第27話 目覚めた大災害

 『ギャオオオオ!!』


 ドラゴンが産声を上げ、そのすさまじい衝撃が伝わってくる。


「これはまずい!」


 『魔力結界』!

 俺はみんなを守るべく、咄嗟とっさに結界を張るが、


「なっ──!?」


 パリィィィン!

 ガラスが砕けるような音と共に、結界はなんとも軽々しく打ち破られる。


 バカな! 大砲ですら優に防ぐ結界だぞ!?

 それを産声うぶごえだけでだって!?


「ぐうっ!」


 なんて咆哮ほうこう、それになんて魔力の圧なんだ!


 他の者はかろうじて耐えられるかもしれない。

 だが、リーシャが間違いなく危ない!


「フクマロ、リーシャを守ってくれ! リーシャは毛皮から出るな!」


『承知!』

「ルシオ! 気を付けて!」


 フクマロという戦力を失うのは痛いが、現状でリーシャを守れるのはフクマロのモフモフだけだ。


 毛が厚くて本当に助かった!

 気休め程度にしかならないと思うが、フクマロの周囲にも一応、魔法結界をかけておく。


『グルルゥゥ……』


 ドラゴンは目をゆっくりと見開き、周りの状況をその目で確認するようにぐるりと見渡す。

 そうして、上を見上げながら両翼を大きく広げる。


 飛び立つ準備をしているのか……?


 そんな俺の予想は当たり、ドラゴンが翼を一振りした。

 ただそれだけで、


「──うわあっ!」


「きゃあ!」

「くうう!」

『ぐぬっ!』


 先程の衝撃をかんがみて、さらに三重に張った『魔力結界』。

 それを全て簡単にぶち壊して、その圧は俺たちに届く。


 結界によって衝撃はやわらげられたが、俺にとっての最大の防御手段が、羽ばたきだけで壊される。


 これが本気で暴れるとなると……


『ギャオオオオオ!!』


 やばいどころの騒ぎじゃない……!

 下手をすれば、この辺一体が火事や衝撃で消滅する!


 だが俺たちが驚き焦る中で、テトラさんが声を上げる。


「ドラゴンさん! うちです! テトラです!」


 彼女は上空を飛び交い始めたドラゴンに両手を伸ばし、大声で呼び掛ける。


 彼女が、ドラゴンを目覚めさせるべく魔力を供給していたのだ。

 復活したとなれば、話しかけたくもなるだろう。


『……グルルル』


「ドラゴン……さん?」


 思いの外、テトラさん呼びかけが通じたのか、ドラゴンが翼を広げて地上へと降りてくるが……


「まずい! そこから離れろ!」


「えっ──」


『ギャオオオオ!』


 ドラゴンはテトラさんに、思いっきり火を吹いた。 

 くっ、間に合え!


 ドンッ!


 固めた魔力を空気砲のように押し出し、テトラさんを吹き飛ばした。

 少し乱暴だが、テトラさんは事なきを得る。


 だが……


『ヴォアッ!』


 ドラゴンは今のを契機に、そこら中に火をまき散らし始めた。


 エルフィオさんの言っていた通り、濃い魔力を持った木々が、ドラゴンの強すぎる火によって次々に燃えていく。


「あ、あ……」


 それをテトラさんは、ただ見上げるばかり。


「こんなはずじゃなかったのに……。うちは、うちはただ──」


「あぶない!」


 さらに手を伸ばそうとするテトラさんを、ドラゴンは容赦なく襲う。

 走り出していた俺は、次はテトラさんを抱きかかえてその場を離れる。


「気を確かに!」


「ご、ごめんなさい。すごくわがままというのは分かってる。……でも」


「君が言いたいことは分かるよ」


「え?」


「あのドラゴンは悪い奴じゃないと言いたいんだろ?」


「は、はい!」


 それは俺も分かっていた。


 魔力の巡りを感じ取れば、自然と伝わってくる。

 あんな速さで魔力が全身を駆け巡れば、たとえドラゴンであっても暴走にしてしまうに決まっている。


 つまり、今はただ、復活したばかりで力を抑えられていないんだ。

 それがイライラに繋がってしまっている。 


「だからってどうするんですか!」

「ルシオちゃん!」


 この事態に、ハイエルフの二人も焦りの顔が見える。

 たしかに、一見すると言い伝えの通り、もしかするとそれ以上の事態だろう。


 けど、こんな時こそ冷静に、だ。

 どんな時も、焦った方が負ける。


 それに、俺にはもう考えがあるしな。


「大丈夫。二人とも落ち着いて。俺の指示に従ってくれますか?」


「──! わかりました!」


「わかったわ。ここはあなたに任せるしかなさそうね。けどルシオちゃん、一体何をしようと言うの?」


 どちらも二つ返事で了承してくれて大変やりやすい。

 

 正直、ドラゴンに通じるかは分からない。

 それでも、前世であの効果を幾度となく実感した俺には、ドラゴンにも効くのではないかと考えていた。


 前世では、本当によくしてもらっていた。

 あまりの気持ちよさに、俺は完全にとりこになっていたからな。


 イライラした時、ストレスが溜まった時、仕事帰りなど。

 サロンに通った回数はすでに覚えていない。


 そんな俺の秘策は、 


「リラクゼーションだ!」

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