【完結】魔法才能マンの自由気ままな辺境スローライフ~王族を追放されましたが、前世の知識で未開の森を自分好みに開拓していきます。あれ、なんだか伝説の存在も次々に近づいて来るぞ?〜
第25話 迫る里の危機、力の象徴とも呼べる存在
第25話 迫る里の危機、力の象徴とも呼べる存在
「魔力を奪われているですって!?」
「はい。食物を恵む光、それに集まるはずの魔力がそれはもうごっそり。バレないよう全てを持って行ってるわけではないですが、かなりの量です」
「そんなに! まさか……」
「エルフィオさん? 何か心当たりが?」
「……いいえ、なんでもないわ」
明らかになにかに思い至ったみたいだったが、隠したがっている様子。
深くは突っ込まないでおこう。
「それにしても、誰が、どうしてそんなことを!」
この事態に、スフィルも声を上げた。
エルフィオさん・スフィル共に、ショックを受けたようだ。
こうなってくると、単に奪われていることだけの問題ではないからな。
神秘の樹から魔力を奪われているということは、相手は神秘の樹の存在を知っており、さらに里に仇なす者かもしれない、ということだ。
精霊の力で認識されないことによって、守られてきたこのエルフの里。
今回の件は、下手をすれば里の危機ですらあるのだ。
「ルシオちゃん、その回路は辿れるの?」
「ええ」
「お願いしても?」
「もちろんです!」
それでもエルフィオさんは前を向く。
里長である彼女は、里を守る使命があるのだ。
ならば俺も、出来ることがあるなら全力で手伝いたい。
「二人は?」
俺は行くと決めた。
だが、この先は危険がある可能性がある。
リーシャとフクマロには確認を取っておきたい。
「私も行くわ。ここまで聞いて、私だけ帰るなんて言えない!」
『我もだ。エルフィオ殿にも世話になったことがある。ここは恩を返すとしよう』
二人も付いてくる意思を示してくれる。
「ありがとう、二人とも」
「私からもありがとうございます!」
「ありがとう、フェンリルちゃん、リーシャちゃん」
これで意思は揃った。
「では、私の里の方からも──」
「いえ」
エルフィオさんが、里からも救援を出そうとしたところを俺が止める。
「ルシオちゃん?」
「この先には何か危険があるかもしれません。それに、里に危機が迫っているとなれば、不安が広がって悪い方向に進む可能性があります」
「じゃあ……」
「この六人で行きましょう」
「それは……いえ、ありがとう。そう言ってくれると助かるわ」
それからエルフィオさんは、里の幹部の一人にのみ事情を伝え、少し出掛けると言い残して里を後にした。
俺が魔力を探り、ある程度の方向を決めて進む。
しばらく移動して、また魔力の行き先を探る。
地道で遅いが、この方法でしか辿れないので仕方がない。
神秘の樹の魔力を奪う回路は、かなり地中深くを通っていた。
深さだけでなく、複雑かつ感知しにくいのだが、俺の目は誤魔化せなかったな。
深ければ深いほど、探知するまでに多くの情報を読み取る必要があるので、それなりに大変だった。
それでも、美しいエルフや可愛いリーシャの応援があれば頑張れる。
男ってほんと単純だね。
「この辺だ……」
そうしてやがて、回路の出口を発見する。
俺の足が止まると同時に、みんなも足を止めた。
魔力を探りながらなので、かなり時間が掛かってしまった。
多分、フクマロの全速で一時間ほど、コテージからエルフの里と同じぐらいの距離は来たと思う。
だが、
「この辺で回路が切れてるんだ」
「そ。なら私の出番ね」
そう言うと、エルフィオさんが前に出る。
何をするのかと思えば、スフィルが一度見せた、祈るようなポーズ。
これは、精霊を呼び出している時の仕草だ。
そうして、すぐさまエルフィオさんを包むのは、スフィルよりも遥かに大きな黄緑色のオーラ。
里長ということもあり、精霊を使役する力はスフィルよりも数段上なのだろう。
「何をしてるんでしょうか」
ただ、何をしているのかは分からなかったので、こそっとスフィルに尋ねてみる。
超常現象への、俺の知的好奇心だ。
「精霊は姿形を隠すのが得意です。つまり、姿形を見つけるのもまた得意なのです」
なるほど、目には目を、精霊には精霊をってか。
それならば、相手もまた精霊を使役する者なのだろうか。
「見つけたわ」
そして、エルフィオさんが手を十時の方向に差し出す。
「はっ!」
突き出した手から、精霊の黄緑色のオーラが前方へと飛び出す。
そうして、空間に穴が開いたように見えた。
「!」
丸くぽっかりと空いた、空間が裂けるような穴。
その先には、今まで見ていた景色とは全く違った場所が広がる。
今まで見ていた景色が、幻だったことを裏付けるような入口だ。
これが精霊の力、そして森全体を幻のように見せている力か。
すごいな、もう理論とかそういうものでは説明できないかもしれない。
俺の好奇心は増す一方だが、結論に辿り着けるかは分からない。
まあ、今はともかく!
「行きましょう」
「はい」
入口が開かれたと同時に、俺は爆大な魔力を感じ取っていた。
それは、間違いなく神秘の樹の魔力を吸っている正体の魔力。
ここまでのように手を付いてじっくり探知するまでもなく、全身にひしひしと伝わってくるような、威圧的な存在感。
これだけの魔力、おそらくリーシャを含め、ここにいる全員が気づいていている。
この先に、何かとんでもない存在がいると。
「大丈夫か?」
「うん、ルシオ。ありがとう」
この中では唯一、ただの人間であるリーシャに声をかけて支える。
彼女も、この魔力を前にして進もうと言うのだ。
本当に肝が据わっている。
この先には、一体何が……。
そして、ゆっくりと警戒するように俺たちはその空間の裂け目へと足を踏み入れる。
その先に待っていたのは……
「なっ──!?」
周りの景色を眺める前に、俺たちの視線を一挙に集めたであろうその存在。
全身、赤みがかった黒色の大きな体に、飛ぶ際にはそれを支える大きな翼。
加えて、その存在の特徴ともいえる長い尻尾を持つこの姿……。
実際に見たのは初めてだが、一目で分かった。
エルフの里や俺たちの住処のように、開けた場所に眠っていたのは、
「ドラゴン……!!」
まさに、力の象徴とも呼べる存在だった。
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