第14話 自由気ままな辺境の大森林
リーシャとフェンリルは少し避難させて、別の作業を始めてもらった。
二人が離れたところで、俺は魔法を使い始める。
「んー」
魔力探知で地中の情報を探りながら、地面を
源泉からお湯を引き上げるためだ。
「お、あったあった。じゃあ次は……」
やがて辿り着いたお湯の源泉から、今度はパイプを通していく。
熱を冷まさないように軽い火属性魔法を刻んだ、木で作ったパイプ。
木とはいえ、魔力によるコーティングと、魔法結界を張り巡らされたパイプなので、壊れる恐れもないだろう。
物理・魔力、共に耐性はバッチリだ。
そうしてパイプを通したところは、土魔法で補強して元通りに閉じていく。
それを繰り返していけば、お湯を運ぶパイプが温泉の設置場所まで繋がる。
「ふう……」
リーシャがいたら「ふう、では済まされないわよ」などと言われそうだが、黙々と作業を続ける。
日本には、銭湯や温泉に関する法があった気がするが、そんなのは知らん。
この世界の生き物にとって一番重要な、“濃厚な魔力”という最強の成分を含んでいるんだ、誰からも文句は出ないだろう。
「よし、こんなもんか」
いとも簡単にやってみせたが、複数の魔法を同時に使い、慎重に進める必要があるので思ったよりは大変だった。
魔力というより気力的に疲れた。
さて、大分時間がかかってしまったが、俺の持ち分であるパイプ作業も終わったところで……
「おーい、そっちはどうだ?」
俺は後方の、温泉の外壁に向かって声を上げた。
温泉の施設作りを任せていた、フェンリルとリーシャの方だ。
本来の温泉を知る俺がやっても良かったが、大まかな説明や例は出したし、俺の固定概念を壊してより良いものが作れると良いな、と思い任せてみた。
温泉とは言っても、目指すのはスーパー銭湯のような娯楽も加えた温泉。
発想はあればあるほど良いのだ。
木や石など、もととなる材料は俺が用意した。
それぞれ近づけさせれば互いが魔法でくっつく、というとんでも性能付きで。
前世でいうロゴブロックのような感じかな。
そして、
「おおー! 良いじゃないか!」
俺が内装を覗くと、そこには予想以上に良い出来の土台があった。
「ふふーん、そうでしょ!」
『我も手伝ったぞ!』
大体は俺が説明していた通りに収まったが、所々に彼女たちならではのアイデアが詰まっている。
まずは、中央を占める一番大きな浴場。
石造りを基礎に、とにかく広めだ。
最初に浸かるような、一番オーソドックスな浴場だね。
そして何故か、浴場のド真ん中にこの森の木を立てたいらしく、時期によって花見も同時に出来るというのだ。
そもそも花なんて咲くの? と思ったが、咲かせる木もあるらしい。
良いアイデアなので採用、後に取り掛かろう。
「なるほど、良いね!」
あとは、お湯で滝行出来るスペースや、寝っ転がることが出来るスペース。
ただ、それぞれ高さや大きさが尋常じゃない。
あれ、絶対フェンリルが通常サイズでお湯を浴びたいだけだろ。
バリアフリーも異世界種族を考えると大変だな。
まあ、良し。
さらには足湯専用の場所や、俺が望んだサウナスペースなんかもある。
総じて言うと……
「素晴らしい!」
「でしょっ!」
『ウォンッ!』
森に来てから忘れがちだったが、リーシャは超優秀なのだ。
フェンリルのわがままも相まって、とても良い出来栄えになった!
洗い場など最低限必要なところは加えるとして、ほとんどこのままいこうと思う。
欲しい施設があれば、付け加えれば良いだろう。
出来は本当に良い。
本当に良いんだけど、さ……
「絶対パイプ足りないよね!?」
施設の多さ、予想以上の広さにそれは明白。
好きにして良いよ、とは言ったけどここまでとは言ってないよ!
「てへっ」
『ワォ~ン』
なんだそのリアクション……。
くそっ、こうなったらとことんやってやる!
俺も楽しみになって来たからな!
そうして、俺の苦労の上についに温泉は完成!
細かい部分は調整が必要にしても、とりあえずの
「すごーい! これが温泉なのね!」
『素晴らしいぞ!』
「はあ、はあ……。誰か俺を、褒めてくれ……」
俺は魔力、体力を使い果たして四つん這いになっている。
二人とも、温泉に夢中になって俺のことなんか忘れ──
「ありがとう! ルシオ!」
『本当に感謝する!』
「……! ははっ。いいえ、こちらこそ」
そんなことはなかった。
感謝の言葉と、二人の笑顔ですっと元気が湧いてくる。
頑張った甲斐があったなあ。
「ねえ、早速入っていい!?」
「もちろん」
「やったあ!」
リーシャは完成前からずっとうずうずしていたので、彼女を一番に入れてあげるのは決めていた。
彼女の可愛い笑顔を見れただけで、疲れもすぐに吹っ飛ぶ。
「では、俺たち男陣は去りましょうか」
『え、我は?』
「一応男でしょ。後でね」
『う、うむ……』
残念そうなフェンリルを連れて俺たちは去る。
リーシャがゆっくりと浸かった後で、俺たちも浸かれば良い。
男女を分けることも考えたが、家の風呂のつもりで使うのだし、それはいいかなと思った。
あと、これをもう一棟作れと言われるとまじできついから。
「すごーい!」
去り際、壁の内側からリーシャの声がした。
喜んでくれているな、良かった良かった。
グロウリアには、お風呂はあっても温泉施設はなかった。
天然のお湯の源泉がないのもそうだが、何より嫌われ者の俺が、ここまで大々的に施設を作ることも出来なかっただろう。
そんな理由もあって、平民のみんなに提供できたのは小物や娯楽のみだったのだ。
でも、今俺たちがいるのは、自由気ままに過ごせる辺境の大森林。
誰にも邪魔されることはないんだ!
『すごいな、お主は』
「見直した?」
『うむ、さらにな』
「照れるじゃん」
こうして俺たちは温泉を設立。
コテージ内には最低限必要そうな、トイレやベッド、テーブルなども配置して森での初日が過ぎた。
もちろんリーシャの後には、モフモフを堪能しながら俺もゆっくりと湯に浸かって至高を存分に味わった。
今日はすっごく濃い一日だったなあ。
でも、森での生活はこれが初日。
これからもたくさんやりたいこと、欲しいものが見つかることだろう。
魔の大森林、まだまだ楽しみがたくさんだ!
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