第28話 元社畜男の気持ち良いリラクゼーション!

 「リラ……なんですって?」

「何かは分かりませんが、お願いします!」


「おう!」


 リラクゼーションとは、心身の緊張をほぐすこと。

 またリラックスさせること(ルシペディアより)。


 前世の社畜時代は大変お世話になったよ。

 それはもう、癒し効果のあるものを自分で色々調べたりもしたほどに。


『ギャオオオォォ!!』


 そして、目の前にはストレスを爆発させているドラゴンさん。


 ブラック企業の仕事帰り、リラクゼーションサロンに通い詰めた男の、気持ち良いリラクゼーションをお見舞いしてやるよ!


「エルフィオさん、スフィル! なんとか反感ヘイトを買って時間を稼いでくれないか!」


「やってみます!」

「そんなに長くは無理よ!」


 ハイエルフの二人にお願いをして、俺は作戦を実行していく。


 まず、リラクゼーションに大切なのは“雰囲気作り”。


 ちょうど木々が丸くくり抜かれた、エルフの里のようなこの空間。

 芳香ほうこうが循環するには最適だろう。


 ならば、『アロマテラピー』だ!

 

 アロマテラピーとは、その名の通り、アロマ(芳香)でストレスを精神的に癒すテラピー(療法)のこと。

 ドラゴンの好みや癒しを感じる香りは分からないが、一つ確実なものがある!


 そう、俺のかぐわしい(らしい)魔力!


 これを使い、俺は異種族をメロメロ(?)にしてきた。

 ならばドラゴンにも効くはず……てか効いてくれ!


「ここ……そこ。あとはこの辺にも!」


 周りの草木に俺の魔力を存分に付与していき、この空間全体に俺の魔力の香りがただようようにする。

 収納魔法から取り出した、柑橘かんきつ系の果実の香りなんかもトッピングしたりしてね。


 仕上げに俺の魔力を全解放!


 するとどうなるか。

 天然のアロマオイル空間の完成だ!


 俺の読み通り、作業の効果は早速表れ始める。


「──!」

『これは!』


 だがそれは、


「「『良い匂い!』」」


 主にこっちサイドにめちゃくちゃ効いてしまった。

 ダメだ、みんな目がとろけてしまっている!


「みんな! しっかりしろ!」


「「『はっ!』」」


 くそっ、ドラゴンを抑えるためとはいえ、このままでは長くは持たない(主にこちらサイドの理性が)。


 とにもかくにも、第一段階はこれで終了。


 ドラゴンへの効果は……


『ギャオオオオ!!』


 まだ実感できない。

 それでも、段々とこの空間に俺の魔力の香りが行き渡るにつれて、効果も増していくはず。


 ならば、次の段階に移行しよう。


 リラクゼーションとは、心の癒し。 


 まずは天然のアロマオイルを使い、心地よい空間を作った。

 けどそれは、準備段階に過ぎない。


 では、この心地よい空間の中で何をするか。


 決まってる、『マッサージ』だ!


「ありがとう二人とも! 代わるよ!」


「お願いします! ルシオさん!」

「気を付けなさいよ!」


「はい!」


『ギャオオオオ!!』


 おー、お客さん、完全に怒り狂ってますね。

 そんなに怒っても良い事ありませんよ。


 それはそうと、そんな大きな翼をお持ちで、


「肩が凝りそうですね! よっと!」


 迫り来るドラゴンの突進をかわし、ドラゴンの翼を掴む。

 そのまま上空へと昇っていくドラゴンに、なんとかしがみつく。


 ドラゴンの態勢が平行になったところで、移動。

 そしてそのまま、翼が生えている辺りの少し上部に手を付いた。


 翼が生えているのは、人間でいう肩甲骨みたいなところだ。


「それでは、肩からみほぐしていきましょうか!」


 普通に肩を揉んでも、当然手が小さすぎて効果はなさそうなので、魔力を巨大な手の形へと変えて強く圧力をかける。


 ぎゅむっ、ぎゅむっ。


「これは相当にってますね!」


 いつの間にやら、俺の行きつけだったマッサージ店の口調が移っている。

 気分も乗るのでここままいこう。


「ギャ、オオ……」


 おっ、ちょっと効いてるか?


 それにこの魔力……俺のだ。

 魔獣のように香りは感じないが、上空まで魔力の流れを感じる。


 ドラゴンが飛ぶこの辺りまで漂ってきたみたいだな。


 となれば!


