第12話 リーシャも大好きな“あれ”

 「「ごちそうさまでした」」


 俺とリーシャはいつも通り手を合わせた。


 あ~、美味しかった!


 相変わらず俺の胃袋を掴んだリーシャの料理。

 そこに、モグりんの魔力操作による野菜と、手が加えられたサラダが加わった。


 初の森での食事は大満足だ!


 だが、人間独自の文化である「ごちそうさま」に、魔獣サイド二人は不思議な顔を見せる。


 必ずしも真似る必要なないと思うけど、ここは教えてあげるとしよう。


「これはな、作ってもらった人や食材に感謝を込める言葉なんだ。だから食材にはもちろん、モグりんにも“ありがとう”って言ってるんだよ」


『そうだったのですか! では私も! 食材さん、リーシャさん、ごちそうさまでした』

『我も。ごちそうさまでした』


「うんうん!」


 リーシャが嬉しそうな顔をした。

 魔獣と人間がすぐにこんなにも仲良くなれる、料理って素晴らしいね。


 そしてやはり、リーシャは気になるようで、


「モグりん。私にも野菜の魔力操作、教えてくれる?」


『もちろんです! リーシャさんも師匠と同じぐらい、料理がお上手みたいなので!』


「──! 同じぐらい、ですって? ほう……」


 あ、まずい。


 モグりんに決して悪気はないだろうが、リーシャが大得意とする料理で、“同じぐらい”という単語が引っ掛かってしまったみたい。


 今の彼女は、ライバル心が芽生えた目をしている。


 ここは強引に話題を変えなければ!


「そ、そういえば! 君はこの辺に住んでいるの?」


『そうです。あ、言われて思い出しました。そろそろ帰らないとです! すみませんリーシャさん、また今度でもよろしいですか? では!」


「え」


 そうして気づいた時には、ぴゅーっと走って行ってしまう。

 話題を変えるだけのつもりが、モグりんを帰してしまった。


 帰る場所もあるみたいだし、近いのならすぐに会えるだろうけど、


「あ、魔力操作……」


 リーシャが残念そうに口を開いた。


「大丈夫だよ、俺にもなんとなくなら分かると思う。俺でよければ教えようか?」


「ルシオ……! うん!」


 せっかくこの森の食材の「野菜自体が変わる」という特性を使えるのなら、リーシャは使いたいだろうからな。


 初日の朝から怒涛の展開だったが、なんとかやっていけそうだ。

 そう実感した、お昼までの時間だった。







「ふあ~あ。……あれ?」


 真上から降り注いでいた陽の光が、やや西から差し込んでいることで時間の経過を感じる。

 大体三時ぐらいってところかな。


「みんなは……うわっ!」


 隣を見ると、ほんの少し口を開けて気持ちよさそうに寝息を立てるリーシャ。

 そして俺たちが枕にしていたのは、フェンリルのお腹部分だ。


 そっか、一旦お昼寝をしようって話になったんだった。


『起きたのか』


「あ、うん。なんか自然に」


リーシャこの者はよく寝ておるな』


「そうだね」


 リーシャが昼寝をする姿は珍しい……というか、見たのは初めてかも。


 メイドであり仕事人の彼女は、王城内では常に働いている状態だった。

 休憩はもらっていたけど、城内では気が抜けなかったのかもしれない。


 そんな彼女が、ここまでリラックスして寝ているなんて。


 気を張り続けた疲れもあったのだろうが、連れて来て良かったかもな、と心から思えた。


「イタズラしちゃえ、うりうり」


 こんな機会は二度とないかもしれないので、頬を突っついてみる。

 ほんのちょっとよだれなんか出しちゃって、可愛い奴め。


「ん」


 やば、起こしたか?


「……すー、すー」


 セーフ。


 こんな森にまで付いて来てくれたリーシャ。

 俺が、全力で支えてやらないとな。


 でも今は眠っているし、邪魔しない様にその辺でも散策するとしよう。


「リーシャを頼む」


『うむ』


 最強の用心棒に頼んで、俺は散歩を始めた。





「うーん」


 今一度、改めて生活について考えてみる。

 今のところ、衣食住は充実している。


 となれば、より快適にする事を考えたいのだけど、


「日常生活って、何してるっけ……」


 俺と言えば魔法の研究、修行。

 ってそうではなくて、リーシャも含めて考えなければ。


 細かいのは省くとして、寝る、ご飯を食べる……


「あ!」


 歩きながら考え事をしていると、一つの答えに辿り着く。


 来た時から感じていた、足元の“妙な暖かさ”。

 もしかすると……


「本当にあった!」


 地面に手を付き、魔力経由で地中の情報を探る。


 そして俺の仮説は当たっており、地中深くに“あれ”はあった。

 人が毎日することで、リーシャが大好きな源である“あれ”。


「となると……待てよ」


 地中から“あれ”を引き、魔法でコントロール、周りを固めれば……。


 発想から理論を構築。

 俺が最も得意とすることだ。


「うん、出来る。出来るぞ!」


 俺は成功を確信した。


「じゃあ早速!」


 俺はそれを伝えるため、フェンリルとリーシャの元へ急いで戻った。


 昼寝をしていた場所に走って戻ると、リーシャがちょうど目をこすっていた。

 今起きたのかな?


「おはよう、リーシャ」


「ルシオ……! み、見た?」


「見たって、昼寝のこと?」


 俺が聞き返すと、リーシャはこくこくと首を縦に振る。


「そりゃ見──」


「見てないわよね!」


「え、見──」


「見てないわよね!」


「……見てないです」


「よし」


 強制的に事実をじ曲げられた。


 昼寝の顔がそんなにNGだったのかな……あ、よだれの話か。

 これを聞き返すほどデリカシーがないわけでないので、ここでやめておく。


「それで、何かあったの? 走ってきたみたいだったけど」


「おっ、そうなんだよ」


 リーシャが聞いてくれたので、自然とこの話題になる。

 俺が伝えたかった、“あれ”についてだ。


 俺が思いっきりドヤ顔を決めると、「また何か企んでるよ」って顔を向けてくるリーシャ。

 そんな怪訝けげんな顔をしていられるのも今の内だぞ。


「聞いて驚くなよ?」


 俺は、“あれ”についての説明を始める。


 リーシャもフェンリルも、俺の話を聞けば聞くほど、興味を示し続ける。

 なんたって“あれ”は至高だからな。


 そうして俺の話が終わった頃には、


「ルシオ! お願い! 今すぐに作って!」


『我も入ってみたいぞ!』


 めっっっちゃ食いついていた。


 はっはっは、予想通り、いやそれ以上の反応だな。

 二人も良さに気づいてくれて良かったよ。


 リーシャは、お風呂が大好きだ。


 では、俺の考えていた“あれ”とは。


 俺は二人を前に、満を持して高らかに宣言した。


「俺はここに……温泉を作るぞ!」

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