第33話 終わりよければすべて良し!
ドラノアのやらかし発言から数十分後。
「「さあ、召し上がれ」」
俺たちの前には二つの皿が広げられた。
『おおー! おいしそうじゃない!』
「お、おう……」
一方はスフィル作、森の神聖な野菜をふんだんに使った
もう一方はリーシャ作、野菜をメインにしつつチーズで膜を張った、食欲をそそるグラタン。
テーマは、森らしく「野菜」だそう。
どちらもすごく美味しそう。
美味しそうなのだが、俺の反応は少し
それもそのはず、
「「さあ」」
料理人の目の圧が強すぎるんだよ……!
『早速食べるわ!』
しかし、そんな二人の目線も気にせず、ドラノアはぱくっと一口。
こういう鈍感さが俺にも欲しい。
『うまー!』
「良かったわ」
「とても嬉しいです」
ドラノアのがっつき具合に、二人もにっこりと笑顔。
だが、リーシャ・スフィル共に、俺のことを見る目はどこか怖い。
この恐怖からやっと逃げられたと思ったのに!
よくもやってくれたな、ドラノアよ!
スフィルがここに来て、二日に渡って繰り広げられた戦いでは、二人が譲り合う形で、料理は一日交代制で作っていくことになっていた。
しかし、おそらくどちらも勝負に納得したわけではない。
これはドラノアへの料理と言いつつ、俺への料理対決と言っても過言ではない。
「ふう……」
だが俺も男だ。
覚悟を決めて、いくぞ!
そうして、料理に手を付けようとした瞬間──
「あら、リーシャの方から食べられるのですね」
「へ?」
「ふっ、当たり前よ。私の料理から食べずして誰の料理を食べると言うのかしら」
「へえ~。そうなんですかあ」
怒りを表すように、スフィルの背後に黄緑色のオーラが!
ってこれは、精霊か!?
だ、ダメだダメだ!
ならば!
「あれルシオ、私の方から食べるのでは?」
「まあルシオさん。わたしの方から食べてくださるのですね」
「……」
ガチで詰んだじゃん、これ……。
ええいくそっ、こうなれば!
ふわっ。
「ルシオ!?」
「何を!?」
俺は『風魔法』で両方の料理を同時にすくった。
そしてそのまま……ばくん!
「──! あっつ、あっつー!」
「ルシオ!」
「大丈夫!?」
勢いのまま二つの料理を頬張ると、喉の奥でとんでもない熱さを感じる。
あぶねえ、死ぬところだった。
『こんなのが熱いの? 人間はひ弱ねー。あーむ。美味しい!』
「舌の耐性もあんのかよ……ドラゴン」
そんな俺を横目に、ドラノアはがっつき続ける。
そうして、俺の安全も確認出来たところで、
「どっちが美味しかった?」
「どちらが美味しかったですか?」
「ぐっ……」
なんとなく話題を逸らしたと思ったのに!
もうダメだ、ここは正直に言おう。
「どちらも、美味しかったです……」
舌を火傷したと思ったが、瞬時に『氷魔法』と魔力の調整を駆使して舌を修復。
その上で、料理を味わった俺の本心だ。
でもこんな答えじゃ……
「そ、そう……」
「良かったです……」
「!」
あれ?
意外にも反応は良かった。
ここ数日何度もこのやり取りをして、さすがに互いを認め合ったか?
と、そんな俺の考えを表すようにリーシャが口を開く。
「ねえ、提案なのだけど」
「なんでしょう、リーシャさん」
リーシャに反応して二人は向き合った。
「料理の腕は私の方が上だけど、その、エルフの里の料理や魔力操作も習いたいわ。ダメ……かしら?」
リーシャの言葉は、意外にも和解を申し出る言葉。
「はい。料理の腕はわたしの方が上ですが、リーシャさんの方がルシオさんの舌を分かっているのは確かです。だからわたしも……ルシオさんの好きな料理を、もっと教えて欲しいです」
おお、スフィルもこれに同意見。
「そういうことなら……良いわ、よろしくね」
「ええ、こちらこそ」
うんうん、なんだかんだ良い感じになったね。
結局欲しかったのは、俺の「美味しい」ということだったのだろうか。
『めでたしめでたし、ね!』
「おいおい、調子が良いな」
一応、この戦いを引き起こしたのはドラノアということは忘れないでほしい。
けどまあドラノアの言う通り、めでたしではあるかな。
ここに来てからずっと、それはもう大変な出来事があったが、終わり良ければすべて良し。
この言葉に尽きる。
この後、リーシャとスフィルはお互いの料理も食べながら称え合っていた。
その姿はとても微笑ましいもので、先ほどまでの
じゃあ、最初から争いを起こさないでほしい、とはとても言えなかったけどね。
そうしてご飯後、各自寝支度を
ドラノア・スフィルが来たことで、コテージ内の部屋が足りなくなったので、俺は一階のリビングに簡易ベッドを作って寝ることに。
女性陣は二階の部屋でそれぞれ寝る。
はずだったのだが……
『ルシオー! 一緒に寝るわよ!』
「ちょっ、おい!」
案の定というか、寝る直前になって階段を勢いよく降りてきたドラノア。
ドラゴンの持ち前の運動能力を生かした速さで、ベッドで横になる俺に対して、ドラノアはすごい勢いで俺に飛び込んで来る。
だが、それを読みきっていたらしいリーシャ。
「そうはさせないわ!」
「んなっ!」
俺のベッドにダイブしてきたドラノアに対して、リーシャが強豪ラグビー部ばりのタックル。
どうやら、リーシャもこの事態を予想していたらしい。
というか、一階に潜んでいたのね。
「さすがですリーシャさん。もう一歩でも遅ければわたしがやっていましたよ」
「スフィルもいんのかよ……」
黄緑色のオーラを
もうツッコむのも疲れた。
『あんたたち中々やるじゃない! でも、あたしは絶対にルシオと一緒に寝るわ!』
「「あぁん?」」
その言葉には、リーシャ、思わずスフィルまでもがヤンキー風だ。
もはやどちらも悪役にしか見えない。
「そうはさせないわよ!」
「そうですよ! ルシオさんと一緒に寝るなんてずる……ダメです!」
『なら二人してかかってきなさい!』
「上等よ!」
「上等です!」
「おいおい、三人とも……」
盛り上がっているところ悪いが、俺の周りでぎゃーぎゃーしないでほしい……。
って言っても聞かないか。
それならしょうがない。
「そらっ!」
そうして、俺が投げたことから始まったのは、懐かしき宿泊合宿か何かを思い出すような、枕投げ大会。
結局寝ることが出来たのは、かなり遅くなってから。
破天荒過ぎるドラノアを迎え入れての初日。
俺たち四人が、横になって至近距離で寝ていたことに気づいたのは、次の日の朝だった。
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