第34話 本格的な開拓!の前に

 ドラノアと一緒に住むようになった次の日、昼下がり。


「う~ん、っと」


 気持ち良い満天の青空に手を伸ばし、思いっきり背伸びをする。

 少々寝不足なこともあり、今日のお仕事は午後からにしたのだった。


 ちなみに、ドラノアは朝早くからどこかへ行ってしまったよう。

 来た次の日だってのに、自由な奴だ。

 自由さで負けるのはちょっと悔しい。


「まあ、その内帰ってくるだろう」


 そう思うことにして、とりあえず簡単なお昼ごはんを済ませた俺は、住処を眺めて頭を悩ませる。


 自由気ままな俺だけど、人一倍こだわりはある。

 これも、この住処をより良くするための悩みなのだ。


「どうしたんですか? そんなに悩ましい顔をして」


 そんな俺の様子が気になったのか、顔をひょっこりと覗かせたのはスフィル。


 朝起きた時は、一緒に寝ていたことに恥ずかしくなってどこかへ行ってしまった彼女だが、すっかり気分は落ち着いたらしい。


「うん、ちょっとね。ドラノアやスフィルも来たことだし、コテージを広げる、もしくは増築しようと思って」


「おーなるほど! それは素晴らしい考えですね! わたしからもぜひともお願いします!」


 昨日のことからかんがみるに、早急に増築が必要だ。


 今は俺たちも住んでいるとは言え、ここは元はフクマロの住処。

 エリアは大まかに、食物エリア、生活エリア(コテージ、洞窟、温泉)、泉エリアとなっている。


 まあ、生活エリアにもまだ余裕はあるし大丈夫だろうけど、増築するならそれぞれの配置やバランスなども考える必要が出てくる。

 俺が頭を悩ませているのは、そのバランス等々の部分。


 というか、あのコテージも仮に作った物だし、この際に新しく作ってしまうのもありだな。


「それなのですが、わたしも折り入って相談が……」


「え?」


 そんな中、ここぞとばかりにスフィルも何かを言い始めた。


「実は、わたしがエルフの里からこちらに来るときに、温泉の話をしたんです」


「う、うん……」


 なんだろう、すごく嫌な予感がする。


「そうしましたら……みんなが、ぜひ入りたいって」


「ですよねー!」 


 うん、スフィルが話し始めたときから大体分かってた。

 温泉の良さがさらに広がるのはとても良い事なのだが、さらに多くの人向けて住処を解放するとなると……


「さらなる拡張が必要だな。それに……」


 ちらっとスピリアのお胸を拝見。うむ、でかい。

 ではなくて!


 こんなエルフさんが多数来るとなると、いよいよ温泉自体も男女で分ける必要がありそうだ。

 

 男の方は俺とフクマロしかいないのだけど、やはり女性に安心して入ってもらうためには必要な事だろう。


 てか待てよ、どうせそこまでするのなら、


「うーん……」


「どうしたのですか? ルシオさん」


「ちょっと、前に言っていた目標を思い出してね。俺はいつか、お世話になった人達をこの森に招きたいんだ」


「それは素敵です!」


「それもあってさ。温泉やコテージを改築するなら、森をある程度開拓して、コテージみたいな家をいくつか造るのも悪くないかなって」


 簡単なコテージのようなものなら、それほど時間がかかるでもなく作れるしな。


「そうすれば、エルフさん達もそこに泊まれる。いずれ人を招いた時のために、この際色々と作っておくのも悪くないかなって」


「良いと思います!」 


 うんうん、どんどん考えが膨らむ。

 これは良いぞ~。


 でも、俺が頭を悩ませているのはもう一つ。

 これを行うにあたっての配慮だ。

 

「そうなると、森の木々をかなり切ってしまうことになるんだよなあ」


 仕方ないのだけど、やはり気にしてしまう。

 

 この世界は全て魔力で出来ているので、木を切り崩したからといって環境破壊にはならない。

 この森の木は、二酸化炭素を吸って酸素を吐いてる、なんてことはないからね。


 けど、やっぱり気にしちゃうんだよ。

 だってそれを消費するのには変わりないし。


「わたし達の里も木を切り崩して作っています。なので大丈夫かなと」


「けどなあ……」


 俺がやろうとしているのは、エルフの里とは比べものにならない程の開拓。

 それを好き勝手やっちゃっうのも気が進めないし、それで森の主なんかに目を付けられても嫌なんだよなあ。


 何か許可をくれる人……あ。


「……」

「な、なんですか?」 


 俺がスフィルの顔をじーっと見たので、当然のように聞き返される。


「スフィル達が力を借りる精霊って、森を司る存在でもあるよね?」


「そうですね。そんな言い方をされることもあります。現に、森を幻影で守っているのも精霊ですから」


「ふむふむ、やっぱりそうか。じゃあ精霊さんに直接許可をもらおう!」


「え? 直接? ……あのルシオさん、こう言っちゃ悪いですが、精霊と密接に関わりのあるエルフのわたしですら、会話は出来ませんよ?」


「大丈夫、大丈夫」


 ちょうど試したかった“あの魔法”を使えば、出来ると思う!


「スフィル。ちょっと準備するから、俺が合図を出したら精霊を呼び出してみてくれないか?」


「わ、わかりました……」


 そうして、疑問をぬぐえないスフィルを横目に、俺は準備に取り掛かる。


 



 準備をしたのは、人形のように削った木、小さな水晶玉のような魔法道具。

 環境が整ったところで、さっそく実行してみよう。


「あの、ルシオさん。話って、一体どうやって……」


「説明はちょっと難しいから、とりあえず実践するよ。スフィル、精霊を呼び寄せてくれる?」


「はい……」


 そうして、祈るポーズを見せたスフィルを、背後から黄緑色のオーラが包む。


 本来は見えないはずの精霊をエルフの力で呼び寄せ、力を借りる際は一時的にオーラのような形で具現化する。

 何度見ても、神秘的な光景だね。


 だが、今回は呆けて見ている暇はない!


「ちょっと失礼しますよ!」


 その黄緑色のオーラを水晶のような魔法道具へ

 そのまま木の人形の心臓部にはめこむ!


 すると、黄緑色のまばゆい光が木の人形を包み込み、人の肌感を創っていく。


 そして……


『な、なんですかこれは……』


 おおー! 大成功!


 俺が行ったのは、“精霊の具現化”。

 本来は、魔獣の意識を人形に移して「見た目は人、中身は魔獣」みたいなものを作って、魔獣と会話をするための理論。


 今回はそれを応用して、精霊を人型の人形に移し、会話を出来るようにした。


 人の形に留めておけるのはおそらく、もって今日一日ぐらいだろうけどね。

 だから今回は、許可をもらうだけ。


 仲間になれれば嬉しいけど、今の魔法道具の段階ではずっと人の形で居てもらうのは難しい。


 そうして目の前に現れたのは、絶世の美女。

 膝元まで伸びた黄緑色の長い髪を持ち、開いた目もまた黄緑色。


 って、しまった!

 俺がバッと背けたことで、精霊さんも自身のその姿に気づく。


『──! きゃあああ!』


「スフィル! 服! 服を持ってきてあげてー!」


「はい! 今すぐにー!」


 俺が具現化させた精霊は、生まれたままの姿だった。

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