第24話 壮大な森の真実と「神秘の樹」
里長であるエルフィオさんの家を奥の方へ進むと、ガラス板が付いていない窓のような場所があった。
そして、そこから見えたのが
「あれが、神秘の樹よ」
「すっげえ……!」
「綺麗……!」
『なんと!』
ラノベ大好き前世の俺なら、真っ先に「世界樹」もしくは「ユグドラシル」と呼んだだろう。
それほどに、神聖で見る者を目を奪う様な圧倒的な存在感。
大きさや太さは今まで見たものとは一線を画し、所々に大きな蛍火のような光が点在している。
その壮大さをさらに主張するのは、上部に生い茂った葉の部分。
あまりに巨大で周囲の木々を上から覆うような大きさのため、この辺は少し暗くなっている。
そして、神秘の樹の中腹部から吊り下げられた枝に、一際大きな光が二つ。
「左の光からは私たちエルフが、右の光からは恵みとなる食物が生まれるのよ」
俺たちが視線を落としたと同時に、エルフィオさんが丁寧に教えてくれた。
あれが……神秘の光。
心が落ち着くというか、何も考えられなくなるほどにうっとりと眺めてしまう、そんな光だ。
「近くで見てみる?」
「ぜひ!」
エルフィオさんに付いて、家から続く木造階段を降りていく。
里内からも行き来できるみたいだが、この階段で段々と近付いていく様はまた違う絶景だ。
「すごいなこれ……。近くで見るとより圧倒的だ」
「そうでしょう!」
スフィルが得意げに呟いた。
だが、ここで一つ疑問が。
「こんなの、森の外からは全く見えなかったような……」
「そうだったわねぇ。あなたたちは森の外から来たのだものねぇ」
「? どういう意味ですか?」
エルフィオさんは自分でも不思議そうに言った。
「この森は、不思議な魔力やその他色々な要因によって、外からはその
「なっ……」
「そして、私たちと密接にかかわりのある精霊も、その一部を担っているわ。精霊は、周りから認識されにくい性質を持っているの。視覚的にも、感覚的にもね」
「そんなことが……」
だからスフィルが温泉にいた時も、俺の魔力探知に引っ掛からなかったのか。
さらに言えば、その精霊の力によってこの里も通常では見つかりにくいと。
「だから、人間とは比較にならないほどこの森に棲む私でさえも、森の全容は全く分からない。もしかしたら、こんな樹が話にならないような場所も、存在するのかもしれない」
「神秘の樹が?」
「あくまで可能性の話よ」
「そう、ですか……」
話が一気に壮大になり、頭が追いつかない。
言ってることは理解出来るが、あまりの森の凄さにすんなりと受け入れられない。
それに、人間とは比較にならないほどって、エルフィオさんは一体おいくつなのだろう。
もちろんそれは聞けるはずもないが。
年にしろこの森の規模にしろ、もしかして人間の住む場所なんてほんのちっぽけなものだったんじゃ……。
そう思わせる様な、森の偉大さだ。
「でも、それをどうしてエルフィオさんが?」
「それは内緒ね」
「えっ」
エルフィオさんは、一瞬
過去に何かあったのだろうか、これ以上は聞き返せる雰囲気じゃない。
「じゃあそろそろ、見てもらえるかしら?」
「……あ、はい! そうですね!」
エルフィオさんに促され、俺も動き始める。
森の話に夢中で目的を忘れてしまっていた。
この森が、俺の想像なんて遥かに超える規模であることは分かった。
だが、今何か出来るわけじゃない。
今は、自分のやれることをやろう。
「どこにいるのかしらね、あの人……」
ぼそっと呟いたエルフィオさんの言葉。
俺が聞こえてしまったのは、言わないでおこう。
「さて」
俺が一人、神秘の樹の根元まで来る。
ここからは切り替えて、この事に集中しよう。
「うーん……」
それにしても、この圧倒的な樹を前にして俺が何が出来るのか。
とりあえずは、魔力の流れを探ってみるか。
神秘の樹に手を触れ、魔力の流れを探る。
「……!」
なんだよ、これ……。
今までとはまるで次元が違う。
もはや多すぎて、魔力の総量なんて計れたものじゃない。
俺の魔力量は、平均的人間の約五倍。
そして、フクマロはさらにその五倍は持つ。
そしてこの樹木は、そのさらに五十倍以上……。
少なく見積もった下限がその量。
俺は確信した。
この樹から生まれる食物が危機?
そんなのありえない。
さっき見たところ、里には三十人程のエルフしかいないだろう。
皆が一斉に料理を始めたからと言って、そんなの
「じゃあ一体、何が……」
引き続き魔力の流れを探る内に、一つ明らかにおかしな回路を発見する。
周りの木々や地中から魔力を集めるこの神秘の樹、その回路に逆行するかのような回路。
まるで、神秘の樹の魔力を奪っているような異常な回路。
それも、奪われている魔力は、食物が生まれるという光への魔力回路だ!
これが原因か!
「……ふう」
神秘の樹から手を離した瞬間、どっと疲れが出る。
魔力を探るというのは、探る物の情報を一気に頭に流し込むのと同じこと。
探るだけでこんなに疲れたのは初めてだ。
だが今はそれより、
「原因が分かりました」
「ほう……」
「本当ですか!」
エルフのお二方は驚いた様子だが、こちらサイドの二人は当然と言った感じ。
「ま、ルシオだし」
『さすがよの』
信用厚くて、ちょっと照れ臭いな。
「それで、原因はなんだったの?」
「……はい。神秘の樹は、どこかに魔力を奪われています」
★
<???視点>
「あともう少し」
もう少しでこの子が……。
うん、順調に流れてきてる。
神秘の樹からは取りすぎちゃったな、とは思ってる。
うちもお世話になった里だから。
けど、
「みんなには悪いけど、うちは……!」
ずっと守ってくれたこの子を、助けたいんだ。
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