第13話 さらなる至高を求めて!
温泉とは至高である。
あの温かい湯、全ての疲れを取ってくれる気持ちよさ、裸の付き合い、覗き……おっと失礼。
最後のお約束展開は説明しなかったが、俺はこの良さを二人に存分に伝えた。
結果、
「今すぐ取り掛かりましょう!」
『我も手伝うぞ!』
こうなった。
リーシャはお風呂が大好きだからなあ。
けど大好きになったのも、実は俺が記憶を取り戻し、風呂の文化を広めてからだ。
というのも、元々グロウリア王国にはお風呂という文化がそこまで広がっていなかった。
それは、この世界の風呂の
まず、グロウリア王国領地内には温泉の様な、お湯が出る場所は存在しない。
水源から引っ張って来た水を溜め、火属性魔法で温める。
これは当時からも周りがやっていたことで、れっきとしたお風呂だ。
しかし、元々冷たい大量の水に、
もう冷え切った風呂に、どれだけお湯を足しても微妙な感じにしかならないあれと同じ事だ。
そのため、ぬるい水にさっと浸かる、もしくは水を浴びる、というのが主流だった。
でも、やはり俺は許せなかった。
記憶を取り戻した八歳の俺は、もはや娯楽・リラックス法の一つにまで進化した、前世の“お風呂”というものを思い出したのだ。
そこでまずは、元から温かい水を出すという、前世では常識だったことを思い出してすぐに研究に取り掛かった。
水を運ぶパイプに魔法を刻み、
そして、グロウリア王国ではお湯が出るシャワー、お湯を溜めたお風呂は大流行。
リーシャも、その
それと、後で言われて気づいたのだが、そもそも物体に魔法を刻むという所業は普通の人間には出来ないらしい。
けどすでに世間には出回っていたし、後の祭りだよねということで誤魔化した。
そして今。
そんなお風呂大好きなリーシャが喜ぶのは分かっていた。
けど、フェンリルまでこんな楽しみそうにしてくれるとは。
意外ではあるが、これは嬉しい誤算。
俺も、なおさらやる気が出るってもんだ。
だがここで一つ、問題が発生。
「フェンリルのサイズが……」
これほどの体を入れるとなると、どれだけ大きい物にすればいいんだ?
出来るは出来るだろうけど、かなり大掛かりなことになる。
そんな考えを巡らせていると、
『む、サイズ感が問題なのか?』
「問題というか、かなり大きくなるなってだけなんだけど」
『そうか。ならばこうしよう』
「え」
しゅんしゅんしゅん……。
フェンリルは、そう言うと見る見るうちに小さくなっていき……
『どうだ、これなら大丈夫そうか?』
俺たちの前にちょこん、と座った。
大体、前世の大型犬よりも少し大きいぐらいのサイズ。
四足歩行時で、縦に一メートルぐらい、俺の腰あたりまでのサイズになった。
この姿、この形。
「「……」」
『む、どうしたのだ。二人とも固まって──』
「「可愛いー!」」
『のわっ!』
俺は、リーシャと争うようにフェンリルに抱き着いた。
「リーシャ、俺が先だぞ!」
「嫌だ! ずっと抱いていたい、この可愛い生物!」
『や、やめろお前たち!』
フェンリルのサイズが小さくなったことで、抱ける範囲が減ったので、俺はリーシャと取り合うようにフェンリルにしがみつく。
リーシャが俺に反抗してくるようになったことに若干嬉しさを感じるが、ここは負けられない戦い。
この愛くるしい生き物は、放すわけにはいかないのだ。
『こ、この! 放さんかー!』
「うわっ」
「きゃっ」
フエンリルはぼんっ! という音と煙と共に、また大きくなってしまった。
『ふう、まったく』
まあ、こちらはこちらでモフれる部位が多いから良いんだけどねー。
モフモフ、モフモフ。
『我に逃げ場はないのか』
ありませーん。
って、それよりも
「そんな器用なこと出来たんだね」
『うむ。我は風を操る力と、これだけは昔から出来てな』
「そうなんだ」
なんとなく観察してみた感じ、魔法とはまた違った何かって感じだったけど。
風を操る力も割とイメージ通りだし、フェンリル固有の能力……なんてのも考えられる。
けど、それはまた今度。
今はとにかく、温泉作りに気を向けよう!
とりあえず、フェンリルのサイズでかすぎ問題もクリアされた。
では、もう一つの取っておくべき確認だ。
「言い出しておいてだけど、地中のお湯って使って良いものなの?」
『ああ、構わんぞ。そもそも、お湯とやらがあるのも知らなかったが』
「そりゃ助かる」
よしよし、こちらの問題も無事解決された。
ぶっちゃけ、ここが突破できないとアウトだったわけだが。
俺が魔力探知を経由して見つけた源泉は、泉の深くに広がる。
住処よりも、さらに広大な範囲を囲うように広がった源泉。
そのお湯は、範囲を狭めるにつれて段々と熱が魔力へと変換され、魔力が異様に濃くなり噴き出したのがあの泉だ。
そのため、泉は冷まされているよう。
一番手っ取り早いのは、泉から直接掘ってしまう事だが、あの泉は景観的に素晴らしいものなので残しておきたい。
となると、温泉施設は少し離れたところに作り、地中を伝ってお湯を冷まさないように持ってくるのが良さそうだな。
ゆっくりお湯に浸かりたい時も、気軽に入りたい時も使いたいので、場所はコテージの隣が望ましいだろう。
熱源は、俺が発明したパイプの原理を拡大させれば大丈夫。
「よし!」
そうと決まれば、早速作業だ!
「じゃあ二人とも、手伝ってくれよな!」
「うんっ!」
『ウォンッ♪』
元気な返事と共に、俺たちはさらなる至高を求めて作業に取り掛かる!
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