「さあ、どんどんいきますよ!」


 肩、背中、腰、ふくらはぎ!

 調子に乗って、俺は移動をしながらどんどんと揉みほぐしていく。

 

 ドラゴンを揉みほぐす魔力で作った手には、当然俺の香しい魔力も存分に込めているので、これは実質オイルマッサージだね!


 リンパもしっかり流されているだろう!

 果たしてドラゴンにあるのか知らないけど!


 うろこが硬すぎるので、触覚での効果は実感できないが、

 

「ア……アァ!」


 声は完全に効いている!

 効いている時は、こんなちょっとイケないような声が出るものだ。


「よーし、仕上げ!」


 ドラゴンからパッと離れた俺は、両手を前に最大限の魔力を溜める。

 テトラさんを吹き飛ばした空気砲のようなものより、ずっと強力な魔力の砲弾だ。

 

 それを、今までマッサージした箇所にしっかりと照準を合わせ、


「はあああッ!」


 一気に放つ!


「……! アッ! アァッ!」


 全弾着弾と同時に、ドラゴンは体をくねらせ、エビぞりのような姿勢で一瞬硬直。

 そのまま地面へとゆっくりと落ちていく。


「一緒に支えて!」


「はい!」

「分かったわ!」

『うむ!』


 俺は大声で地上のみんなに呼び掛けた。


 そうして体を支えられながら、ドラゴンはゆっくりと地上へと降り立った。







 昼下がり、俺たちの住処。


「ふう、一時はどうなるかと思ったなあ」


 ドラゴンをしずめたのは、もう一昨日の出来事だ。

 俺はいつものように、コテージの外で魔法の研究に励む。


 こうしてまたドラゴンの事を考えているのも、それほどあの出来事が衝撃的だったからだ。


「あれから結局、どうなったんだろうなあ」


 まあ、そんなこと考えてもしょうがな──


「!?」


 って、なんだ!?

 俺の体が思わずびくん! と一瞬浮き上がるほどに反応したのは、巨大な魔力の塊を捉えたから。


 このフェンリルの時の様なデジャヴを感じるような感覚。

 だが、フクマロと会った時とは比べ物にならないほどに強力な魔力。


 しかも、


「やっぱりこっちに向かってくる!?」


 声を上げたのも束の間、


『とおっ!』


 どがああああん!


「なああ!?」


 俺の目の前に、突然隕石かと思う程の衝撃が飛んできた。

 落下地点からは煙が上がり、様子がよく見えない。


 そして数秒後、


『あはっ!』


「!?」


 煙の中から、高めの笑い声がする。

 な、何事だ……?


 そうして姿を現したのは……


「女の子?」


『ふっふーん』


 なんとも可愛げな女の子だった。


 見たところ、小学校高学年、もしくは幼めの中学生ぐらいの顔立ち。

 赤みがかった黒髪のロングツインテールと、燃えるような紅眼こうがんが特徴的だ。


 身長は顔立ちに違和感のない小さめで、胸も少し控えめ。

 腹だしの服にショートパンツという、開放的な服装なのでスタイルがよく分かる。

 

「ちょっと! 今の音は!?」

『何かあったのか!』


 俺の元に急いで駆けつけてきたのは、リーシャとフクマロだ。

 あんな爆弾みたいな音がすれば当然だろう。


 だが、そんなことも気にせずに女の子は続けた。


『ルシオね! 会いに来てやったわよ!』


「え? 俺に?」

 

 どういうことだ、こんな子全く知らないぞ。

 そうして反応を示したのはリーシャ。


「ルシオ……誰この子。知り合い?」


「さ、さあ……」


『ひどい! あんなことまでされたのに! 思い出すだけでも……きゃー』


「は、はあ!?」


 突然そんなことを言いながら、女の子は内股で体を抑えた。


「ほう……? ルシオ、これは詳しく話を聞く必要がありそうね」


「リーシャ! ちょっと待ってってば!」


 拳をパキポキ鳴らすリーシャを必死に抑える。


「というか! 君は本当に誰なんだよ!」


『もう! 本当に分からないの? しょうがないわね!』


 そうして開き直った女の子は魔力を解放し、高らかに声を上げた。

 って、この魔力の迫力は……まさか!?


『あたしはドラゴン! ドラゴンの『ドラノア』よ!』


「「『ええええ!?』」」


『ふふーん、驚いた?』


 まさかの正体。

 そんなドラゴンの再来に混乱した俺は、状況を整理するかのように、ふとドラゴンを鎮めた時の事を思い返していた。





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