第22話 素晴らしきエルフの里!

 スフィルの指示を従いながら、三人でフクマロの背中に乗って移動をした。


 スフィルは空を飛んで移動できるとのことだが、フクマロの速さには到底及ばないらしい。


 フクマロとスフィル、互いに面識は無かったが、エルフの里長とフクマロが知り合いのようで、「フェンリル」について話を聞いていたようだ。


 そうして、フクマロの速さで一時間程度。

 エルフの里に到着した。


「おお……これが!」


「はい。私たちの棲む『エルフの里』です」


 フクマロの住処のように、地面の木々が広く円形にくり抜かれた里。


 里内に地上から生える木はないが、範囲外から里をおおう様に伸びた木々が高い場所で日陰を作り、木漏れ日が差し込む素晴らしい景観だ。


 家は木造で、中央の道を避けて左右にまばらに建てられている。

 

 そして、中央の道を進んで行った先にある一際大きな家。

 どう見ても、あれが『里長の家』だろう。


 スフィルに続いてエルフの里に足を踏み入れると、入口から一番近くの家のエルフさんがこちらに寄ってくる。


 顔はスフィルより若干大人びているが、全身白い肌に長い金髪、横に伸びた耳の特徴は一致する。

 この方もとても綺麗なエルフだ。


「スフィル! 帰ったのね! じゃあ早速、料理を──」


「ごめん、後でもいい? 今は案内しなくちゃだから」


「あ、うん、分かった! 珍しいね、お客さんなんて」


「フェンリルさんの所の人たちだよ」


「なるほど。こんにちは。よくぞいらっしゃいました」


 スフィルに話しかけてきたエルフが、こちらを見て挨拶をしてきた。


「これはどうも、こんにちは」


「楽しんでいってくださいね」


 エルフさんはにっこり笑顔だ。


 へー、意外と受け入れてくれるんだな。

 閉鎖的な空間に見えたが、心が広いらしい。


 まあスフィルの態度から見て、それはないか。


 そして、早速出てきた「料理」の言葉。

 スフィルが言っていた通り、本当に流行っているみたいだ。


 そもそも、生きていくために必要なことである料理が「流行る」の意味は理解しかねるが。

 今までは、魔獣のように素材の味を楽しんでいたのかな?


「本当に料理が流行っているのね……」


 リーシャの第一声が表しているように感じ取れる、里全体の雰囲気。


 スフィルと似た見た目をした人たち。

 全員、エルフなのだろう。


 その人たちがこぞって、家の前で必死に料理をしている。


「すごいな……」


 鍋や調理器具を持ち出して複数人で集まったり、一人で黙々と料理をする者など、色んな人が見られる。


 そこでまた、気になったことが一つ。

 中央の道を歩く中でスフィルに尋ねる。


「男性っていないんですね」


「そうですね、正確には私達にはのです。というのも、私達は生殖で生まれるのではなく、神秘的自然現象によって偶発的に誕生します」


 うーん?

 よく分からないが、


「ある日突然、パッと生まれるってことですか?」


「そうです。私達は皆、里の最奥にある“神秘の光”から誕生しました。簡単に言うと、魔力の塊です」


「ほうほう」


 里の奥から感じる、とてつもない魔力はそれだったか。


「それも、生まれてくるのは決まって人間で言う女性のような体を成しているのです。すみません、奇妙な話……ですよね」


「いいえ、とても素晴らしいと思います」


 俺はスフィルの言葉をきっぱりと否定した。


 女性のようなエルフしかいない? 

 なんだそれ、最高の里じゃないか!


 別に男性が嫌いなわけじゃない。

 けど……わかるだろ? 同志よ。


「ルシオ、何か顔に表れてるけど?」


「そんなことはないと思います」


 リーシャの鋭い視線から、ぱっと顔をそむけた。





 そんな素晴らしき事実などを話しながら、何事もなく里長の家の前に着く。

 皆さん料理に夢中のようで、あまり話しかけられることもなかった。


 ちょっと残念。


「近くで見るとますます大きいな」


 そうして、目の前の里長の家をじっくりと見る。


 全て木造なのは他と変わらず、違うのは家自体の大きさと、階段の長さ。


 里に見られる家は二パターンあり、地面に直接建てられている家と、地面から階段があってその先に家が建てられているパターン。


 里長の家は後者で、三十段にも及ぶ長い階段の先に大きな家が建てられている。

 下からは四本の太い柱で繋がっており、大体マンション三階分ぐらいの高さだ。


 三階分と聞くとしょぼく聞こえそうだが、約六メートルなので意外に高い。


「少し、待っていてください」


「分かりました」


 木造階段を登り切った先で、スフィルさんに止められる。

 そしてすぐさま、彼女は扉の前で祈るようにして両手を握り合わせた。


 何をするのだろう? と見ていたのもつかの間、


「!」


 スフィルの背後に現れた、黄緑色の優しい色をしたオーラのようなものが、彼女を包む。


 そうして、そのオーラは里長の家の扉をそっと押した。


「すごいわね……」

『クゥン……』

 

 今のは『精霊』だな。

 精霊とは、あらゆる物に宿るとされる前世で言う霊的存在。


 おそらく普通の人間は聞いた事すら無く、俺も実際に目にしたことはない超常的な存在。

 呼び出した際には、一時的にとんでもない力を授かると言われている。


 それをこうも簡単に呼び出すとは。

 「エルフは精霊と強い結び付きがある」、古い文献の話は本当だったか。


「では、こちらです」


 この扉も、おそらく精霊の力を借りなければ開かないのだろうな。

 

 警備や外壁もないし、やけにオープンな里だとは思ったが、精霊の力があるから保てているのか。


 そうしてエルフの里長の家に入ってすぐ、


「帰ったわね、スフィルちゃん。そして……久しいわね、フェンリルちゃん」


 奥に見える大きな椅子に、エルフの里長と思わしき人が鎮座ちんざしていた。





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