来の伝承にある、フェンリルと思わしき種族を連れた、謎の者たちが姿を現しました!」


「「なにいいい!?」」


 今しがた、ただの伝説という話をしていた中にそれが出現したのだ。

 こんな反応にもなる。


「それに、謎の者とはなんだ!」


「それが……に、人間かと思われます!」


「人間だと!?」


 里にやや不穏な空気が流れる中、領地ギリギリのところまで、フクマロやドラノアを連れたルシオ達が姿を現した。

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