第11話 リスちゃんのお料理

 「「料理!?」」


 ここにきて出てきた、また人間らしいその言葉に思わずリーシャとハモる。

 

 リーシャは俺とは違う純粋なこの世界の人間なので、まだリスちゃんからも若干距離を取っている。

 こんなに可愛い見た目なのだが、魔獣に免疫がないから仕方がない。


 ただ先程から、美容や料理といった「人間らしい」ワードには反応を示す。


 おっと、話を戻そう。


「本当にそんなことが出来るのか?」


『はい! 私の“得意技”とこの野菜を使えば出来ます! それに料理の師匠もいますので!』


「へえ……」


 “得意技”ってなんだろう。

 料理とはまた違うのかな?


 そもそも、料理という概念があることが意外だ。


 そしてフェンリルにモグりん、さらに料理の師匠もいるとなれば、この森にはそれなりに生物が生息しているのだろうか。


「フェンリルは師匠については知らないの?」


『うむ、知らないな。サラダは時々モグりんこやつに作ってもらうがな』


『今度フェンリルさんにも紹介しますよ!』


 フェンリルとモグりんは思ったより仲が良さそうだ。


 それはそれとして、


「ぐう~」


「もう、ルシオったら」


「ははっ、わるいわるい」


 俺のお腹が鳴ったのが示すように、時間帯はちょうどお昼頃。

 タイミング的にはぴったりかもしれない。


「じゃあ、モグりん。お願いしてもいいかい?」


『任せてください!』


 そう言うとモグりんは、早速準備に立ち上がった。





 リーシャはモグりんが何をどうするのか興味津々なようなので、俺とフェンリルで野菜を採ってくる。


「本当に、見れば見るほどに瑞々みずみずしいなあ」


『そうであろう』


 俺は、明るい黄緑色の球状の野菜を手に取る。

 若干違う部分はあるが、見た目はレタス。


 周りをおおう葉の部分にはつやが出ていて、濡れているわけではないのにキラキラと輝いて見える。

 これも濃厚な魔力の影響なのかな。


 光っていたらどうってわけではないけど、やはり見た目が良いと食欲は湧く。


 そして、


「う~ん! やっぱり美味しいね!」


 パリッと一口。


 味や食感もレタスって感じ。

 そのままちぎって皿に盛るだけでも、十分な程に完成度が高いと思う。


『だが、それだけではないぞ』


「……? それってどういう……」


『今に見ておくがよい』


 美味しいだけではない?

 そんなフェンリルの意味深な発言は、すぐに理解することになる。

 

「おーい、持ってきたぞー」


 フェンリルと共に、球状の野菜をいくつか収穫し、モグりんの元へ戻る。

 すると、リーシャが大興奮していた。


「ねえ、ルシオ! モグりんったらすごいのよ!」


「なにが?」


 さっきまで怯えていたが、モグりんともうまく馴染なじめたようだ。

 彼女の単純さは、嫌いじゃない。


「モグりんったら、野菜を変化させるの!」


『えっへん!』


「?」


 リーシャの言っている意味が分からなった。

 変化、とはどういうことなのだろう。


『では実践して見せましょう!』


「お、おう……」


 そう言うと、俺が収穫してきた黄緑色の球状野菜を小さな左手に取った。


 そして、


「何をしているんだ……?」


 小さな右手で、何やら野菜に魔力を込めているようだ。

 魔力を送り、何か内部から変えているような、そんな感じ。


 そうしてものの十秒ほどで、


『出来ました!』


「……え?」


 見ているだけでは何をしたか分からなかったが、野菜は若干、明るい黄色味が増したように見える。


「食べれば良いの?」


『ぜひ!』


 俺は球状の葉をちぎる。

 あれ、さっきよりも手応えがある?


「!」


 むしゃりと食べた瞬間に手応えの正体が分かる。

 

 この味、この硬さ。

 さっきまでとは明らかに違う。


 これじゃまるで、


「キャベツじゃないか!」


「そうなのよ! モグりんは野菜自体を変えてしまうのよ!」


「そんなことが……?」


 と不思議に思うが、モグりんの次の一言で納得がいく。


『この野菜を形作る、魔力の質を変えたのです』


「魔力の質……あ、なるほど」


 この世界の生命は、全て魔力が元となって出来ている。

 それは、人や魔獣だけでなく野菜などの植物も同じ。


 前世で言う「水素」や「炭素」などの元素が、この世界では全て魔力なのだ。


 なので、小さな魔力の粒がそれぞれ微妙に違う性質を持っていることで、魔力は水にも空気になる。


 それを応用して、レタスからキャベツにしたのか?

 野菜そのものを変えてしまうなんて、俺にもなかった発想だ。


 というのも、これはおそらく野菜の方も変わりやすい性質である必要がある。

 グロウリアで育てていた野菜では、到底出来なかっただろう。


 この森の、濃厚で上質な扱いやすい魔力を吸っているからこそ出来る事だと思う。


「魔力操作で野菜そのものを変えてしまう、ってか」


『そうだ。これがこの森で出来る野菜の特徴だ。さすがに、野菜から肉にするなんてことは出来ないがな』


 フェンリルが「それだけではない」と言っていたのは、この特徴のことね。


 たしかにこれはすごい。 


 この畑の野菜、それほど種類が多くないとは思ったが、一つの野菜から多種類に変化させられるとなると、話は別だ。


 好みや気分で味・食感を細かく変えられるし、似た野菜の分は畑を増やす必要もない。


 キャベツ・レタス・白菜、ピーマン・パプリカなど、似通った野菜はたった一種類育てるだけで全て食べられるんだ。


 すごいな、魔の大森林。

 すごいな、モグりん。


『我は出来ぬが、たまにモグりんがこうして味を変えてくれることで、我も同じ畑の野菜を食べ続けられるのだ』


「ああ、納得だよ」


 野菜が美味しいには間違いないが、自分なら飽きてしまうかもとは思っていた。


 それは神獣様であっても同じらしく、モグりんの得意技、“魔力操作”は大いに役に立っているようだ。


「ねえねえ。私も、料理していい?」


 そんなすごい野菜を見てか、我らがシェフがやる気を出した。

 リーシャは料理が大得意だ。


『ほう、お主は料理が出来るのか』


「リーシャの料理はまじで美味しいんだぞ」


『私も食べてみたいです!』


 そんな彼女を断る者がいるはずもなく、リーシャもモグりんに混じった。

 ここに、人間と魔獣の共同作業が成立だ!


 モグりんが様々な野菜に変える。

 それをリーシャが、収納魔法が付与されたかばんに保存してあった肉や、調味料で料理をしていく。


 そうして、


「出来た!」

『出来ました!』


 二人の料理人による作業。

 森に来て初めての調理されたお昼ご飯は、


「豚肉とキャベツの甘辛炒め、と」

『レタスの和風サラダです!』


 森の中とは思えない料理が出てきた!

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