第29話 万事解決、のはずが……?

 ドラゴンは俺たちに支えられ、ゆっくりと地上へと降り立った。

 俺の『重力魔法』がなかったら、当然持ててはいないだろう。


 とにもかくにも地上に降り立ったドラゴンは、横向きになり、体をぴくぴくっとさせている。


「す、すごいわね色々と……。一体、何をしたのかしらルシオちゃん」


「さあ、なんでしょうか……」


 このドラゴンの姿を見て、俺も少々やりすぎたかもと思っている。

 いかがわしい意味ではない、決して。


「とりあえずはおとなしくなったので、よしとしましょう」


「え、ええ……」


 俺は強引に話を終わらせた。


 それにしても、


「すごいな……」


 辺りを見渡すと、その不思議な光景に目を奪われる。


 しゅううう……。


 ドラゴンが放った火で何本か木が燃えていたみたいだが、周りの木々に燃え移ると同時に火は勢いを弱める。

 そうして、火がついていた木の火も段々と消えていく。


 俺たちは何もしていないのに、それが当然の自浄作用であるかのように、木から火が消えていく。

 燃えていた跡が残るが、それも濃い魔力によってどんどんと薄くなっていく。


 神秘的で、不思議な光景だ。


「不思議よね」


「はい」


 俺よりも何百年も多くこの森に棲む、エルフィオさんがこう呟くのだ。

 この森の不思議さは、ちょっとやそっとで計れるものではないのだろう。


 そして、


「ごめんなさい、エルフィオ……」


 テトラさんだ。

 ドラゴンが落ち着いてしまった今、彼女の味方はいなくなってしまった。


「テトラ、こっちにきなさい」


「はい……」


 エルフィオさんに言われ、若干下を向きながらテトラさんはすーっとエルフィオさんの元へ近づく。


 そうしてエルフィオさんが取った行動は……


「──! エルフィオ……?」


「辛かったね、ごめんね」


 優しくテトラさんを抱いたことだった。

 

「ちょ、ちょっと……」


「いいから。おとなしくしてなさい」


「……」


 エルフィオさんの、何も言わさぬような抱擁ほうよう

 それはエルフの里長であり、テトラさんの双子の姉として、全てを包み込むような優しい抱擁ほうようだった。


「うち、許されるって言うの……?」


「許されるも何も、あなたはただドラゴンを助けた。それだけじゃない」


「……エルフィオぉ」


 テトラさんは、エルフィオさんの肩で涙をこぼした。

 

 エルフの里の長はエルフィオさんだ。

 彼女が何も罰せないのであれば、周りがとやかく言うことは何もない。


「そういうことなんだけど、分かってくれる? スフィルちゃん」


「はい。わたしも、同じエルフの仲間として放ってはおけません」


「二人とも……」


 うん、丸く収まったみたいだな。

 良かった良かった。


 エルフィオさんがさっき言った通り、当時の里の者はすでにいないらしい。

 俺たちへの待遇と言い、今の里のエルフさん達は、とても彼女を迫害するようには見えない。


 ましてや里長がこのエルフィオさんだ。

 慎重にはなるかもしれないが、里に戻るにしても悪い様にはならないと思う。


 また今度、里に会いに行こう。


 と、そんな中で、


「!」


 俺たちの後ろで、何やら魔力を察知した気がした。

 魔力の場所から、それほど大きくない小動物のようなものかと思ったが……


「ルシオ、どうかしたの?」


「あ、いや、なんでも……」


 俺以外は気づいていないみたいだ。

 やはり気のせいだったか?


 俺がぼーっとする中、エルフィオさんが口を開く。


「それで、どうしようかしらねぇ。このドラゴン」


 そうだ、テトラさんとの問題は解決したが、こちらも対処しないといけない。

 このまま、いつまでもここに放置というわけにもいかないだろう。


 そうしてみんなで頭を悩ましていると、


『あたしに、魔力をくれないか……?』


「え!」


 しゃ、しゃべった!?

 まあ、この森に棲むものはみんなそうだし、今更と言われればそうなんだが。


 急なことなのでびっくりしてしまった。


「ていうか、魔力って……?」


「いやいやルシオちゃん。君以外にいないでしょ」

『うむ、我もそう思うぞ』

「私も。というかそれ以前に、魔力を分け与えるなんて所業しょぎょう、他の誰にも出来ないから」


 エルフィオさん、フクマロ、ついでにフクマロからぴょんと出てきたリーシャも同意を示す。

 正直、俺もそうだとは思っていた。


 思っていたけど、


「どうして急に?」


 純粋な疑問をぶつけてみる。

 嫌とかではないんだけど、興味本位で。


『あたしは暴走してしまっていたのでしょ? それをおそらく、あなたたちが鎮めてくれた。本当に感謝するわ。そして……』


 ドラゴンは、その大きな目で俺の方ををじっと見た。


『その直接の要因は、その魔力。その魔力で、あたしは正気を取り戻したの』


「そ、そりゃどうも」


 効いたのだろうなー、とは思ったけど本当にそうだったか。


 というか「あたし」って、女性だったんだな。

 そもそも、ドラゴンに男女があるのかも分からないけど。


 でもとりあえず、そういうことなら


「わかったよ。……これでどうかな?」


『……! これよ、この魔力よ……!』


 ドラゴンの頭をでるように手を当て、それなりの魔力を流し込む。

 ドラゴンの魔力量からしたら、ほんの微量なのだろうけど、量というより“俺の魔力”をたのしんでいるよう。


 そしてしばらくすると、


『助かったわ! これならあたしは!』


 バサッ! と翼を広げ、ドラゴンは飛行態勢に入ろうとしている。

 先程までの翼の圧はなく、俺たちにも配慮してくれてるように思える。


「待って! どこにいくんだ!」


『安息の地よ。大丈夫、もう騒ぎは起こさない。その魔力に誓ってね!』


 こうして、ドラゴンは飛び立っていった。







 そして、今。


「飛び立っていったんじゃなかったのかよ」


 一旦落ち着いてもらい、俺たちは話を続けることにした。


『あたしのこと? あれは、魔力を供給しにいったのよ! この姿にもなりたかったからね!』


「その姿って……人間を真似ているのか?」


『うーん。よく憶えてないけど、昔こんな姿をした奴と戦った記憶がなんとなくあるのよ。たしかその時に真似たのね!』


「え、それって……」


 俺がこの森にくるきっかけになった本『森のけんじゃのたんけんきろく』の、“けんじゃ”じゃないのか?


『さあね! 細かい事は忘れちゃったわ!』


「そ、そうなのか。じゃあまあそれは良いとして、どうしてここに?」


『どうしてって、決まってるじゃない』


「ん?」


 待て待て、何を言い出す気だ?

 すごく嫌な予感がする。


 そんな俺を予感を裏切ることなく、さも当然かのようにドラノアは言い放った。


『あたしは今日から、ここに住むわ!』


「ええええ!?」


 実に本日二度目、俺のきょうがくする声が辺りにひびき渡った。

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